【短編】ぼっちからいきなり声優に抜擢された幼馴染が心配だ。〜配信で話してた「親友と〇〇した」系のエピソード、全部俺との話だよな?〜

石田灯葉

陽毬とスタバ

れいくん、わたし、またやっちゃったよお……」


 夜11時。


 5つ下の幼馴染・北沢きたざわ陽毬ひまりは、泣きそうな顔で俺の部屋の扉を開く。


「ああ、見てたよ。生配信」


 デスクに座って仕事をしていた俺は、サブディスプレイを指差して応じた。


 どうやって入ったんだ、だなんて今更なことは尋ねない。


 生まれた頃からマンションの隣の部屋に住んでいる陽毬はこうして昼夜問わず俺の家うちに入ってくる。というか、陽毬が入ってこられるように、うちの家族は、家に誰かがいる時には鍵をかけないのだ。


 元々は陽毬の両親が共働きのため、仕事から帰ってくるまでに何か困ったことがあった時のために、自由に出来るようにしていたのだが、その習慣は陽毬が高校生になった今も続いている。


「どうしよう伶くんー……!」


「どうもしなくていいんじゃないのか?」


「そうはいかないよおー!!!」


 わめきながら、俺のベッドにダイブし、赤面を隠すみたいに枕に顔を埋める陽毬。


「うううううう」


 枕に吸音されても届いてくる、よく通る声に、俺は今日の彼女の出演した配信番組でのやりとりを思い出していた。


* * *


 今日陽毬が出演したのは、先輩声優・玉川たまがわ瑠璃るりさんが月に一回行っているニコニコ生放送番組『タマにはゆルリと!』。極めてオーソドックスな、ゲストを呼んだり呼ばなかったりして、他愛無い話に花を咲かせたり、ちょっとした企画ゲームをやったりするような番組だ。


 陽毬が今、悶絶しているのは、あのやりとりのことだろう。


「陽毬ちゃん、JKってやっぱり放課後にスタバとかで友達とだべったりするのー?」


「す、スタバ……も、ももももちろんですんっ!」


「あはは、ですんって! もう始まって30分経ってるのにまだ緊張してるじゃん! あたし、スタバだと新作とか出ててもいつも同じの頼んじゃうんだけど、陽毬ちゃんは結構新しいのトライするタイプ?」


「スタバ、、、スタバでは、その……あ! し、シロノワール! シロノワール食べます! いつも!」


「シロノワール……?」


『ん? 聞き間違いかな?』とばかりに眉間に皺を寄せる玉川さんのその仕草を、『え、あんなでかいの一人で食べてんの?』と解釈したらしい陽毬は、


「ひ、一人じゃないんですよ!?」


 と、若干変な言い回しで弁解する。


「その、一人じゃ食べきれないんですけど、れい……親友がいつも半分手伝ってくれるんです! それで、食べてて……美味しいですよね、シロノワール」


「え? あ、うん、そこじゃなくて……」


「はい?」


「シロノワールって……スタバじゃなくてコメダじゃない?」


「…………ああいうコーヒー屋さんのこと、全部スタバって言うんじゃないんですか?」


 一瞬の沈黙の後、玉川さんは「まじか、今時本当にこんな子いるの!? 天然記念物じゃん!」と涙が出るほど笑っていた。


* * *



「盛り上がってたじゃん、配信」


「だってさあ、伶くん見ててどう思った!?」


 枕に頬をあてるようにして、涙目で俺を見上げる陽毬。


「ゲーム機を全部ファミコンっていうおばあちゃんみたいだなあって思ったよ」


「おばあちゃん!!!」


 また「恥ずかしいいいい!」とわめきながら枕に顔をうずめ直す。……今日は枕を裏返して寝ることにしよう。


 とはいえ、配信的にはむしろおいしい展開だった気もするし、別に誰も傷つけていない。


 何をそんなに気にすることがあるんだろう、とは思うものの、


「絶対、エックスかっこ旧ツイッターでめちゃくちゃ笑われてるよお……」


 彼女にとっては全国の皆さんの前で醜態をさらしたという感覚らしい。

 ……『Xエックスかっこきゅうtwitterツイッター)』って、あのサービスのフルネームだと思ってるんじゃあるまいな?


