おっさんの、ろくでもない異世界を楽しむライフ~気ままに最強無双をしていただけなのに、なぜか不労所得とハーレムがついてきた
桃色金太郎
売り出し中が続いている男
第1話 やり方が間違っていましたか?
「それー、金銀財宝のお宝ですよー。私にかかれば幾らでも出せまするぞーーー!」
「うおおおおおおお!」
群がる人々は狂喜乱舞。
左に返せば豪勢な食事があらわれます。
その度に周囲はどよめき、
うん、心地いいですね。
それとここは異世界でして、地球ではお目にかかれない美人さんが沢山いらっしゃるのです。
ヒュームだけでなくエルフや精霊、それと私が好きなネコミミさんまでも。
そんな方々に囲まれて、なだめるだけでもひと苦労です、はい。
「マロ様ー、格好いいーー!」
「世界を救ってくださったマロ様に栄光あれーーーーー!」
「あああ、すべてマロ様のおかげです」
「いえいえ、大した事はしていませんよ」
「いえ、マロ様はみんなの光です。もー大好きーーーーー!」
「むほっ!」
抱きつきというよりはタックルの衝撃です。
イタタと苦笑いをし、体をおこし見渡します。
するとあたりは真っ暗やみ。
美女や財宝の山は消えていました。
あまりの変わりように焦ります。
ですがよく見ると、ここはずっとお世話になっている安宿の部屋のなかでした。
どうやら、いつもの夢を見ていたようですね。
私の名前は大泉
地球からの異世界転生者です。
姿かたちは変わっていませんが、色々と神様にいじり回されたので、あくまでも転生だそうです。
もちろんチートを貰い、万全の状態でこちらに来ていますよ。
そのチートスキル名は〝打出の小槌〞。
打出の小槌って、響きからして夢が膨らみますよね。
身を
神様の祝福は今でもおもいだします、最高でした。
『ぼくが神だよー。知っての通り、打出の小槌は富をうみ出す神器ね。はっきり言って、世界をひっくり返すスキルだよ。もちろん恩恵は君が一番ね。どう、ワクワクしてくるだろ?』
『はい、わたくし、頑張ります!』
『はははっ、元気いいねえ。それじゃあ存分に異世界ライフを楽しみな』
『はい、わたくし、絶対に、頑張りまっす!』
おっさんには似合わない、キラキラした返事をしたものでした。
降り立ったのは、魔力で満たされたファンタジーな世界。私の理想そのままでした。
神様には感謝をし、こうして異世界での冒険者生活を始めたのです。
ですが、それから十年。
決して良い状況ではありません。
どっぷりと最底辺でして。
成り上がるどころか、成り下がりです、はい。
それもこれも、ひとえにお金がないからなのですよ。
実は冒険者って、まったく優遇されていないのです。
例えばモンスターを倒しても、
それにモンスター退治で
はあ?ですよ、はあ?
私の中の常識は、モンスターを狩り、売り払い、そして信頼を勝ち取り登りつめていく。
この黄金ルートが通じないって、あなた信じられますか?
私には無理。ファンタジーなのに、何かと欠けている事が多いのですよ。
そうとは知らず、初日に大量の獣型モンスターを狩って、意気揚々とギルドへ持ち込みました。
すると。
『ゴラアーー、死体を持ち込むとはどういう了見だ。てめえ、マジでぶっ殺すぞおおおおお!』
『ヒイイイイイイィィイ!』
チビるほどに怒られた事を、私は絶対に忘れません。
もちろん高ランクの冒険者はいて、すごく稼いでいますよ。
英雄譚にもなっていますし、皆が憧れる存在です。
でもそういう人は元々がお金持ちなのですよねぇ。
装備をそろえて仕事にでるので、上位のモンスターでも倒しやすい。
クエストをこなす上でも優位です。
結果それが信頼となり、さらに仕事がふえ、ギルドランクも上がっていくのです。
いいこと
かたやモブの私ときたら。
「はあ、これじゃあ地球にいた頃と変わりませんよ……とほほほ」
金持ちの子は金に困らない人生を歩み。
そうでない者は、そこから抜け出すのは容易ではないって事です。
向こうに気づかれないよう、横目で見ていた幼い頃を思いだします。
だから、人生一発逆転できる手だてがいるのです。
つまりチート、私なら〝打出の小槌〞になりますな。
ですが最大の失敗をやらかしたことに、転生してから気づきました。
実はこのスキル、使い方が分からないのです。
ええ、分かっていますとも、あり得ないって事ぐらい。
でもね、あんな神秘的な空間ですよ?
