第1話:蒼い光(後編)



それからまたしばらく歩いて行くと、ようやく目的地が見え始めた。



「ルカ。さっき話してたのはあの建物か?」


「ああ。それにどうやら人も居るようだぞ」


「本当に!?よくここから視えるな…」



まだそれなりに距離はあり、家らしき物は視えるが人の方は目を凝らしてもさっぱり視えない。

常日頃ゲームばっかりしてるからだろうな…。


なんにせよ、助かった。

あとは到着したら現地の人に言葉が通じるのを祈るだけだ。


そう安堵した途端、突如異変は起こった。


バサッ!!バサッ!!


どこからか突然、大きな羽ばたき音が聴こえてきた。



「零人!上だ!」



ルカが怒鳴り声で叫んだ。

上に顔を向けると、上空に大きい影のような物が視えた。

2つの大きな翼らしきものが上下に動いている。



「なんだよ、あれ…」


「ボサッとするな!早く逃げるぞ!

あの生き物からは明確な殺意を感じる!」


「え、殺意って…うわっ!」



ルカが上着のポケットに潜り込んで前の方へ進もうとした。

引っ張られるような感じになってる!



「分かった!逃げっから!

ポケットから出て!」


「急げ!!」



村の方角へ走り出す。


しかし、俺たちを追っていた生物の方がより速かった。


ドゴォォン!!


勢いよく墜落したかのような音をさせて、目の前に着陸する。



「グルルルル……!」



その恐ろしい姿がついに明らかになる。


体長は5メートル以上はあるだろうか…。

全身に黒い鱗を張り巡らし、巨大な幹のような腕と脚がその巨躯を支えていた。


そして背中からは二対の巨大な翼を展開し、一振りでビルをへし折れそうな尻尾を左右に暴れさせている。


ゲームやファンタジーが好きな人…いや、日本で殆どの人は知ってるであろう。


『ドラゴン』



「グオオオオオオ!!!!」



耳の鼓膜が破れそうな程の咆哮をしてこちらを睨みつける。

その瞳は瞳孔が開いており、ルカの言う通り明らかに強烈な殺意があった。



「な、なぁ?俺こいつに何かしたっけ?

月曜の朝のバイト先の店長ぐらいにブチ切れてるんだけど…」


「そんなものは知らん!

とにかく喋ってないで早く…」



ルカに話しかけた次の瞬間、黒いドラゴンが腕を上に持ちあげ、俺たちを潰そうと振り下ろしてきた!



「う、うあああああ!!!」


「零人!!」



死を覚悟したその時、横から女性の声が響いた。



「くらいなさい!!雷光射ライトニングショット!」


バスッ!!


突然、金色に輝く光線のような物体がドラゴンの左眼を穿いた。



「ガアアアアアア!!!」



ドラゴンは苦痛に悶え暴れ始める。

横からダッダッダッとダチョウのようなデカい鳥が近づいてきた。


な…!なんだこの生き物!?


しかもその背には先ほどの声の主が騎乗していた。



「そこのあなた!早く村へ逃げなさい!」


「え、ええ!?」



俺たちを助けてくれたのは金髪の女だった。


ダチョウから降りると、先程眼をぶち抜いたと思われる弓矢を構え、ドラゴンへ照準を合わせている。



「零人何をしている!早く立て!行くぞ!」


「そ、そうしたいんだけど脚が震えて…!」



あまりの恐怖に身体が言うことをきかない。

ああ、クソ!頭では逃げないといけない事は充分理解してるのに脚が動いてくれない!



「ちょっと!

あんた何モタモタして…きゃあっ!」


ドゴッ!!


ドラゴンがこちらに気を取られた隙を突いて金髪の子に強靭な尻尾の薙ぎ払いを食らわせた!

その身体はものすごいスピードで吹き飛ばされ、地面を転がっていく。



「ああっ!?お、おい!あんた大丈夫か!?」



吹っ飛んだ先へ叫び、安否を確かめる。



「うぐ、うぅ…」



良かったまだ生きているみたいだ…。


だが、俺のせいで彼女を傷付いてしまった!

