第57話 後期クラス対抗戦

【後期クラス対抗戦】


 11月。

 後期クラス対抗戦が始まった。

 2日の日程である。


 初日はクラス選抜格闘戦から始まる。

 3人のチーム戦だ。

 E組の代表はいじめっ子3人組だ。

 真面目に修練を続けていたようで、クラス代表に選ばれた。

 

 彼らは見事にD組相手には勝利したぞ。

 流石に、前期であったようなE組への嘲りの声は一切なかった。

 前期も惨敗して、今回もE組に負けたから

 面目もあったもんじゃない。


 三人組はC組戦では善戦したが、負けてしまった。

 D組戦をしたあとで若干の疲れがあったのかもしれない。

 残念だが、健闘をたたえた。



 初日午後からは魔石獲得競争だ。


 1時出発。

 学園からスタート、ダンジョンへ向かい、

 魔物を討伐して魔石をゲット、4時までに学園へ戻ってくる。

 魔石の集計価格で順位を決める。


 なお、今回だけはダンジョン管理所で魔石を売らなくてもよい。


 クラスから3パーティが出場した。

 パーティの定員は3人までである。

 

 俺も出場した。

 ただしソロで。

 正直、1人のほうが動きやすい。


 そもそも、俺は20階まで直で転移する。

 そこまでのクラスメイトはいない。

 当然、そのあたりの魔物を討伐できるクラスメイトはいない。


 20階では大猿を討伐する。

 父ちゃんがこの大猿戦で勝ったものの、大怪我を負った。

 回復役では治りきらず、長期入院。

 冒険者を引退することになるいわくつきの魔物である。


 しかし、俺はこの大猿を得意としていた。

 まず、父ちゃんが大猿に苦戦したのは、

 大猿が力がある上に、敏捷性が高いからだ。

 父ちゃんはすばしっこい奴を苦手とする。


 だが、俺は大猿より敏捷性が高い。

 その上、分身陽炎というスキルを取得していた。


 これは、まず大猿にヘイトをぶつける。

 そこに俺の分身をおいたまま、瞬時に別の位置に移動する技だ。

 大猿の怒りは分身に向かったまま、分身に攻撃する。

 その間に、俺は背後から大猿をタコ殴りするのだ。

 大猿のヘイトが実際の俺に向いたら、再び分身を発動。

 そして大猿を背後からたこなぐり。


 これを5回も繰り返すと大猿は沈黙、霧散した。

 この間、俺は大猿からの攻撃を全く受けていない。



 大猿を撃破すれば、19階へ。

 そこでハイオークといったB級、

 ヘルハウンド集団といったC上級を討伐する。


 ヘルハウンド自体はCクラスだが、

 集団統率にすぐれ、10体ほどで襲ってくる。


 しかし、俺の敏捷性が圧倒的に勝っており、

 さらに俺のパンチ力だと、1パンで倒すことができる。

 数秒あれば殺戮の嵐となり、残るは魔石のみ、となる。



 2時間ほど19階にとどまったあと20階へ。


 2時間で大猿はリボーンする。

 分身攻撃を繰り返し、大猿をやっつける。

 その後、再び19階へ。


 討伐後、俺はダンジョンを離脱。

 4時までに学園に戻る。


 なお、俺たちには入学祝いで学園からもらった時計がある。

 外観は前世地球の懐中時計と同じだ。

 時間を示す魔導具と精密な機械、

 そして美しい装飾が施された非常に高価な逸品である。

 これでかなり正確に時間を知ることができる。



 大猿の魔石は売却価格一つ100万sで、

 2体やっつけたから合計200万s。


 ヘルハウンドC級の魔石は売却価格約3万s。

 これが10体x2回繰り返される。

 60万sだ。


 さらにハイ・オーク2体を討伐。

 これが30万×2で60万。


 合計で320万s。

 ダントツのトップである。

 


