ケーキ屋

 数日後、紅愛くれあの携帯電話に着信が入った。彼女はすぐに画面を操作し、通話に出る。

「はい、紅愛です」

「ヴィランの存在が確認された。今から送る場所に出動して欲しい」

「了解しました」

 それから通話が切られたのを確認し、紅愛はショートメッセージを開く。直後、彼女は目を見開いた。

「この場所は……」

 何やら、今回のヴィランは彼女の知っている場所に出没したらしい。紅愛はすぐに駆け出し、現場へと赴いた。



 彼女が向かった先は、とある商店街だ。その路上では無数の岩石が飛び交っており、通行人たちは必死に逃げ回っていた。岩石を飛ばしているのは、アルマジロのような姿をしたヴィランだ。彼は逃げ遅れた者たちを岩石の下敷きにし、大声で笑っている。

「ぶわははは! 素晴らしい力だ! どいつもこいつも、俺の快楽のために死ね!」

――これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。紅愛はすぐに変身し、光線銃を構えた。そんな彼女の背後には、「シュガー・ユーフォリア」と書かれた看板のある店が建っている。そう――この店は、彼女が妹に宛てたバースデーケーキを予約購入した場所だ。


 ヴィランは紅愛の存在に気づき、直径二メートルほどの岩石を発射した。紅愛は光線銃を使い、間髪入れずにビームを乱射する。岩石は空中で崩れ落ち、彼女の視界は砂煙に塞がれる。それでもなお、彼女はビームを撃ち続けた。無論、彼女は闇雲に発砲しているわけではない。

「コイツ……俺が見えているのか!」

 そう叫んだヴィランは、体の節々をビームに撃ち貫かれていた。紅愛は何かしらの手段により、相手の位置を把握しているらしい。

「そうだ。オレには、アンタの動きが見えている!」

 少なくとも戦闘能力においては、彼女が優位に立っている。ヴィランは必死に岩石を飛ばし続けるが、その全てが正確に撃ち落とされていく。


 そこでヴィランは考えた。


 彼は四方八方に向けて、無数の岩石を発射し始めた。

「ぶわははは! ウィザードであるテメェには、守るべきものがたくさんある! この場所をいくらでも破壊できる俺と違ってな!」

 彼がその考えに至ったことは、紅愛にとってあまりにも不都合だった。

「まずい……!」

 彼女は商店街を守るべく、周囲の岩石を次々と撃ち落としていく。無論、それは彼女自身が敵対者に隙を許すことを意味していた。

「今だ!」

 嬉々とした声色で叫んだヴィランは、前方に巨大な岩石を飛ばした。直後、岩石は真っ二つに割れ、彼の眼前には紅愛の足が迫る。

「そんな……!」

 彼女の蹴りにより、ヴィランは後方へと飛ばされた。彼はすぐに体勢を立て直し、自らの背後に岩石の壁を生成する。その壁を勢いよく蹴り、ヴィランは前に向かって飛んでいく。そんな彼を前にして、紅愛は呆れたような表情を見せる。

「オレに近接戦闘を挑むつもりか? 愚かだな」

 そう呟いた彼女は、相手からの全ての攻撃をかわしながら体術を発揮した。彼女の打撃は、ヴィランの急所を着実に傷つけていく。この戦況を分析し、ヴィランは一つの答えにたどり着く。

「そうか……テメェは魔術で、俺の動きを読んでいるんだな。だがテメェの目の動きで、テメェの守りたいものはわかった」

「まさか……」

「あのケーキ屋だろう? さっきから横目で、あのケーキ屋の無事を確認してるもんなぁ!」

 どうやら彼は、あの戦いの中で相手の弱みを理解したらしい。彼は無数の岩石を上空に生み出し、その全てを一斉に発射した。

「やめろ! それだけは、許さねぇ!」

 咄嗟の判断により、紅愛はケーキ屋の前に飛び出した。彼女は体術を駆使し、迫りくる岩石を必死に破壊していく。無論、今の彼女には、己の身を守る余裕などない。

「終わりだ! ウィザード!」

 ヴィランがそう叫んだや否や、一つの巨大な岩石が紅愛の身に直撃した。

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