第9話

これは男爵邸に戻ってから、気になって聞いたことなのだが、二人も一応冒険者の

資格を持っているらしい。

まあ、予想していた通り二人ともS級冒険者だ。

二人とも個人活動で、パーティは組んでいない。

今回のカエラ男爵の依頼は、冒険者協会の指名依頼として、

俺達に回って来る予定だ。

冒険者協会もそれとなく状況を察しているようで、依頼の受領は

スムーズに行われた。

依頼内容は『都市内部不平分子の掃討及び主犯の特定』である。

事前にカエラ男爵から受け取っていた情報を基に、3手に別れて各支部及び本部に

攻撃を仕掛けることとなった。

A、D拠点を麗香さんが、B、F拠点を俺が、C、E拠点はフィアナさんが

襲撃を仕掛ける。

ついでに、本部には俺が向かうことになりました・・・。

理由?・・・面倒なことを押し付けられたのと、悪魔(ふたり)のお遊びに

付き合うためにだ。

悪魔(ふたり)は、どちらが先に合流地点に着くか、と言う賭け?勝負?

をやっている。

その為、時間が掛かりそうな本部を俺に押し付けてきたのだ・・・(涙)。

本当に・・・この悪魔(ふたり)は最低な魔物だよ。

それにしても、デビューしたての俺には、ちょっと荷が重すぎるんじゃないです

かね?

それに展開が早すぎるような?

まあ

「失敗したら殺しますから」

そう麗香さんから言われているから、俺は悪魔(ふたり)のやりたいことに

付き合うしかないのだが。

それにしても、デビュー戦が魔物殺しとは・・・気が滅入りそうだ。

はぁ、殺すのは嫌だし・・・情報を吐かせることも出来なくなる。

でも、一人も逃がすことはできない。

他の支部や本部に襲撃の報が行ってしまうと、この作戦は根底から崩壊し、

俺の人生・・・魔物生も終わりを迎えることになる。

睡眠系の魔法で眠らせて・・・集めていたテルク樹海の頑丈な蔦(つた)で

縛り上げる。

これで完璧に捕縛できるだろう。

一つの拠点に約60名の構成員が潜んでいると思われるそうだ。

冒険者協会がB級冒険者を手配してくれて、敵の拠点の半径100m内に待機してくれているらしいから多少のミスはカバーしてもらえるだろうけど・・・。

魔力はそれなりの量があるし、確実な方法で行こう。

最初に建物の外側にある扉と窓に、結界魔法?というよりも、障壁の様なモノを

生み出して内から外に出られない様にする。

続いて、『断絶』で目に見えない空間を作り『発生』『ガス』『付与』

『催眠効果』『注入』で透明魔法催眠ガスの完成である。

これを複製して、拠点内の廊下やそれぞれの部屋に配置、一気に開放して拠点内部の人間を眠らせる。


「おい誰か、平気な奴はいるか」


え?何をしているかって?