「これまでもなんとかなってるじゃんか。大丈夫だろ」


「これまでも、って、こんな失敗何回もしてるのがやばいじゃん!」


 まあたしかに、今回のことが初めてではないのだ。


 この間は、ゲーセンの話をしていた時に、

「えー陽毬ちゃん、今度プリ撮りに行こうよー!」

「ぷりとり? ですか?」

「え、プリ知らない? JKなのに?」

「あーえっと……?」

「いや、うそでしょ! 写真撮ってくれる機械だよ!」

「ああ! はい、事務所に入る時に履歴書に貼るやつ撮りました! れい……親友に連れて行ってもらいました!」

「それ証明写真だね!?」

 という会話があったり。


 その前は、

「普段どこで服買うの?」

「さあ……? あ、今日は衣装です」

「え、『さあ……』って何?」

「え、いつもおか……」

 あさんが、と言いかけてやっと気づいたらしく、

「おか……『おかむら』とかで買いますね」

 と謎の店名を口にする。(『しまむら』から着想を得たと思われる)

「おかむら……?」

 とはいえ、そんな存在しないチェーン店の名前で誤魔化せるはずもなく、画面いっぱいに「??」が流れた直後。

「あ!」

「あ?」

「ゆ、ユニクロです!」

 時間差で超メジャーな服屋の名前を思い出したらしい陽毬が「?」の弾幕をかき消すように大きな声で言う。

「その前に聞いたことないブランドのこと言ってなかった?」

「言ってません! それに、ユニクロなら、れい……親友と一緒に行ったことがあります! 雨が降って服が濡れちゃった時に、着替えを買いに!」

「そんな状態にならないと服買いに行かないんだ!?」

 という会話があったり。


 そして、その親友というのはいつも俺だ。彼女は少なくとも俺の知る限り、俺以外に友達と呼べる間柄の人はいない。




 どうして陽毬がそんなに世間知らずなのかというと、それは、ずっと漫画か小説かアニメを読んで(見て)いる生粋きっすいのオタクだからだ。


 高校にはほぼ毎日通っているから引きこもりではないが、起きてから家を出るまでも、通学中も、仕事場への移動中も、帰ってきてから寝るまでも、そのほとんどはエンタメの摂取に捧げられている。


 小さい頃、俺の家でケーブルテレビのアニメチャンネルをずっと見ていた陽毬が、

「ねえねえ伶くん、わたし、世界中の物語、全部見たい!」

 と言うので、この世界にあるアニメを一生かけたら見切れるのかを計算したことがあった。


 が、しかし、計算するまでもなかった。

 当然、どんなに頑張っても全てのアニメ・漫画・小説を摂取することは不可能だ。


 その答えを導いた時の陽毬の絶望にかげる顔は、いまだに忘れられない。

 それから彼女は、かけられるほとんどの時間をエンタメの摂取にあてるようになった。



 そんな彼女がどうして声優になったかというと、異例のスカウトがきっかけだ。


 陽毬が特に熱心に見ていたシリーズの映画の上映記念で、監督とのリモート座談会イベントがあった。監督が作品についての一通り語ったあと、参加者が一人一問まで質問を出来るというものだ。


 陽毬の順番が回ってきて、彼女が声を発した瞬間、


「どうして彼女ヒロインは自分の命よりも主人公ヒーローの名誉を選んだのでしょうか?」


 時が止まった。


 画面の中で監督は目を丸くして、数秒の沈黙があり、視聴者や参加者が回線の不具合を疑ったころ、監督がゆっくり口を開く。


「……あなたの連絡先を事務局づてに教えてもらうことは出来ますか?」


 その質問のセリフと声が今ちょうど作っている次回作の新規ヒロインのイメージにあっているということで、配信直後に連絡があり、オーディションを受けて、あれよあれよという間に新人声優としてデビューすることになったのだ。


