第8話

俺は冒険者に登録することとなった。

理由は簡単だ。

殺人の合法化・・・と言っても、殺すのは盗賊等の犯罪者だ。

騎士、自警団、冒険者、魔物協会、以外又は許可を出された機関以外が殺人を行えば、犯罪となるがこれらの機関、又は地方領主等の権力者からの直接的依頼を

受けた場合、犯罪の証拠を確保した上での殺人を合法化する。

ただし、騎士団及び自警団は場合によっては、証拠を確保せずともよい。

俺達は地方領主の依頼を受けたから、証拠さえ確保すれば殺人が合法化されるが・・・カエラ男爵曰く

「冒険者協会に後処理を任せた方が楽だから・・・ね?」

と言うことらしい。

ちゃっかりしている人だ。

何にせよ、魔獣の魔石や討伐証明部位は提出しないといけない訳だし、

冒険者の証は身分証明書にもなる。


「どの位の冒険者試験を御受けになりますか?」


と、どうやら異世界テンプレの冒険者試験ではないらしい。

冒険者及び魔獣のランクは

S級、A級、B級、C級、D級、E級、F級と別れている。

そして、自ら選んだ等級の試験を受けられる様にしたようだ。

一律同じ金額だが、試験に失敗した場合、試験に使った道具などの

損失代を払わされる。

当たり前だが、それは等級が高くなるにつれ上がっていく。

S級の試験失敗時には、200万の損失代を払わされたこともあるらしい。

更に、等級が高い程、再試験が可能になるまでの日数が長くなる。

だが、試験に成功すればその等級から冒険者をスタート出来る。

まあ俺は、冒険者活動を本格的に行う訳ではないし、C級程度でいい・・・


「「S級で」」


ああ、やっぱり、この悪魔(ふたり)は自己中で、人間・・・

魔物の心を持ってないよ‼

なんで?失敗したらあり得ないくらいの損失になるよ?なんで?なんで?

それなのに、力のない俺にS級の試験を受けろと?

こいつらぁぁぁぁ‼

俺の怒りは発散されないまま、冒険者試験会場へ連れていかれた。


「では、試験について説明を始めます」


試験官さん曰く、試験は幾つかの段階に分かれており、それぞれ80点以上で

合格らしい。

ライバルは・・・いない。

やっぱり、皆損失を気にして、腕に自信がある者でもD級程度しか受けない。

俺は異例中の異例の存在だ。

まあ時折、強力な魔人がS級の試験を受けることはあるらしいが・・・

俺みたいな中級魔物がS級を受ける

事例は、この制度が実施された初期の頃くらい。

今では辺境の村から出てきた、無知な腕自慢くらいしか受けないらしい。

とまあ、それはさて措き、説明終了後、早速試験が開始された。

第一試験・・・と言うよりも、これは履歴書?みたいなモノかな。

初期種族:骸骨人(スケルトン)

進化歴:骸骨人(スケルトン)→不死者(アンデッド)→喰屍鬼(グール)

現種族:喰屍鬼(グール)

主武器:魔法及び自作の道具(アイテム)

活動名:初心者です!

本名:なし

年齢:25歳

性別:男

パーティ名:弱いです!

受験年度:魔帝国歴218年

といった感じのことを書かされた。

活動名というヤツは、名前出しNGの人のために作られたもので・・・

要は、前世で言うところのハンドルネームというヤツだ。

年齢だけは偽らせてもらったが、前世でそのぐらい生きてるし、

問題はないだろう。

ついでに、進化したり、性別が変わったりした時、年齢は5年毎に冒険者協会で更新しないといけないらしい。

っていうか、性別変わる種族もいるんだ・・・。

え!?活動名とパーティ名が変だって?気にすんな‼

(しかし後に、俺はこのパーティ名にしてしまったことを後悔するのだが・・・

それはまだ先の話。)