普通に圧倒されるでしょ。
使い方を聞くなんてムリ無理むり。
聞くって事が、頭に浮かびもしませんでした。
だから試行錯誤の毎日です。
朝から晩までそれ一色で、ほぼ同じことの繰り返しになります。
今日もそのルーティンをまもり、森へと出かけます。
「うりゃああああ、ウルトラエクセレントスペシャルーー、私のナニよ、大きくなーれーーーーーーーーーーー!」
これもルーティンです。
打出の小槌といえば、体を大きくするのが定番ですぞ。
一人ですし、恥ずかしくはありませんね。
ですが
まぁ、いつもの儀式みたいなものですし、気にしませんよ。
取り敢えずジャマしてくるモンスターを倒しながら、次々と試すのです。でも。
「まーた何も起きませんでしたねぇ。何がダメなのでしょうか。あなたは分かります?」
腰をおろし、
考えもまとまりますし、気もまぎれますからついやっちゃいます。
すると返事がかえってくるのです。
「えっ、なになに。『君はよく頑張っているよ』ですって? いやー嬉しいことを言ってくれますねえ」
この出だしをきっかけに、ふたりの会話ははずみます。
ゴブリン(死体)もヒマだったようですね。
では、お言葉に甘えて。
「ふむふむ『まだ試していない事があるだろ、それをやってみろよ』ですか。……うーん、なんでしょう? この10年間でやり尽くした感がねぇ」
ゴブリン(死体)はフッと口元をほころばせてい(るような気がし)ます。
『だって、オラ達をその小槌で殴った事がないだろ?』
「そりゃそうですよー」
一度は考えた事はありますが、もし壊れでもしたら、最後の希望が消えてしまいます。
それに無抵抗なこの状態で殴るのは、死者への冒涜ですもの。やりたくないってのが本当ですな。
でもイヤイヤと首をふる私に、ゴブリン(死体)はおおらかに笑い誘ってきます。
『いいって、ほら。オラとおめえとの仲だろ。力一杯やっていいんだぜ』
「ゴブさん、あなたは
涙で視界がかすみます。
でもゴブさんの心意気を踏みにじれません。
覚悟をきめました。
「ゴブリンよ、ゴブリン。私に富を分けておくれ。小槌よ、お前の力を見せてくれ!」
ゴブさんの頭をめがけ、二度三度ふってみる。
我ながらなかなかキレのある動きです。
ですがあまりにも良すぎて、ふと我にかえってしまいました。
「はは、私は何をしているのでしょう。一人芝居なんてして。愚か、ですよね……はは、はは」
最後に軽く寸止めをし、
そうでもしないと、メンタルがやられますよ。
10年間の孤独が、ここまで私を
『おいおい、よそ見するなよ。いま大事なところだぞ』
「へっ?」
一人芝居の幻聴?
でもハッキリと語りかけられた気がします。
もし幻聴だとしても、大事なって何ですか?
期待で胸が膨らみます。
それを確かめようとふりむくと、ゴブさんの体に変化があらわれていたのです。
「えっ、えっ、あなた光っています?」
内側からあふれるような強い光。
ゴブさん、少し膨らみ宙に浮いてますよ。
次に光は、内へとむかって凝縮されていきます。
そして3つの小さな塊にわかれ、ボタボタボターッと地面に落ちました。
「な、な、何が?」
警戒しながら覗くと、草むらには3つの銀貨が落ちていました。
震えながら拾いあげると、ずっしりとした重厚感。
本物の銀貨だと物語っています。
夢ではありません。
喉が渇きます。
あらん限り叫びます。
「おおおおお、やっと。やっとなのですね。やっと努力が報われたのですねええええええええええええ!」
倒したモンスターが、お金に変貌したのです。
間違いありません、これが打出の小槌の富をもたらす能力です。
うれしいです、何もかもが弾け飛んでいる気分です。
『やっと見つけたな、オラが見込んだだけはあるよ。それじゃあ存分に異世界ライフを楽しみな』
また幻聴……ではないですね。
しかもどこかで聞いたことのあるフレーズです。
「も、もしかして、ゴブさんが神様?」
こちらへ来るときに、神様からかけられた最後の言葉です。
信じがたいですが、そう考えるとつじつまが合いますよ。
私には無かった発想へと導くには、とてもうまいやり方ですな。
しかも声だって、どこか似ている感じがします。
もしそうなら、神様も粋なことをしてくれますよ。
ならばその期待に応えましょう。
今度こそ神様の言われる通りに、この異世界を存分に楽しみたいと思います。
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