 オーディションに向かう陽毬に俺は少し驚いていた。彼女は『見る専』だと思っていたから。


「陽毬、声優やりたいのか?」


 そう尋ねたことがある。


「あのね、声優さんってすっごいと思うんだ! 普通だったら絶対に生きれなかったような人生を体験できるんだもん! ファンタジー世界にも行って魔法使いにもなれちゃうし、平安時代に陰陽師に可愛がられている化け猫にもなれるし、オーディション番組で負けたら処刑されるアイドルにだってなれちゃうの!」


「最後のはなりたいかちょっと微妙だけどな」


 でも、そう話す陽毬はとても輝いていた。


 小さな頃から、テレビにかじりついて、「こんな世界にいけたらいいのに……!」だなんてよく言っていたから、夢が叶った心地なんだと思う。


 そういえば、彼女が小さな頃に『将来の夢』に書いたのは『物語の中の登場人物』だった。




 だから、陽毬のことを応援したい気持ちは大いにある。


 が、しかし、令和の声優さんが避けて通れないのが……。


「人とお話するのが苦手なんだよお!」


 ラジオ、ニコ生配信、試写会イベントなど、今日こんにちの声優には話芸も求められる。


 しかし、生粋のオタクであり、『普通の日常』を送っていない陽毬はそもそもコミュニケーション能力が低い上に、女子高生に求められるトークが全然出来ない。


 オタクトークなら出来そうなものだが、彼女はあまりにも物語至上主義であり、ネタバレを出来なかったり、個別の作品名を出すのがはばかられることの多い配信番組ではその膨大な知識を披露するタイミングがほとんどなかった。


 そして、ほぼ毎回の配信で失敗(あくまで彼女的な失敗だが)をした後、いつも陽毬は俺に頼んでくる。


「伶くん、もうこういうことないように、スタバ一緒に行ってくれない?」


 俺を誘って、その体験をしようとするのだ。


「分かったよ。明日でいいか?」


「本当!? ありがとお……!」




 ということで、翌日、スタバにやってきた。


 陽毬はまだ駆け出しの声優なので、ファンに街で会うということもあまりないが、もしも誰かにあったとしたら、従兄弟いとこということで通そう。ということで、陽毬のマネージャーさんとも話はつけてある。


