第11話 タレンティア強襲

西暦2031(令和13)年8月27日 日本国長崎県長崎市 岩崎重工業長崎造船所


 今から凡そ147年前に誕生した、日本有数の歴史ある造船所たる長崎造船所。その船台の一つにて、1隻の巨大な船体の建造が進められていた。


「しかし、スケジュールを半年分早める様に求めてくるとは…ダキア王国との貿易のお陰で物資に余裕はあるが、軍艦はそう簡単に出来る訳ではないんだぞ」


 船台の一室にて技師は呟き、同僚は苦笑を浮かべる。


「まぁ、在日米軍がグアムの防衛を最優先にしてきていますからね。海自も海自で独自に戦力を強化しなければ、東方の大国相手にやっていられませんよ」


 日本国と周辺地域がこの世界に転移する直前である西暦2030(令和12)年6月に起工したやまと型広域打撃防衛艦の二番艦は、転移直後の混乱もあって一時建造中断されていたが、アメリカに頼る事が出来なくなった今、数だけは日本を圧倒する国々に対抗するべく、ダキア王国との国交樹立後に建造を再開。1年程度で進水式目前のところにまで漕ぎ付けたのである。


 さらにジャパンヤードユナイテッドの横浜にある磯子事業所では三番艦の建造が始まり、四番艦も今年中に同社の呉事業所で建造が始まる予定である。その分航空機搭載護衛艦の建造スケジュールが大きく狂っているのだが、在日米軍の支援もあるとはいえ、ほぼ一から空母とその艦載機の開発を行うため、今回の戦争までには間に合わないのは明らかだった。


 なれば、空母に比べて人員を必要としない水上戦闘艦を優先的に量産・配備する事が肝要である様に思えた。


・・・


西暦2031年9月8日 タレンティアより南に300キロメートル洋上


 アーレンティア帝国のある大陸の沖合に、数十隻の大艦隊。海上自衛隊の水上機動艦隊は、南部の港湾都市タレンティアに向けて進軍していた。


「攻撃開始せよ」


 命令一過、「いずも」より上空に展開したF-35B〈ライトニングⅡ〉戦闘機は、EH-101〈マーリン〉早期警戒ヘリコプターからの誘導を受け、哨戒飛行を行う敵戦闘機を照準。AIM-120『AMRAAM』空対空ミサイルで一方的に撃墜する。


「目標、港湾部。我らの翼を思う存分見せつけてやれ」


 命令一過、24機の〈F-35B〉は二手に分かれ、防空戦力の排除と港湾部への打撃に向かう。警報が市街地に響き渡る中、F135ターボファンエンジンの轟音がそれを掻き消し、直後に何発ものAMRAAMが空を舞う。


 空中で何機もの戦闘機が爆散させられる中、巨大なドックへと誘導爆弾が投下され、建造中だったり整備中の軍艦が一方的に破壊されていく。その光景は多くの市民を恐怖せしめた。


「SSM、発射始め」


 攻撃は止まらない。在日米軍の指導でシステム改修を終えた10隻のイージス艦より、トマホーク巡航ミサイルが矢継ぎ早に放たれていく。目標は200キロメートル先の停泊する艦艇。


 連続する火柱。駆逐艦は轟沈し、巡洋艦も打撃を被って転覆する。そして「やまと」は敢えて目視できる程の距離にまで迫っていき、海中に潜む潜水艦2隻とともに、迎撃を試みる敵艦へ攻撃を始める。


 57ミリレールガンの砲弾が超音速で空を切り、哨戒艦を一瞬で鉄屑へと変える。駆逐艦の真下には1発の長魚雷が忍び寄り、バブルパルスによって生み出される即死の一撃が竜骨を砕く。その光景は市街地でどよめく市民達や、帝国軍の将兵達にありありと見せつけられていた。


「アレが、ニホンの戦艦…」


 唖然となる中、「やまと」の甲板から白煙が噴き出し、幾つもの光の槍が飛び出す。それらは停泊状態から抜け出せていない軍艦に突き刺さっていき、港の水底へと叩き落としていく。


 斯くして、後に『タレンティア強襲戦』と呼称される戦いにおいて、海上自衛隊水上機動艦隊はアーレンティアの主力艦隊が一つを殲滅。港湾機能も破壊され、帝国の海洋戦力は著しく低下する事となったのである。

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