見ればわかるじゃん‼炙り出しだよ。

俺のこの声に反応があれば、まだ敵が確実にいることが確認できる。

襲撃はこの時点でばれてるし、俺にとってはノーリスク・ハイリターンである。

一応、返事がなかったから、正面付近にいる奴等は眠らせることには

成功したみたいだ。

続いて、内部の完全制圧と物色を行う。

『閃光』を『断絶』で作った空間に『注入』し、それを部屋に入れ起爆してから

突入する。

万が一敵が眠っていなくても、魔法を発動する時間は稼げるだろう。

閃光弾(スタングレネード)をイメージした魔法だ。

似た様なものだが、ここに『効果』『増幅』を使用することで、

閃光弾(スタングレネード)を軽く凌駕することができる。

そもそも、ゲーム等で出て来る閃光弾(スタングレネード)は効果時間が長いが、

現実での効果は精々数秒。

訓練された者なら、その効果は1秒程度である。

だが、魔法があれば話は別だ。

15秒は視界を奪えるだろう。

ふっふっふ、この世界を 魔導科学先進世界 へと作り替えるのも

良いかもな・・・。

おっと、悪い癖が出てしまった。

とりあえずは、建物内部の制圧を行うか。

『解放』

魔法を発動させたら、即座に突入を開始する。

ベッドの下、押し入れの奥、人が隠れられそうなところには、『風圧斬』に

『消音』を加えて撃ち込む。

奴等は人殺しも平気で行う。

殺したくはないが殺される方が嫌だから、確認するのが危険なところは殺す

つもりで攻撃を撃ち込む。。

カエラ男爵の調査で民間人がいないことは確認されているしな。

結果、支部長らしき男や俺と同系統・・・つまり、『状態異常無効』のスキルを

持っている奴は眠っていなかったが、無事に捕獲することが出来た。

多少・・・傷つけてはしまったが、証拠さえ押収すれば罪には問われない。

とりあえず、支部長の部屋を物色してみることにしよう。

・・・人身売買の契約書、しかも人間のものか。

なるほど、これは確かにカエラ男爵とは無関係なこととは思えない。

魔帝国は、魔物・人身売買を全面的に禁止としている。

だが・・・貴族階級の魔物や龍種や魔人種一部の、気位が高く人間を下等種と

呼ぶ者は、この法案と言うか人身売買を禁止していること、更に言えば人間を

対等な存在として扱っていることに反感を抱いている。

だから、多くの貴族は人身売買をしている魔物組織を黙認・・・

そして、その代わりに賄賂を受け取っているらしい。

しかし、カエラ男爵は違った。

まあ、これは派閥も関係しているのだが。

詳しい話はまたの機会として、この人身売買の契約書は完全な証拠になる。

他にも色々とありそうだが、残りは後任のB級冒険者達に任せるとしよう。


俺は残りの調査を後任のB級冒険者に任せたが・・・人身売買の契約書だけは

持っていくことにした。

相手は犯罪組織、しかも男爵家に対抗できる程の力を有している。

冒険者協会は正義の味方だ・・・だが、個人が正義だとは限らない。

冒険者協会本部長やその周りの人間がまともでも、支部長や一冒険者が

そうだとは限らないからな。

やるなら徹底的に、な!