何をやってんだ俺は!

早く行動しないからこんなことに…。



「ホウ。キサマ中々骨ガアル娘ダナ。

我ガ一撃ヲ食ライマダ息ガアルトハ」


「「!?」」


え。


ドラゴンが喋った!??



「ルカ!あいつ喋ったぞ!」


「ああ。

どうやら奴とは意思の疎通が可能のようだな」



ドラゴンはこちらへ向き直り再び睨みつけてきた



「ソノ勇敢ナ武勇二免ジ、アノ娘ハ見逃シテヤロウ。

ダガ、キサマラダケハ断ジテ許サン!

ココデ確実二殺ス!!」



はあ!?

許さんって、俺たちが何をしたってんだよ!?


ドラゴンの巨大な顎が動き出し、大きく口を開けた。

山をも噛み砕きそうな鋭い牙がずらりと並んでいる。


ま、まさか食べる気か!?


ゴウォォォ!!!


「零人!

奴の口から異常な高エネルギー反応を検知した!

今すぐ逃げるんだ!今度こそ死ぬぞ!」



口を開けた中心にシュウウウウと大気が集まっている。

次第にそれは赤く燃えだし、次に何をしてくるかは明白だった。



「ぐ、くそったれぇぇ!!」



震えていた膝に拳をぶつけ無我夢中に走り出す。



「逃ガシハセン!」


ボンッ!


大砲が発射されたような爆発音が響き渡った。

ギョッとして振り返ると、目の前に炎の壁が迫ってきていた。

死…


「わ、ああああ!!」


「くっ!」


ブン!


聞いたことがある音が響いた。

これは、もしや『転移テレポート』!?


視界が一瞬にして蒼く歪み、すぐ元の色に戻り始める。

しかし次に映った色は全て緑だった。



「ぶへっ!?」



顔面から地面に激突してしまった!

その拍子に口の中に砂利が滑り込む。



「ぺっぺっ…助かったよルカ」


「はあ、はあ…なに、礼には及ばん」



あれ、なんかルカの様子がおかしい?



「お、おい?どうしたんだルカ?」


「ああ、先程の『転移テレポート』でひどく…

疲れてしまって…」


「なんだって!?あ!お、おい、大丈夫か?」



フラフラと地面に落ちそうになったルカを慌てて手で受け止める。

心なしか蒼の光が弱くなっているような…。



「それより聞け零人…

なぜここへ飛んだか分かるか?」


「え?あれここって」



俺の近くには助けてくれたあの金髪の女の子が横たわっていた。

どうやら気絶しているようだ。

まさか…。



「ドコニイッタ!?虫ケラドモ!」



案の定、あのおっかない黒のドラゴンが数メートル先にいた。


ひいい!やばい見つかる!

慌てて草むらに伏せて、小さい声でルカに話しかける。



「お、おいルカ。

あいつまだ俺たちを探しているぞ」


「ああ、そうだな」



いやそうだなって。



「逃げるんじゃなかったのかよ?」


「違う。いいか、よく聞け零人。

私にはもう逃げ切るためのエネルギーが残っていない。

君があの黒いドラゴンを倒すんだ」



………………は?



「いやいやいや!無理だって!

あんなのどうやってやっつけるんだよ!?」


「静かにしろ…奴に気づかれる」



やべっ。

慌てて口を塞ぎ、声のボリュームを下げる。



「………何か考えでもあるのか?」


「ああ、一か八かだがな」


「ああもう、分かったよ!何をすればいい?」


「それはだな…」



ルカから作戦を聞く。


…………………



「確実に俺死なん?」


「それは君次第だ。

なんとか時間を稼いでくれ」


「ああマジかよ…ちなみにどれくらい?」


「そうだな、1分もあれば充分だ」


「分かった…うう、小便チビりそ…」



☆☆☆



ほふく前進してできるだけ金髪の子から距離を取る。

命の恩人を巻き込んでしまったら大変だからな

そして意を決して作戦を開始する。



「おらぁ!!

