第12話 死闘は落陽とともに

西暦2031(令和13)年9月10日 ダキア王国より北西に1000キロメートル ゾルシア共和国南部地域


 ゾルシア共和国の南部植民地地域が一つであるパルタス州の沖合にて、十数隻の艦隊が広がる。


 台湾海軍の主力艦隊はゾルシア共和国の増援を阻止するべく、本土攻撃という大胆な作戦に出ていた。規模がより大きいアーレンティア帝国方面には日本のより有力な艦隊が出張っているものの、技術水準ではアーレンティアを上回っているゾルシア共和国を放置していい訳ではない。そこで攻撃の役を担うのが、台湾海軍という事となった。


 台北級ミサイル駆逐艦「台北」を先頭に、丹陽級駆逐艦と成功級フリゲート艦が続き、単縦陣で進んでいく。その進路先にあるのは港湾都市。特に旗艦を務める「台北」と、丹陽級駆逐艦は東アジア大戦後に建造した大型水上戦闘艦で、オーストラリア製の多機能レーダーを採用した「台北」は、イージス艦並の対空戦闘能力を誇る。


「司令、レーダーに反応あり。数は1、哨戒機な模様」


戦闘指揮所CICにて、船務長が報告を上げ、艦隊指揮官のワン少将は小さく頷く。すでに日は落ち始め、目視による監視は厳しいだろう。だが、艦隊としては敢えて見つかってもらう事が肝要だった。


「陸上や空中からの航空支援が難しい海域へ、敵艦隊を引きずり込む。敢えて付近に撃ち上げろ」


 命令直下、フリゲート艦「成功」の上部構造物に装備されているオートメラーラ7.6センチ単装砲が砲身の仰角を上げる。そして自身のレーダーで捕捉した目標に向け、数発発砲した。


『こちら右ウィング、付近での炸裂を確認』


「敵哨戒機からの電波発振を確認。気取ったでしょう」


 報告が上がり、王は小さく頷く。その1時間後、レーダーにて新たな動きが捉えられた。


「敵艦隊を捕捉。数は20隻程度、方位005より接近中」


「早速おいでなすったな。全艦、対水上戦闘準備」


 命令一過、10隻は単縦陣のまま迫る。闇夜、月明りがにわかに海面を照らし出す中、全艦はレーダーで敵艦を捕捉。目視可能な距離にまで迫り、そして攻撃を開始する。


「SSM、発射」


 各艦の斜めに設置された四連装発射筒より炎が噴き出され、幾つもの飛翔体が飛び出る。台湾国産の超音速対艦ミサイルである雄風3型と、数的主力たる雄風2型からなるミサイル群は、砲撃のために距離を詰めていたゾルシア海軍の巡洋艦に降りかかる。


「何だ、あの攻撃は!?」


 艦隊指揮官はそう叫び、直後に意識は永遠の闇へと叩き落とされる。大口径火砲を持つ巡洋艦は悉くミサイルの餌食となり、炎上していく。何せ中国海軍のミサイル艦を瞬殺するために開発された『飛び道具』である。その破壊力は致命的であった。


 駆逐艦や魚雷艇も逃れられなかった。12.7センチ単装砲や7.6センチ単装砲の猛射が降り注ぎ、艦橋や武装に被弾して炎上していく。火力は明らかに歴然だった。


「右舷、魚雷接近中!雷数2!」


「面舵一杯、10秒後に舵戻せ。僚艦にも急ぎ通信」


 艦長の指示に従い、「北京」は大きく舵を切る。そうして魚雷を回避しつつ、お返しとばかりに砲撃を見舞う。


 すでにめぼしい大型艦は叩きのめされ、艦隊はそのまま陸地へと迫る。戦前、諜報員によって基地の配置は把握出来ており、そのためにミサイルVLSにはトマホーク巡航ミサイルが数発搭載されていた。


「攻撃開始せよ」


 命令一過、トマホーク巡航ミサイルが放たれ、パルタス州ラーグ市の空軍飛行場へ飛んでいく。同時に港湾部の海軍基地へ砲口を向け、艦砲射撃を始める。これら一連の攻撃に対し、ゾルシア側は無力だった。


 斯くして後に『ラーグ沖海戦』と呼称される事になる戦闘は、台湾艦隊の圧勝に終わった。ゾルシア共和国は海上戦力のみならず、ダキア王国へ攻め込むための橋頭保となるラーグの海軍基地すら破壊されてしまい、ダキア王国に対する圧力が弱まってしまったのである。

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