唐突に関係のない話になるが・・・最近、『開発家』のスキルが全く活躍していない

様な気がする。

確かに、作る時間がない上、素材の種類も沢山あるわけでもない・・・

でも、一番の理由は魔法だ。

魔法が便利すぎて、道具(アイテム)を使う機会がない。

さっきだって、蔦(つた)だぞ!使ったの。

加工品じゃなくて原材料だ。

まあ、魔法陣が使えないのが一番大きいのだろう。

そろそろ独自に研究を開始してもいいかもしれないな。

分からない部分は、落ち着いた時に本でも買えばいいだろう。

それはさて措き、F拠点に着いた様だ。

ここがカエラ男爵の情報では本部らしい。

先程と同じ手で、俺はまず最初に建物内部を催眠ガスで充満させてやった。

そして拠点内に侵入したのだが・・・そこには構成員らしき死体が転がっていた。


「うぅ・・うぅぅ」


その死体に混ざって、肉食獣人:獅子族の子供が地面に倒れていた。

民間人・・・ではなさそうだな。

彼女の手には短刀、しかも大毒蛇の一番強い毒を刃に塗ってある。

情報を聞き出したいところだが、まず状況だな。

催眠ガスは対魔物用、しかも大人に使う前提。

子供の体には相当な負荷が掛かっているはず。

死んでないだけでも奇跡だ。

任務優先か、彼女優先か・・・俺は彼女を一段と強く縛りあげると、

窓の外へ放り投げた。

一階だし、茂みに投げたから、怪我をする心配も人に見つかる心配もないだろう。

ということで、建物の中の探索を再開したのだが・・・。

案の定、証拠関係は全て燃やされて、構成員も皆殺しにされている。

唯一の証拠は彼女だが・・・事実であったとしても、子供を殺人犯として突き出すのは思うところがあるし襲撃がバレたのも何か変だ。

麗香さんやフィアナさんは俺より腕が立つし、支部から逃げてきた奴が本部へ

報告に来たとは考えづらい。

そんなことを考えていると、鎧のぶつかり合う音が聞こえてくる。

はっ、と気が付いて入口に顔を向けた時には手遅れであった。


「これは何事ですか」


と、剣を俺に向けて構える騎士がいた・・・否、恐らくは騎士の格好をした

組織の構成員だ。

俺を捕まえに来たのだろう。

ここを切り抜けるには、証拠を提示する必要がある・・・が、恐らくその証拠は押収を名目に、組織の手元に戻ってしまうだろう。

だが幸い、こちらには獅子族の子供がいる。

奴等も、獅子族の子供のことまで気にしたりはしないだろうし・・・遺憾だが、

ここは素直に冒険者証明書と証拠を提示しよう。

無論、冒険者証明書の本名などの個人情報は撤退的に隠し通す。

活動名やパーティ名が敵に知られてしまうのは、遺憾ながら仕方ない。


「S級冒険者の・・・」


そうだ!俺、活動名もパーティ名も馬鹿げた名前にしてるんだった‼

ええい、ままよ。

俺は冒険者証明書を提示しながら、彼ら騎士擬きに説明をした。


「事情は理解しました。証拠はこちらで預からせて頂きます・・・では」


俺の渡した人身売買の契約書を持つと、彼らはそそくさと出て行った。

これで俺の持っている証拠は、獅子族の子供だけになってしまった。

奴等の表情からは動揺が見て取れた。

計画と少々違うところがあったのだろう。

仲間の死か、俺が証拠を持っていたことか・・・なんにせよ、一応その場は凌げた。

だが、証拠がなければ・・・って、奴等騎士団じゃないなら、捕縛して情報吐かせればよかったんじゃ。

ミスったなぁ~。

馬鹿だわ、俺。

でも、近接戦では俺は素人以下、どの道この方法しかなかったと割り切ろう。

それはさて措き、証拠がなければ俺が本物の犯罪者に・・・

くまなく拠点内を漁ろう。

っと、その前に獅子族の子供の様子を見に行くのと、正面の扉は閉めておこう。

これ以上変な奴が来ても困るしな。

俺は正面扉を閉めると、獅子族の子供の様子を見に行った。

彼女は未だに眠っている。

と言うか、この状態で放置していて大丈夫だろうか。

どの様に対処すべきなのだろうか・・・後遺症とか残る可能性あるよな?

やばいかも・・・これ以上戦闘を行うこともないだろうし、

いっちょやったりますか‼

治癒魔法、理論上は行使可能な魔法だが、膨大な魔力を要する。

だが、今回は治癒魔法であって治癒魔法でない。

彼女が眠っている原因は、俺が魔力で作った催眠ガスにある。

故に・・・『魔力感知』で、彼女の体内に残っている俺の魔力を見る。

幸い、肉食獣人、特に獅子族などは魔力が使えない代わりに、身体能力が高い。

何が言いたいかと言うと、彼女の体内にある魔力は殆どが俺のモノと言っても

過言ではない。

膨大な魔力を、適量までに彼女の体内から『抽出』すればいい。

人体に関わることだから、魔力消費量は馬鹿にならないけど、まあ仕方がない。

俺は『魔力感知』と『抽出』を併用して、彼女の体内にある魔力を年相応の

量まで減らした。

今から何分くらいなら効果が持つか分からないから、さっさと本拠点を

探索しちまおう。


結果から言おう・・・何とか助かりそうだ。

一階の一番奥の物置に、地下への隠し通路があった。

血痕や生臭さ、鎖や拷問器具が残る地下室は十分に証拠となりえるだろう。

と言うことで、B級の後任の冒険者に後は任せて、麗香さんとフィアナさんの

ところへ戻ることにした。

無論、獅子族の子を連れてだ。

体内の魔力からして、後1時間は眠ってそうだし・・・とっとと連れて行こう。

カエラ男爵と敵対している相手は、相当危険な存在だし、今回の件については色々と悪魔(ふたり)と話し合わないと。

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