このクソッタレのドラゴンさんよぅ!

俺はここだぜ!」



ギロリとドラゴンの首がこちらを向く。


ひいぃぃ!やっぱりこえええ!


ズシン…ズシン…と大地を踏み鳴らし、こちらへゆっくり歩いてくる。

すぐに走ってこないあたり、俺が逃げないと分かって少し油断しているのだろう。


そして目の前に立ちこちらを上から見下ろした。



「ホウ?

自ラ姿ヲ現ストイウ事ハ、死ヌ準備ヲ済マセタノダナ?」


「ま、まぁそんなとこだ!

それより殺す前に聞かせろよ。

一体何の理由があって俺たちを憎んでるんだ?」


「知レタコト!

500年前、キサマラガ我ガ父ヲ殺シタダロウ!!

かたきヲ討ツ以外ノ大義ナドナイワ!」



はあ!?500年前!?

何を言ってるんだこのドラゴンは!



「待て!

俺たちは今日、ここに来たばかりなんだ!

お前の親父なんて知らないし会ったこともない!」


「我ヲ欺クツモリカ!間違エル訳ガナイ。

キサマノ髪ノ色ト、ソノ喋ル小石ガナニヨリノ証拠ダ!」


「なに?」



作戦の準備をしていたルカが急に反応しだした。

俺の前に浮かびドラゴンと会話を始める。


ちょ!?



「おい、でかいの。

貴様は今『喋る小石』と言ったな?

そいつはどんな色をしてどんな形だったのだ?」


「ハッ!

我カラスレバキサマハ砂漠ノ砂粒同然。

形ヤ色ナド見分ケラレルト思ウノカ!」


「私には重要な情報だ。

そいつは私の兄弟である可能性が高い」


「キサマノ兄弟ナド知ルカ!

ナラバ、家族モロトモ焼キ尽クシテクレル!」



ドラゴンは口を開けさっきと同じ炎を撃ち出そうとした。

ダメだ、これ以上話が通じる相手じゃない!



「ルカ!」


「ああ、既に準備は完了だ。構えろ零人」



腰に忍ばせておいたナイフを取り出し両手でしっかりと握り締める。

全身が極度の緊張で武者震いしている…。


スー、ハー、大丈夫、大丈夫、俺ならやれる。



「コレデ終ワリダ!!!」


「今だっ!」


ブン!


テレポートの音ともに視界が蒼く歪む。



☆☆☆



作戦開始数分前



「それで何をすればいい?」


「ああ、まず会話でもして奴の注意を逸らせ。

できるだけ時間を稼ぐんだ。」


「……もうその時点でクソやばいんだけど、取り敢えず分かった。その後は?」


「うむ、実はさっき接敵した際に、奴の身体に脆弱性のあるポイントを発見したのだ。

そこを攻撃する」


「脆弱性?弱点ってこと?」


「弱点…なら確実だが確証はないからな。

私には奴の身体を巡るエネルギーの流れが視える。

全身くまなくエネルギーが流れていたが、ある1点だけ避けているのが視えたのだ。

おそらくそこだけは脆いはずだ」


「ああ、それが脆弱性の事か…場所は?」


「喉元の少し下辺りだ」


「はあ!?あんな場所届くわけないだろ!?」


「話は最後まで聞け。

前に私の転移テレポート能力を説明したことを覚えているだろう?

私がそこに座標を作る。

幸い、あと一回分くらいならなんとか転移できそうだからな。

それまでの間の時間を稼いでほしいんだ」


「分かった…

けど俺丸腰なんだけど、まさかステゴロであいつ倒せるの?」


「いや、そこでこの金髪娘の出番だ。

腰に差してあるナイフを借りるのだ」


「……!」



なんて姉さんや…。

あの一瞬でそんな事まで計算に入れてここへ転移したのか…。



「なるほど…だからあえてここに飛んだのか」


「あとはナイフを刺す場所を間違えないよう、君に私の視界を共有…いや『同調シンクロ』させる。

当該の箇所を蒼くマーキングしたからすぐ分かるはずだ」


「視界を!?