それと、もし試験に落ちた場合は、この個人情報はしっかりと

処分(もや)される。

だが何よりも楽しみなのは、身分証明の役割を果たす、冒険者証明書だ。

何が楽しみかって?ふっふっふ、冒険者証明書は隠したい個人情報を自在に

隠すことが出来る。

騎士団又は冒険者協会の持っている特殊な装置を使う以外、強制的に隠した個人情報を見る方法はないらしい。

そして、個人情報を自在に見せたり、隠したり出来る様にしたのが

『魔法陣』である。

そう、やっと魔道具が手に入るのだ。

しかも無料で。

これは絶対に試験に受からねばな。

でも・・・S級の試験、かなり難しいんだろうな。

S級第一試験は的当てだ。

人間協会で言う、職業、盗賊・弓使い・魔法使いが受ける試験だ。

俺は、盗賊と魔法使いに該当するため、道具(アイテム)を使った投擲試験と、

魔法を使った試験を受けさせられる。

それぞれ50点ずつの配点で、合計80点以上となれば合格だ。

最初は投擲試験、続いて魔法試験だ。

それと、S級試験は不正が発生しないように、ギルド長と副ギルド長、

元S級冒険者が試験官を行うらしい。


「それでは、始め」


俺は試験官の掛け声と共に、ギルド支給の着色(ペイント)瓶を投げる。

目標は35m先の的、支給された着色(ペイント)瓶は10本・・・

ミスは二本までに抑え込みたいな。

一投目:命中、二投目:命中、三投目:外れ、四投目:命中、五投目:命中、

六投目:命中、七投目:外れ、八投目:命中、九投目:命中、十投目:外れ。

ああ、三本ミスか・・・現在35点、次に45点取れれば、第一試験は合格だ!