「陽毬、緊張しすぎだろ」


「キンチョウナンテシテナイヨ?」


 陽毬は右足と右手を一緒に出して、左手と左足を一緒に出して歩行している。


 おそらく初めてのスタバへの緊張と、店員さんとコミュニケーションを取ることの両方に緊張を覚えているのだろう。


 これがやりとりの一部始終だ。


「いらっしゃいませ」


「こ、こここんにちはすたーばっくすらての!」


 勢い余って走り始めたオーダーがスタート1秒でエンストを起こしたように止まる。


「てぃ、てぃー……?」


 ……ベタなところでつまづいたなあ、と思いつつも彼女のために助け舟は出さない。


「スターバックスラテの……ティー?を一つください。ティー……? お茶じゃなくてコーヒーですよね?」


「えっと、ティーラテではなくてエスプレッソのラテでいいですか?」


「エスプレッソ……。あの、コーヒーがいいです。大きさがティーです……。え、違いますか……?」


「スターバックスラテのトールサイズですね?」


「それだと思います……」


「アイスですか、ホットですか?」


「あ、あいす、です。冷たいのがいいです」


「かしこまりました。店内ですか? お持ち帰りですか?」


「それはわかります!」


 ぱぁ、と顔をほころばせる陽毬。そんなこと言わなくていい。


「お店の中で飲みます!」


「グラスでお作りしてよろしいでしょうか?」


「グラスで……? 他に何が選べますか?」


「あ、その……紙コップとグラスとが選べますが」


「あー……それはどっちでもだいじょうぶです」


「では、グラスでお作りしますね」


 そのあとお金を払い、所々危ういものの、陽毬はなんとかアイスラテを手に入れることが出来た。


「どうかな伶くん! 思ってた通りのものがもらえたよ!」


「ああ、そうだな」


 ほくほく顔の陽毬と共に空いている2名がけの席に座る。


 ちゅううう、と満足げにストローで吸い込む陽毬。「思ったより苦い?」とか言いながらも、美味しそうに飲んでいる。


「ていうかさ、ゲーセンの時も服屋の時もそうだけど、いつも配信でやらかした後に来るの、あまり意味なくないか? 同じエピソードってそんなに何回も振られるもんなの?」


「うーん? トークの対策って意味もあるけど、それだけじゃないよ?」


「そうなのか?」


「うん。アニメってやっぱり女子高生役がすっごく多いでしょ? 特にわたしみたいな新人がもらう役だと」


「まあ、たしかに」


 アニメに女子高生役が多い、というのはなんだか日本人のフェティシズムが透けて見えるような気がするが。


「最近はいわゆるアニメ声!みたいな演技よりも、なまっていうかリアル寄りの演技を求められることが多いでしょ? だから、実際に自分もそういう経験をして、そういうシーンがあった時にちゃんと実感を持って演じられるようにしたいの」