そんな事できるようになったの!なんで?」


「それは後で説明する。

ブリーフィングは以上だ」


「確実に俺死な…」



☆☆☆



そして現在。


色が元に戻り目の前にドラゴンの喉元近くにテレポートが完了する。

その直後、身体の中に誰かが入ってきて、その存在と溶け合う妙な感覚を覚えた。


これが『同調シンクロ』…。


それはぬるま湯に浸かっているように心地よく、少しだけ穏やかな気持ちになることができた。


しかし自身の視界の変化には驚きを隠せなかった。


めっっっっちゃクリアやん……。


しかも少し眼を凝らすだけで、ドラゴンの鱗と鱗の繋ぎ目をくっきりと視ることができる。

初めて4Kディスプレイを体験した時以上の感動だった。


…って今はそれどころじゃない!

ルカの作戦を成功させないと!


蒼い所蒼い所蒼い所……そこか!


黒い鱗がびっしりと敷き詰めている中で、一つだけ蒼いオーラで色付けされている鱗が視えた。



「うおおおおお!!!」


ザクッ!!


蒼くマーキングされた箇所にがっちりと刃を突き立てる。



「グッ!?ガアオオオウウ!!」


「うわあああ!!?」



急に立ち上がったもんだからナイフを離してしまい、そのまま落下してしまった。

ドン!と地面へ尻から着地する。


痛ってぇ!



「キ、キサマァァァ!!」



喉元にはきっちりナイフが刺さっており、ものすごく苦しそうだ。

ハハッ!や、やった…!成功した!


よっぽど苦痛なのだろう、巨大な手を首元へ移動させ必死にナイフを抜こうとするが、サイズが小さいせいか上手く掴めないようだ。


やがて諦めたのかバサッと背中から翼を伸ばし、そして羽ばたかせ始める。



「キサマラノ事ハ絶対二忘レンゾ!

我ガ『逆鱗』ヲ傷ツケタコト、必ズ後悔サセテヤル!」



そして2枚の巨大な翼を可動させ、黒いドラゴンは遠くへ飛び立って行った…。



「やった…やったよ!ルカ!」



思わずテンションが上がり、ルカに話しかけるが彼女の返事がなかった。


あれ?

そういえばさっきから姿が見えないけどどこに行ったんだ?



「ルカ!?どこだルカ!」


「ここだ…

あまり大きな声を出すんじゃない…」



その声は俺の上着のポケットから聴こえた。


良かった…こんな所にいたのか。

ルカをポケットから取り出し手に乗せる。



「ルカ!ありがとうルカ…俺、俺…うぅ…」


「フフ…泣くな零人。男の子だろう?

私は君ならやれると信じていたよ」


「だって、だってアンタこんなに光が弱くなっちまって…。

まさか死んだりしないよな!?」


「死なんさ、ただ疲れただけだ…

悪いがこれ以上話はできそうにない。

私は少し、眠る…」


「あ、おい!?」



すると今度は本当に返事がなくなった。

蒼い光が一定の間隔で点いたり消えたりしている。

眠っているとこんな風になるのか…。



「ねえ、あなた大丈夫?」


「どわぁっ!」



ビ、ビックリした!

後ろからいきなり声がかかった。

どうやらいつの間にか金髪の子が目を覚ましたみたいだ。



「あら、そんなに驚くことないじゃない。

黒竜ブラック・ドラゴンを撃退したくせに」



腰に手を置き、フンと鼻を鳴らした。


サラサラの金髪をなびかせて、アーモンドのような形の眼でじろっと見てくる。


改めて見るとこの子背デカいな…。

並んだら俺よりあるんじゃ…。

美人だけど、すごく気の強そうな女だな。


………ん?


