だいばーしてぃ

オニキ ヨウ

1.ディアン

 私は若者を見下ろす。

 天ではなく地上から。

 厳密に言えば、コンビニエンスストアのカウンターの中から。


 チャリンと電子音が鳴り、スマホ決済が完了する。

 最近、支払いをキャッシュレスで済ます若者が増えた。

 店員と言葉を交わすことなく、視線すら合わすこともなく、携帯電話を見せてくる。声を発するのは、弁当を温めて欲しいかレジ袋が欲しいときだ。

「あたためてください」

「袋ください」

 ああ、それから箸もある。

「箸、つけてください」

 私が尋ねるより先に、若者はそれらのオプションをオーダーする。時には電子レンジを指差し、暗に示すこともある。

 私は外国人労働者。

 胸元のネームプレートに「ディアン」と名前が印字されている。

 日本語が上手く話せないと思われているに違いない。

 しかし、そんなことはない。

 私はこの世に存在するすべての言語を流暢りゅうちょうに話すことができる。

 かつて存在していた言語も、必要とあらば自在に操ることができる。

 なぜなら私は神の遣いだからだ。


 神は予言なされた。

 300年後の未来に大規模な自然災害が発生する。

 その災害が引き金となり、あちこちの国で資源を巡る戦争が勃発ぼっぱつする。

 約30年で世界人口の80%が死滅し、地球は荒廃した惑星と化す、と。


 きたる終末を阻止するため、私は地上へ派遣された。世界中には私と同じ神の遣いが救済活動に努めている。阻止できるかどうかは科学技術の発展によるところが大きい。

 そこで優秀な若者をスカウトし、未来への礎を築こうとしている。言うなれば、未来の科学者を育成できる人材を見極めているところだ。

 日本での潜伏先せんぷくさきをコンビニエンスストアに選んだのも、若者の使用頻度が最も高い場所だからだ。


 ……と言いつつも、その任務より先にやらなければならないことがある。

 悪魔の排除だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る