おっさんの、ろくでもない異世界を楽しむライフ~気ままに最強無双をしていただけなのに、なぜか不労所得とハーレムがついてきた

桃色金太郎

売り出し中が続いている男

第1話 やり方が間違っていましたか?

 わたくしはおっさんですが、何故か十代のような若々しい姿で、金糸をあしらった豪華な服を身にまとい、打出うちで小槌こづちを振っています。


「それー、金銀財宝のお宝ですよー。私にかかれば幾らでも出せまするぞーーー!」


「うおおおおおおお!」


 群がる人々は狂喜乱舞。


 小槌こづちを右にふれば金貨の山。

 左に返せば豪勢な食事があらわれます。


 その度に周囲はどよめき、羨望せんぼうのまなざしを向けてくるのです。


 うん、心地いいですね。


 それとここは異世界でして、地球ではお目にかかれない美人さんが沢山いらっしゃるのです。

 ヒュームだけでなくエルフや精霊、それと私が好きなネコミミさんまでも。


 そんな方々に囲まれて、なだめるだけでもひと苦労です、はい。


「マロ様ー、格好いいーー!」

「世界を救ってくださったマロ様に栄光あれーーーーー!」

「あああ、すべてマロ様のおかげです」


「いえいえ、大した事はしていませんよ」


「いえ、マロ様はみんなの光です。もー大好きーーーーー!」


「むほっ!」


 抱きつきというよりはタックルの衝撃です。


 イタタと苦笑いをし、体をおこし見渡します。

 するとあたりは真っ暗やみ。

 美女や財宝の山は消えていました。


 あまりの変わりように焦ります。

 ですがよく見ると、ここはずっとお世話になっている安宿の部屋のなかでした。


 どうやら、いつもの夢を見ていたようですね。


 私の名前は大泉 得麻呂とくまろ、37才。

 地球からの異世界転生者です。


 姿かたちは変わっていませんが、色々と神様にいじり回されたので、あくまでも転生だそうです。


 もちろんチートを貰い、万全の状態でこちらに来ていますよ。


 そのチートスキル名は〝打出の小槌〞。


 打出の小槌って、響きからして夢が膨らみますよね。

 身をていして、11匹の子猫をトラックから助けた甲斐がありました。


 神様の祝福は今でもおもいだします、最高でした。


『ぼくが神だよー。知っての通り、打出の小槌は富をうみ出す神器ね。はっきり言って、世界をひっくり返すスキルだよ。もちろん恩恵は君が一番ね。どう、ワクワクしてくるだろ?』


『はい、わたくし、頑張ります!』


『はははっ、元気いいねえ。それじゃあ存分に異世界ライフを楽しみな』


『はい、わたくし、絶対に、頑張りまっす!』


 おっさんには似合わない、キラキラした返事をしたものでした。


 降り立ったのは、魔力で満たされたファンタジーな世界。私の理想そのままでした。

 神様には感謝をし、こうして異世界での冒険者生活を始めたのです。


 ですが、それから十年。


 決して良い状況ではありません。


 どっぷりと最底辺でして。


 成り上がるどころか、成り下がりです、はい。


 それもこれも、ひとえにお金がないからなのですよ。

 実は冒険者って、まったく優遇されていないのです。


 例えばモンスターを倒しても、何処どこも素材を買い取ってはくれません。


 それにモンスター退治でかせない魔石でさえ、モンスターからドロップされないのです。


 はあ?ですよ、はあ?


 私の中の常識は、モンスターを狩り、売り払い、そして信頼を勝ち取り登りつめていく。


 この黄金ルートが通じないって、あなた信じられますか?

 私には無理。ファンタジーなのに、何かと欠けている事が多いのですよ。


 そうとは知らず、初日に大量の獣型モンスターを狩って、意気揚々とギルドへ持ち込みました。


 すると。


『ゴラアーー、死体を持ち込むとはどういう了見だ。てめえ、マジでぶっ殺すぞおおおおお!』


『ヒイイイイイイィィイ!』


 チビるほどに怒られた事を、私は絶対に忘れません。


 もちろん高ランクの冒険者はいて、すごく稼いでいますよ。

 英雄譚にもなっていますし、皆が憧れる存在です。


 でもそういう人は元々がお金持ちなのですよねぇ。


 装備をそろえて仕事にでるので、上位のモンスターでも倒しやすい。

 クエストをこなす上でも優位です。


 結果それが信頼となり、さらに仕事がふえ、ギルドランクも上がっていくのです。

 いいことくめでうらやましいですな。


 かたやモブの私ときたら。


「はあ、これじゃあ地球にいた頃と変わりませんよ……とほほほ」


 金持ちの子は金に困らない人生を歩み。

 そうでない者は、そこから抜け出すのは容易ではないって事です。


 足掻あがいて、もがいて、必死になって。


 向こうに気づかれないよう、横目で見ていた幼い頃を思いだします。


 だから、人生一発逆転できる手だてがいるのです。


 つまりチート、私なら〝打出の小槌〞になりますな。


 ですが最大の失敗をやらかしたことに、転生してから気づきました。

 実はこのスキル、使い方が分からないのです。


 ええ、分かっていますとも、あり得ないって事ぐらい。


 でもね、あんな神秘的な空間ですよ?