あれ、よく見るとこの子の耳…横に長い!?

もしかして、いわゆる『エルフ』って人なのか!?


まさか実在してたなんて…。


あ、いやそれよりも。



「さっきは助けてくれてどうもありがとう。

君のお陰で命拾いしたよ」


「い、いいわよ、そんなの。

油断したとはいえあいつに無様にぶっ飛ばされた挙句、情けまで掛けられたし…。

ものすごくかっこ悪かったわ」



シュンと目線を落とし、ついでに耳も項垂れている。

落ち込んでいるようだ。

かっこ悪い?何言ってんだ。

命の恩人だぞ!



「かっこ悪いわけないだろ!

俺を助ける時にバシューンって撃ったあの金色の一撃!

めちゃくちゃカッコ良かったよ!

あれってなんなの!?」


「えっえっ!?ちょ、ちょっと近いっての!」



グイっと両手で遠ざけられた。

やべ、俺たちの命の恩人でしかもあのエルフと会話できることに興奮し過ぎてしまった。



「ご、ごめん!」


「まったく…。

あんな技は村の戦士なら誰だってできるわよ。

雷の魔力マナを矢に付与して射るだけだしね」



……はい?

またも何言ってるか分からん単語が出てきたぞ

このくだりまたやるのか…。



「あの…『まな』ってなに?」


「はぁ!?本気で言ってるの?

私たちは常に魔力を使って生活してるじゃない」


「いや、実は俺たちは…」



俺は彼女にできるだけ手短に状況を説明した。


はぁ、それにしてもドラゴンにエルフに魔法か…。

悪い予想が当たっちまったなー。


ここは日本どころか地球ですらない。

遠いどこか別の星、『異世界』なのだろう。



「蒼い石に触れたらニホンから転移…?

そんな与太話信じるわけないでしょ…って言いたいところだけど、あなたの髪の色と、あの一瞬で瞬間移動する能力を見たら納得するしかないわね」


「あ、そういえばさっきの戦い見てたんだっけ」


「ええ、あなたが私のナイフをあいつに突き刺した後、お尻から落下して悶絶するところまでバッチリとね」



恥っず!!!

ダサすぎんだろ…ん?『私の』?

あ、やべ…。



「ごめん…。

そういえばあいつにナイフそのまま持ってかれちゃったんだ」


「別に構わないわよ。

あれはただの解体用のナイフよ。

だからあなたがそれを持ってドラゴンに立ち向かった時は、頭イカれてるのかと思ったわ!」



ハッハッハッと豪快に笑うエルフさん。

解体用のナイフ?

狩りで仕留めた動物の皮を剥ぐ時に使うやつかな?


でもそれにしちゃわりと装飾が凝ってたような…。



「ところでそろそろあなたの名前を訊いてもいいかしら?」


「あ、そういえばまだ名乗ってなかったな。

俺は間宮 零人まみや れいと。零人って呼んでくれ」


「マミヤ・レイト…あまり聞かない名前だわ。

本当に違う世界から来たのね」


「日本人はそういう感じの名前なんだよ。

それで、君は?」


「私はフレデリカ・シュバルツァー。

村の皆は『フレイ』って呼んでるわ。

よろしくね、レイト」



すっと右手を差し出してきた。

えと、握手すれば良いんだよな?

こちらも手を握って応える。



「ああ、こちらこそよろしくフレイ…いいいいぃぃぃ!?」



握手した途端フレイはギュウっと力強く握り締めてきた!



「ちょちょちょ!!いた、痛い痛い!!」


「あら、ゴメンなさい。

ちょっとした挨拶のつもりだったのだけれど」



クスッと嫌な笑みを浮かべるフレイ。

とんでもないパワーを右手に食らわせてきやがった!

慌てて手を引き離し、右手を慰める。


いきなり何すんだこのクソエルフ!