「なるほど……」


 昔からそうだ。陽毬はほわほわとしているように見えて、根が真面目で芯を持っている。


 彼女なりにいろんなことを考えているんだなあ、と感心していたその時。


「あれ、陽毬ちゃん? ……と、あれ、音響制作進行の上原うえはらさん!?」


 つい昨日の配信番組のニコ生主・玉川瑠璃さんが通りがかって声をかけてきた。


「……どうも」


 ……どうしてこうも俺は詰めが甘いんだ。従兄弟で通せない人に会ってしまった。


『音響制作進行の上原さん』とは俺のことだ。


 俺は今、主にアニメの音響関連の監督・音響監督を目指して、師匠について見習い兼音響制作進行の仕事をしている。


 各声優事務所とかけあって声優さんのスケジュールを調整してもらったり、スタジオをおさえたり、靴音や雨の音などのSEを収録してもらったり……といった仕事だ。


 玉川さんが現在出ているアニメにも制作進行として入っている。


「というか、あれ、陽毬ちゃんってスタバには来ないんじゃなかったっけ?」


「あ、その……昨日恥ずかしいこと言っちゃったので今日来てみようと思ったんです」


「ふーん……? どうして、上原さんと? 2人ってもしかして……?」


「ち、違います! 伶く……上原さんは、わたしのお隣さんなんです!」


「え」


 正直なことなのだから仕方ないのだが、もっと大きなことに玉川さんが気づく。


「じゃあ、いつも話してる『親友』って……」


「……あ」


 もう、陽毬にその場を誤魔化すことは不可能だった。ここで嘘をつくのは実際得策じゃないだろう。


「へえ……そういうこと。おかしいと思った」


「あの、瑠璃さん、その……」


 玉川さんは残念そうに俺たちを見る。


 別に女の世界が怖いとか、芸能の世界が怖いとか、そんな話じゃない。


 声優になるために努力を重ねている人なんてごまんといるし、蜘蛛の糸みたいなチャンスに何百人が手を伸ばしている。


 そんな中、幸運に幸運が重なったように見える彼女の成功を妬ましく思う人がいるのは、当然のことで。


「あの……」


 しかし、


「安心してください。別にSNSでつぶやいたりはしないし、喧伝けんでんするつもりもないから」


 玉川さんはそう言って微笑み、軽く会釈をして立ち去った。


 その言葉は嘘じゃなかった。




 しかし、問題は、その数週間後に起こることになる。




 俺の師匠の音響監督が、玉川さんの出演している作品に陽毬をキャスティングしたのだ。


 俺は一切口添えなどしていないが、玉川さんの胸中はおだやかではなかったようだ。


 アフレコが始まる前に、玉川さんが「上原さん、ちょっと良いですか」と、スタジオの廊下のすみっこに俺を連れて行く。


「上原さん、さすがにこれはどうなんですか? あたし、誰にも言ってませんけど、でも、本来うちの事務所の子で決まったはずの役ですよね?」


 不満と戸惑いと憂いを顔に出して、玉川さんがいうものの、


「僕が北沢陽毬をキャスティングしたわけじゃありません」


 俺は毅然と言い返す。


「北沢陽毬を僕がキャスティングするのは、『誰しもがコネじゃない』と認めてからです」


「はい……?」


「……見てもらえば分かるはずです」


 俺はそう言って、玉川さんをミキサー室(アフレコブースをガラス越しに見える部屋)に連れて行く。




 ちょうど、陽毬のアフレコが始まる時間だ。


「それじゃ、いきますよー」


 音響監督の号令に合わせて、すぅー……と、彼女は息を吸って、目を開く。


 陽毬の役は、主人公の男子に片思いしているものの、その気持ちを殺して主人公を後押しする役柄。


『あのね、勘違いしてるようだから言っておくけど』


 その目は、その表情は、何よりその声は、まるで他の人が憑依したかのようで。


「嘘でしょ……!」


 俺の右で、玉川さんがそう呟くのが聞こえる。


 聞いている俺たちに声だけで痛みが伝わるほど悲痛に、それでもそんな心を押し殺すみたいに、笑う。


『もう、あんたのコトなんか好きじゃないのよ、アタシ』


 まだ絵がないのに色づいた映像が脳内に浮かぶ。


『……だから、あの子のとこ、行って?』


 ミキサー室にうっとりとしたため息が広がる。


 陽毬の演技は天才的だ。


 その理由は明らか。


 彼女は、誰よりも多くの作品を吸収し、誰よりも多くの登場人物キャラクターを自分の中に住まわせている。


 そして、その感情をすべてを把握しているからこそ、どんなキャラクターでも自分の中に生み出すことが出来る。


「いつものふわふわな天然な陽毬ちゃんはどこにいったわけ……?」


 しかも彼女は、そのキャラクターに自分の全身をいとも簡単にゆだね、受け渡してしまうのだ。


「もう、その人キャラクターそのものじゃない……!」


 なんせ、彼女の将来の夢は『声優』じゃなくて、『物語の登場人物』なのだから。


「上原さん」


 すぐ右にいる玉川さんの身体の震えが俺にも伝わってくる。


「これじゃあ、『誰しもがコネじゃないと思う日』なんて、すぐに来ますよ? むしろ、もう来てるんじゃ……」


「逆です、玉川さん」


「え?」


「陽毬はすぐに、駆け出しの音響監督なんかじゃキャスティング出来ない声優になる。かたや、僕にはまだキャスティング権すらありません。だから、僕が音響監督になって、そこ・・に到達するまではキャスティング出来ないという意味です」


「ああ……」


 玉川さんは渇いた笑いを浮かべる。


「……納得できちゃう自分が、悔しいなあ」





 数週間後。


 俺は部屋で陽毬の出ているアニメを見ていた。俺が関わっていない作品だ。


『ちょっと待って。ティーじゃなくてトールよ、トール! コーヒー頼んでるのにお茶ティー出てきちゃったらどうすんのよ!』


「おお……」


 陽毬が演じている役(都会育ちの、つっけんどんに見えて実は世話焼き系ツンデレ系女子高生)が田舎から来たばかりの主人公にツッコミを入れていた。


 あの日の予行演習が確実に演技を良くしている。俺としても密かに鼻が高いな。


 ……なんてことを思っていると、バタン、と部屋のドアが開く。


「どうしよう、伶くん……」


 今ちょうどスピーカーから聞こえていたのと同じ声——だけど、別人のような声音で、陽毬は言う。


「今度はどうした……?」


「次の作品の中で、主人公の男の子と、そ、その……」


「?」


「ら、ら……」


「ら……?」


「ラブホテルに行くシーンがあるの!」


 …………それはさすがに無理では?

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