 俺に続く高得点者は、アスタシア・ライリー・ロレーヌの美男美女軍団。


 彼女たちは流石に俺たちとレベリングをしていただけあり、

 クラスCをきっちり討伐していた。

 というか、例のモンスターハウスでロレーヌが大活躍。


 D級ゾンビの魔石は、売却価格約3500s。

 これを20体。合計7万s。

 モンスターハウスは24時間たたないとリボーンしない。


 あと、10階のボスCクラスと

 11階の昆虫系アントキングの集団を叩き、合計約20万s。

 総合計約27万sで離脱。



 俺と彼女達の差がありすぎると思うかもしれない。

 しかし、他のチームはもっと低いのだ。


 他の学生たちの戦果は、

 大抵は3人パーティでD級クラスの魔物を20体程度だ。

 魔石は1つ1000s×20で2万s程度。

 D級でもホブゴブリン級でゾンビと比べて金額が低い。


 1年生にはレベルの高い学生で20というものもいるが、

 パワー・レベリングの弊害で、実践能力・経験が不足する。

 つまり、戦闘は他人にまかせっきりで

 そのおこぼれをもらって上げたレベルなのだ。


 だから、レベル20もの高レベルの持ち主でも

 ソロではクラスDのホブゴブリン級がやっと、

 安全を担保するためにパーティを組んで

 討伐を重ねるのが普通なのである。


 

 オレはそのことを知らなかった。

 俺の家族が基準だからだ。

 父ちゃん・母ちゃんはもとより、マノンでさえクラスCをソロで倒す。


 俺たちと一緒にレベリングした美男美女チームも

 甘やかされてレベルをあげたわけではない。

 それなりの実戦経験を積んできた。


 普通ならば彼女たちの数字は過去と比べてもトップクラスなのだ。

 つまり、俺の出した数字は史上1位なんてもんじゃない。


 俺はその事に気づかず、少しはしゃぎすぎてしまったが、

 気づいていても全力を出したであろう。

 そう決めていたからだ。


 当然、学園では大騒ぎになる。



「どうやって、ズルした?」


「E組の補欠合格のくせに?」


 これが最初の反応だ。

 だが、各チームには監視職員がついている。

 

 俺にも当初は別の職員がつく予定だった。

 しかし、俺がいきなり20階に転移すると聞いて、

 急遽、職員を変更増員し3人体制にしたのだ。


 その職員が俺の討伐を証言する。

 というか、彼らもビクビクだったのだ。


 何しろ、彼らのレベルは25前後。

 しかも、俺とその職員たちしかいない。

 自分の身は自分で守るしかない。

 彼らは三人でも20階前後は非常に大変なのだ。



 俺が自重しなくなった理由。

 まずは、前期テストで座学でダントツの一番を

 とってしまったから。

 このことでふっきれてしまった。

 順位を隠すのが馬鹿らしくなったのだ。

 

 それと、今だに続く俺たちへの攻撃。

 特に直前の俺への襲撃事件。

 それが守旧派からのものなのか、教会からのものなのかはわからない。


 俺は、極力目を自分に向けさせたいと考えるようになった。

 まず、俺の強さを見せつける。

 女神やロレーヌ、ジルらが攻撃されるのを防ぎたいのである。


 もちろん、俺の強さに驚いて俺を避け、弱いものに目を向けるかもしれない。

 だが、抑止力にはなるだろうと期待しているのだ。

 俺がこれほど強いのなら。

 他の学生達にも同程度のものがいると奴らが思ってくれれば。


 ロレーヌたちだって,Cクラス冒険者程度の実力がある。

 なめていい相手ではない。



「ジョエルの320万sという数字、ガチらしい」


「規格外すぎるぞ」


「いや、ダンジョン内ならわからんでもない。奴はロレーヌ襲撃犯人を撃退したって噂もある」


「犯人は人工魔素フィールドを使っていたって話だよな」


「しかも、相手は複数。それを撃退したとなると、ダンジョン外でも規格外ってことになるぞ」


「おい、俺たちずっと奴を馬鹿にしてたよな」


「ああ。D組のモルガンっていう学生の噂知っているか」


「奴を襲撃してあっという間にのされたって噂だろ」


「モルガンは学園を辞めたそうだ」


「俺たちにも仕返しされるかもな」


「嘘だろ、ガクブルじゃねーか!」



 なお、二日目は1年生のうち、

 まだ対抗戦に出場していないものによるマラソン。

 学園から3階入り口までを競う。


 ダンジョン外の体力と中の体力、

 そして、弱いながらも魔物への対処能力が問われる。


 学園からダンジョンまで約2km

 ダンジョン入り口から3階入り口まで約10km。


 1位はA組の誰かさんがとった。

 4位にジルが入って気を吐いた。


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