「お前今の絶対わざとやっただろ!」


「そんな事ないわよ〜?

ただ、黒竜ブラック・ドラゴンを撃退した勇敢な戦士様の握手だもの。

これは力いっぱい応えなければ失礼と思っただけよ」



てめぇから差し出しておいてよく言う!

ん?まさかこいつ…。



「…もしかしておいしいところを俺が持っていったのが悔しくて仕返ししたんじゃ…?」


「〜♪」



口笛を吹いてこちらから目を逸らした。


命の恩人であることはたしかだけど、とんだ負けず嫌いの女に助けられちまった。



☆☆☆



「「…………」」



現在俺たちはフレイの住む村へ向かっている。

フレイは乗ってきたデカい鳥の手網を引いてこちらと歩調を合わせてくれていた。


村の方で休息と療養を受けさせてもらえる事になったので、着いたらしっかり責任者の方へ挨拶しないと。


あのドラゴンと戦い、奇跡的に俺はケツを強打したぐらいで済んだが、ルカとフレイは傷ついてしまった。


ルカに対しては責任を大きく感じてしまうが、先の一件でフレイに対してはあまり申し訳なさを感じなくなってきた。

とはいえ怪我させたのは俺が原因だし、一応具合は訊いとくのがスジだろう。



「フレイ。

あいつの攻撃をまともに食らったけど大丈夫なのか?」


「ふん。

そんじょそこらのヤワ人間と一緒にしないで頂戴。

鍛え方が違うのよ鍛え方が。

それに、もし次あのドラゴンに会ったら絶対八つ裂きにしてやるわ!」


「そ、そうか。大事無いようでなによりだよ」



どうやら彼女はドラゴンにぶっ飛ばされたことよりも、見逃されたことの方が頭にきているようだ。


なんというか、実はエルフって生粋の戦闘民族なのかな。

命あっての物種だろうに。



「私もあなたに訊きたいんだけど、さっき話していた例の蒼色の石、いったい何者なの?」


「いや、俺も今日知り合ったばかりだし…

それに彼女は記憶を失ってるから詳しい素性はまだ分からないんだ」


「ふーん。

それにしても転移テレポート能力ねぇ…

そんな魔法は聞いたことも見たこともなかったわ。

似たような魔法だと『召喚』魔法っていうのはあるけど」



へぇ意外だな。


転移魔法なんてわりと異世界モノの作品で大抵出てきそうな魔法のひとつだと思ったけど…。

実際の異世界はイメージと違うんだな。


このチンピラエルフが良い例だ。



「…あんた今失礼なこと考えてないレイト?」


「うぇっ!?」



なんで分かんだよ!

女の勘ってやつ?



「ねえ、それにその子喋れるんでしょ?

どんな子なの?」


「うーん…口調は男っぽくて頼り甲斐があって少しお茶目な所もあって、できる女!って感じの性格だよ」



あれ?

そういえば喋る石って性別ってあるのか?

今度聞いてみるか。



「へぇ!それは楽しみね!

私も早くその子とおしゃべりしてみたいわ!」


「…!?

あ、ああそうだな。

お前ならすぐ仲良くなれると思うよ」



さっきまでキッと目を吊り上げてて仏頂面だったのに、いきなりニパッと純新無垢な笑顔を見せてきた。


……ちょっとドキッとしたじゃねえかよ。



「私、喋る宝石とお喋りするのに小さい頃から憧れてたのよね〜」



両手を組んで楽しそうにステップを踏んでる。

意外と無邪気なところもあるんだな。



「憧れてたって?」


「私が子供の頃、寝る前にママがよく絵本を読み聞かせてくれていたの。

それで私が大好きな絵本の中でね、5が登場するお話があったのよ」


「!!」



これは、もしや…?



「なあ!その本はまだ村にあるのか!?

タイトル名は?」


「ちょ、何よいきなり…?

あるわよ、私の宝物だもの。タイトル名は…」



『スター・スフィア』







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