職業『下級剣士』の村人A

@ininininin

第1話

「任せたぞ。ジン。」


「分かりました。村長。」


この村にオークの群れが向かっている。

この小さな村では、それに対抗する力はないので、村人は近くの街に避難する予定だ。


「死ぬなよ。」


「いつでも戻ってこいよ、待ってるから。」


「分かってる。適当に世界を見てくるよ。」


昔からの、幼馴染の悪ガキどもに別れを告げる。

気づけば、こいつらも俺も14歳。ほとんど、大人だ。


「ワン!」


「リンファ。お前は俺と一緒に行こうな。」


俺はウルフの魔物のリンファの頭を撫でる。

こいつが怪我しているところを助けて、3年になる。

昔は小さかったのに、今は大きく成長した。


オークの群れがこの村にせめてくる中、この村に残り続けるのは俺だけだ。


ーーーーーーーーーー

父親は俺が物心がつく前に死んでしまったらしい。母親からよく父親の話を聞いた。

父は冒険者で色々な場所を旅していたらしい。母親とはこの村で出会ってからは、ずっとこの村に住んでいたらしい。

自分の農地を持っていない小作農だったため、農地を手伝いながら、この村にたまに寄ってくる強い魔物を討伐していた。

母親はそんな父親を自慢に思っていたらしく、よく父親の話をしてくれた。


そんな母親も流行病で、1年前に他界した。


母親のいなくなった俺は、この村で色々な手伝いをして過ごしていった。

そんな生活の中、父親のように冒険者になって世界を見てみたい心が大きくなっていった。

母親が死んで、この村に残る理由がなくなったのが一番の理由なんだろう。


ーーーーーーー


「ジン!!こっちの荷物を持ってくれ!!」


「分かりました!」


近くの街に一時的に避難するため、荷物をすぐにまとめないといけない。

俺は、老人や子供の多い家の荷造りと持ち運べないものを地面に埋めている。


「ジンにいちゃ。」


「ミミ。元気でな。」


「いっしょ、いっしょ。」


「ごめんな。ついていけないんだ。」


「いっしょ。」


「そうだな。また後でな。」


自分に懐いている小さな村の女の子を竜車に乗っている老人の一人に抱っこして渡す。


「オババ、ミミを頼むよ。」


「ああ。リュウもしっかりやるんだよ。」


「分かってるよ。どうせ最後だしな。」


「気をつけるんじゃぞ。」


「ああ。」



この田舎には特に物もないし、数時間で準備を終えて、村のみんなは集団で出発していった。

老人や移動速度についていけない子供は村に一つだけの竜車の詰め込んで。


「しっかりやるんだぞ、ジン。」


「分かってるよ、レックスさん。」


この村で5人しかいない狩人のうちの一人。

自分に色々なことを教えてくれた恩人だ。


「騎士様が来てくださるそうだ。それまでは、しっかりな。」


「騎士は俺たち庶民のいうことなんて信用しないさ。」


「それでもだ。お前の話を聞かないかもしれんが、村長の話は聞く。だから、しっかりやるんだぞ。」


ーーーーーーーーーー

俺はオークの群れの規模を確認して、調査に来る騎士にその内容を話したら、冒険に出る。

世界各地を冒険するのだ。そう考えただけで心がワクワクする。


村のみんなにも冒険に出る話をした。

まあ、村のほとんどは俺は嫁探しの旅に出るんだとでも思ってるんだろ。

農地も持っておらず、狩人でもない俺に数少ない村の女子が俺と結婚してくれるはずもないしな。


「オークの群れか。最初の冒険にはピッタリだな。」


「ワン!!」


父親のお下がりだが防具も兼もある。

大きさはまだ、足りないけど。それでも、調整すれば十分使用できる。剣だって、昔から振っているんだ。

それに、


「能力開示」


職業 下級剣士

レベル 25

スキル 剣術3 弓術1 身体強化4


属性魔法は一つも使えないけど、村一番の身体強化が使える。

剣術だって、負けたことがない。ある一人を除いて。


「アリスは元気にしてるかな?」


アリス、俺の幼馴染で唯一の女子だが、生まれ持って特別な職業の『剣聖』を持っていた。

そのおかげで、選ばれたものだけが通える学園に通っているらしい。村人全員の自慢だ。


「もう、5年は会ってないな。みんなのこと忘れてるんじゃないか?」


「ワン。」


「リンファは会ったことなかったな。まあ、これから会うこともないだろう。

学園を卒業したら貴族様になるらしいしな。」


あの、お転婆なアリスが貴族になるのか。すごいことだ。


「ワン!!」


「そうだな。今はオークの群れに集中しないとな。」


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