 普通に圧倒されるでしょ。

 使い方を聞くなんてムリ無理むり。

 聞くって事が、頭に浮かびもしませんでした。


 だから試行錯誤の毎日です。


 朝から晩までそれ一色で、ほぼ同じことの繰り返しになります。

 今日もそのルーティンをまもり、森へと出かけます。



「うりゃああああ、ウルトラエクセレントスペシャルーー、私のナニよ、大きくなーれーーーーーーーーーーー!」


 これもルーティンです。


 打出の小槌といえば、体を大きくするのが定番ですぞ。

 一人ですし、恥ずかしくはありませんね。


 ですが黄金こがね色に輝くめでたい小槌は、今日も沈黙したままです。


 まぁ、いつもの儀式みたいなものですし、気にしませんよ。

 取り敢えずジャマしてくるモンスターを倒しながら、次々と試すのです。でも。


「まーた何も起きませんでしたねぇ。何がダメなのでしょうか。あなたは分かります?」


 腰をおろし、かたわらにあるゴブリンの死体に、つい話しかけてしまいます。


 端的たんてきにいえば独り言ですね。

 考えもまとまりますし、気もまぎれますからついやっちゃいます。


 すると返事がかえってくるのです。


「えっ、なになに。『君はよく頑張っているよ』ですって? いやー嬉しいことを言ってくれますねえ」


 この出だしをきっかけに、ふたりの会話ははずみます。

 ゴブリン(死体)もヒマだったようですね。


 では、お言葉に甘えて。


「ふむふむ『まだ試していない事があるだろ、それをやってみろよ』ですか。……うーん、なんでしょう? この10年間でやり尽くした感がねぇ」


 ゴブリン(死体)はフッと口元をほころばせてい(るような気がし)ます。


『だって、オラ達をその小槌で殴った事がないだろ?』


「そりゃそうですよー」


 一度は考えた事はありますが、もし壊れでもしたら、最後の希望が消えてしまいます。


 それに無抵抗なこの状態で殴るのは、死者への冒涜ですもの。やりたくないってのが本当ですな。


 でもイヤイヤと首をふる私に、ゴブリン(死体)はおおらかに笑い誘ってきます。


『いいって、ほら。オラとおめえとの仲だろ。力一杯やっていいんだぜ』


「ゴブさん、あなたはおとこです」


 涙で視界がかすみます。

 でもゴブさんの心意気を踏みにじれません。

 覚悟をきめました。


「ゴブリンよ、ゴブリン。私に富を分けておくれ。小槌よ、お前の力を見せてくれ!」


 ゴブさんの頭をめがけ、二度三度ふってみる。

 我ながらなかなかキレのある動きです。


 ですがあまりにも良すぎて、ふと我にかえってしまいました。


「はは、私は何をしているのでしょう。一人芝居なんてして。愚か、ですよね……はは、はは」


 最後に軽く寸止めをし、むなしさをごまかします。

 そうでもしないと、メンタルがやられますよ。


 10年間の孤独が、ここまで私をむしばんでいたのですね。あと一歩のあやうい精神状態ですよ。


『おいおい、よそ見するなよ。いま大事なところだぞ』


「へっ?」


 一人芝居の幻聴?


 でもハッキリと語りかけられた気がします。

 もし幻聴だとしても、大事なって何ですか?


 期待で胸が膨らみます。


 それを確かめようとふりむくと、ゴブさんの体に変化があらわれていたのです。


「えっ、えっ、あなた光っています?」


 内側からあふれるような強い光。

 ゴブさん、少し膨らみ宙に浮いてますよ。


 次に光は、内へとむかって凝縮されていきます。


 そして3つの小さな塊にわかれ、ボタボタボターッと地面に落ちました。


「な、な、何が?」


 警戒しながら覗くと、草むらには3つの銀貨が落ちていました。


 震えながら拾いあげると、ずっしりとした重厚感。

 本物の銀貨だと物語っています。


 夢ではありません。

 喉が渇きます。

 あらん限り叫びます。


「おおおおお、やっと。やっとなのですね。やっと努力が報われたのですねええええええええええええ!」


 倒したモンスターが、お金に変貌したのです。

 間違いありません、これが打出の小槌の富をもたらす能力です。


 うれしいです、何もかもが弾け飛んでいる気分です。


『やっと見つけたな、オラが見込んだだけはあるよ。それじゃあ存分に異世界ライフを楽しみな』


 また幻聴……ではないですね。

 しかもどこかで聞いたことのあるフレーズです。


「も、もしかして、ゴブさんが神様?」


 こちらへ来るときに、神様からかけられた最後の言葉です。


 信じがたいですが、そう考えるとつじつまが合いますよ。

 私には無かった発想へと導くには、とてもうまいやり方ですな。


 しかも声だって、どこか似ている感じがします。

 もしそうなら、神様も粋なことをしてくれますよ。


 ならばその期待に応えましょう。


 今度こそ神様の言われる通りに、この異世界を存分に楽しみたいと思います。

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