続けて、魔法の試験に入った。

魔法の使用回数は25回まで、それぞれ違う魔法を使わなければならない。

S級以外ならもっと楽だったのに・・・。

それはさて措き、魔力の消費を抑えつつ、確実に得点できる魔法を25種類か。


1,『燃料』『発火』『維持』『移動』で『火弾』

2,『発生』『水球』『維持』『移動』で『水弾』

3,『発生』『風圧』『調節』『維持』『移動』で『風圧弾』

4,『成形』『収集』『礫(つぶて)』『凝固』『移動』で『礫岩(れきがん)弾』

5,『燃料』『発火』『維持』『移動』に『変形』で『火斬』

6,『発生』『水球』『維持』『移動』『変形』で『水斬』

7,『発生』『風圧』『調節』『維持』『移動』で『風圧斬』

8,『成形』『収集』『礫(つぶて)』『凝固』『移動』『変形』で『礫岩斬』

9,『発生』『電』『放出』で『電撃』

10,『収集』『礫(つぶて)』『凝固』『移動』『変形』『回転』で

『礫岩(れきがん)掘削(ドリル)』

11,単純に、的を『分解』する

12,はたまた、単純に『発火』で的を燃やし尽くす

13,『発生』『水球』『維持』『移動』に『凍結』を追加して『氷弾』

14,これまた単純に『腐食』で的を腐らせる

15,『燃料』『発火』『維持』『移動』に『酸素』『注入』を追加して

『高熱火炎弾』

16,『湿気』『増加』『凍結』で『氷結』

17,『発生』『光』『光量増幅』で『高熱光砲』

18,『風圧』『強化』で『風圧潰』

19,『発生』『風』『強化』『移動』で『強風』

20,『発生』『水』『変形』『凍結』『回転』で『氷柱掘削(アイスドリル)』

21,『発生』『爆発物』『移動』『発火』で『爆発弾』

22,『収集』『礫』『溶解』『変形』『移動』で『溶岩弾』

23,『発生』『酸』『変形』『移動』で『酸弾』

24,『発生』『水球』『燃料』『発火』『温度上昇』←(魔力多め)『移動』

『衝突』で『水蒸気爆発』

25,『力(エネルギー)』『凝縮』『移動』『加速』で『魔力弾』


魔法は全弾命中。

魔法を当てるより、25種の魔法を思いつくのがしんどかった。

それに、相当量の魔力を使ってしまったから、あと少ししか魔法は使えない。


「す、凄い」


試験官全員が、俺のことを凝視している。

そこで俺は自らの過ちに気が付いた。

この世界の魔物、人間は魔法を使う時、詠唱を行う

(フィアナさんがそう言っていた)。

俺の魔法の発動の仕方は、この世界の魔物から見れば異常・・・否、ありえない。

とりあえず俺は、試験官達に考える暇を与えない様に次の

試験を受けたいと催促した。

皆さん困惑していたが、何とか強引に次の試験に持っていくことに成功する。

S級第二試験、ここからがいよいよ本番と言った試験だ。

内容は単純明快、元S級冒険者の試験官との模擬戦である。

倒さなくても、試験官が合格点だと言えばクリアだ。

無論、倒した場合は、100点の即合格。

試験時間は1時間である。

・・・結果だけ言おう。

試験は一瞬だった。

『氷結』を使って試験官の動きを止めて、『礫岩掘削』を『複製』で増やして、

身動きを取らせない様にした。

これまた、試験官達を驚かせてしまったが・・・もう、仕方ないよね?

そもそも、今考えてみたら、俺テルク樹海で多くのS級やA級の魔獣と

戦ってたんだよね。

S級の冒険者と対等に戦えても不思議じゃ、ない?

続いてS級第三試験、これが最終試験だ。

ギルド長のジェイルさん曰く

『都町村内家畜魔獣及び元野生魔獣安全飼育法案に乗っ取った上、

国営家畜魔獣牧場より、冒険者協会への特別調教師貸出制度を利用して、

安全なまま実戦形式の魔獣との戦闘を・・・云々』

とのこと。

要は、完全に調教されて、ある程度の安全が約束されたS級魔獣との

実戦形式の試験ということだ。

魔獣を戦闘不能、或いは討伐するかすれば、この試験は合格らしい。

試験官3名が受験者の生命に関わる、もしくは受験者が魔獣から逃亡した場合は、

不合格となる。

・・・またですよ。

もう、一瞬も一瞬ですよ!

俺の相手は、顔人胴獅子獣(マンティコア)・別名:人喰いだったのだが、普通の獅子のサイズで

「あ、魔力量的に行けるな!」

って思って、『断絶』で空間内部に閉じ込めて、『抽出』『空気』で

窒息死させたんですよ。

ちょっと可哀そうだったけど、魔力量的に使える魔法が殆どなかったのだ・・・

許せ。

晴れて、俺は試験官からの畏怖と懐疑的な視線を受けながら、S級冒険者となった。

冒険者証明書のランクは、色ごとに分けられており、S級やA級といった

表記はない。

結局、悪魔(ふたり)の判断が正しかったと言うことは腑に落ちないが、

結果オーライってことで!

「お疲れ様です」

「おつかれさま~」

俺が冒険者証明書を受け取ると同時に、何処からともなく二人が現れた。

何か言ってやろうかとも思ったが・・・疲れていたので、一言だけ


「帰りましょう」


と言い、カエラ男爵邸で俺に宛がわれている部屋へ戻ることにした。

今日は、魔力を使い過ぎたからとても疲れた。

よく眠れそうだ。

ああ、悪魔(ふたり)は俺が試験を行っている間に、魔獣の魔石と討伐証明部位を

提出していてくれた。

冒険者協会に来て、異空間道具箱(アイテムボックス)からそれらを出すように

言われた時に何となく分かってはいたが。

旅費や食費と言った、これから必要になるであろう分のお金を差し引いて、

残りは均等に山分けされた。

俺は、大金貨5枚、金貨4枚、大銀貨6枚、銀貨7枚、大銅貨9枚、銅貨2枚を貰った。

マジで驚いたことなんだけど、大量の魔獣の魔石と討伐証明部位を出した結果、

200万以上の報奨金が貰えた。

冒険者ってスゲー、って思いました、ハイ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る