第33話 女神がやってきた

【女神がやってきた】


「あ、相まみえることができまして、ま、ま、誠に光栄至極にございます。や、僕(やつがれ)はジョ、ジョ、ジョエルと、も、もうします」


「なに、お兄ちゃんそのことば。カミカミだし」


「そうよ、変すぎる」


「なに、言ってる。女神様のご降臨だぞ。皆のもの、頭が高すぎる」


「あはは、面白い方。ジョエルさん、普段とおりで結構ですよ。私もそんな由緒ある家の出ではありませんし。田舎の娘です」


「そう?じゃあ、アスタシア。これでいいかな。俺のこともジョエルで結構」


「えー、変わり身速すぎ」


「そっちのほうが全然いいわ。私なんて小さい頃は野山を駆け巡っていたタイプなのよ。畏まられるとこそばゆくなっちゃう」


「で、こっちがライリーよ」


「あ、よろしく」


「なに、素っ気なさすぎ」


「なんだよ、抱き合えっていうのか?」


「どこの風習よ、それ」


「隣国じゃ、抱き合って背中ポンポンして頬ずりし合うらしいぞ」


「うげー、夏とかどうすんのよ。濃すぎる」


「アレクさんがロレーヌを訓練したことを聞いて、私達も厚かましいのですが、助けて頂けないかと」


「伝説の人ですからね、アレクさんとクリステルさんって」


「褒めても何も出んぞ?」


 奥から父ちゃんと母ちゃんが出てきた。


「ああ、アレクさんとクリステルさんですか?初めまして。アスタシオです」


「ライリーです」


「ほう。噂に違わぬ美形だな。ロレーヌといい勝負じゃないか」


「ありがとうございます。私達もレベリングに参加できないかと、図々しくもお邪魔いたしました」


「おう、全然問題ないぞ」


「私もライリーもちょうどレベル10です」


「ああ、ロレーヌと同じか」


「でも、7階止まりなんです」


「いいぜ、そのまま10階まで行っとこうか」


「お姉ちゃんたち、10階なんてすぐよ」


「この子、マノンちゃん。ジョエルの妹さんで中3なんだけどレベルが14なのよ」


「え、中3で?」


「まあ、内緒なんだけど」


「お父さんたちについていけば、簡単にレベルあがるよ。ちなみに、お兄ちゃんもレベル14だから。実際は、お兄ちゃんは私よりもずっと強いけど」


「はあ、ジョエルってそんなに強いんだ」


「いや、父ちゃんたちについていけば、すぐさ」


 ◇


 で、やってきました。8階。


「ここが鬼門なんですよね。おかしな魔物が出てくるので、怖くて」


「ここはね、私の聖魔法とかロレーヌお姉ちゃんの神聖魔法の独擅場なのよ」


「マノン、出るぞ」


「ターンアンデッド!」


「?」


「今のでやっつけたの?」


「そうよ。現れたところに魔法を唱えるだけ」


「それだけで消滅しちゃうんだ」


「聖魔法と神聖魔法だとゴースト系とか不浄系統には抜群に強いから」


 ◇


「でね、ここがレベリングの場所」


「この建物?初めて聞くわ」


「9階ってみんな急いで通り過ぎていくから、意外と知られていないのかもね」


「もしくは、最近、新たに出現したか」


「ここがね。モンスターハウスなのよ」


「はー」


「しかもゾンビの」


「えー」


「グロい、臭い」


「だから、扉あけたら目つむって息止めて攻撃してすぐ扉閉めて」


「三人パーティということで、私達は離れて周りを警戒しているわ」


「ロレーヌだけで攻撃、二人は後ろで待機、補助を」


「それだけ?」


「聖魔法と神聖魔法以外だと、かなり苦労するのよ。あ、アスタシオちゃんは風魔法で匂いがこちらにこないようにしてもらえると助かるわあ」


「本当に臭いから」


「あ、だから皆さん離れてるんだ」


「うふふ、それ内緒よ」


 ◇


「すごいや。あっという間にレベル12になった」


「目標は今日中に13、次回で15というところだな」


「9階はレベル14まで。だから、今日は10階のボスをみんなでやっつけて、転移魔法で帰ろうか。次回からは1階から直でここに来られるから」


「本当にありがとうございます。これでなんとかA組で恥ずかしい姿をさらさないですみます」


「聞くところによると、平民出身はロレーヌとアスタシオだけっていうじゃないか」


「僕もいわゆる自由派なんですよ」


「ライリーはお祖父様がリシャール男爵」


「おお、冒険者の英雄じゃないか」


「私も昔お目にかかったことがあるわ」


「じゃあさ、強い人いっぱいいるんじゃない?レベリングしてもらわなかったの?」


「いや、強いのはお祖父様だけさ。子である父親はむしろ文系で、いわゆる官僚なんだ。それに、レベリングは16歳から。というお祖父様の教育方針もあってね」


「ふーん。クラスのほかは?」


「全員、守旧派なんだよ」


「ああ、それは肩身が狭い」


「だから、私達3人が少し浮き気味で」


「いや、アスタシオとロレーヌは稀に見る美形だから、男どもが寄ってくるよ。可哀想なのは僕なんだよ」


「えー、いっつも女子に囲まれているじゃない」


 ライリーは長身のイケメンだった。

 いけすかない奴だ。


「そんなことないよ」


 ああ、しかも爽やか野郎だ。

 いけすかない奴だ。



 ここでA組のいじめを。


 女神アスタシオにはクラス女子による陰湿ないじめがあるらしい。


 ところが、アスタシオは圧倒的な美少女。

 というか、女性として完成品の美しい人。

 顔もスタイルも。


 田舎の子で小さいときは野山を駆け巡っていたタイプ。

 気性はさっぱりしているし、一人でいることを怖れない。

 だって、田舎では隣が遠いからね。


 で、アカデミーの首席合格者。


 優等生はいじめられやすいとかいうけど、

 もうね、頂点なのよ、彼女。

 彼女に対して悪口言っても、言った本人が恥ずかしいっての。


 それでも彼女だけなら孤立するところを、

 同じく女性の頂点ロレーヌがいる。

 気の合いそうな友人であるライリーもいる。


 この3人が1年生の頂点。

 俺から見れば、A組の他の学生は下僕にしか見えない。


 俺としてはライリーが親しげに女神と話しているのが

 腹が立つんだが。


 いや、これはアスタシオファンを代表しての意見だ。

 決して私憤なんかじゃないのだ。


 

 ロレーヌになると、教会のバックがあるから、

 みんないじめなんて考えもしない。


 ライリーもね。

 著名な冒険者の孫だから。


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