充電式
@the238
第1話
湿気を孕んだ真夏の嫌な空気が肌に絡みつく。ただ歩を進めるだけで汗が滲み出る。
小さな歓楽街。1人の少年の姿が目に入る。みすぼらしい格好をしたその少年は路上にへたり込んだまま、何をするでもなく、虚な目でただ空を見上げている。
その傍を、これまたみすぼらしい格好の中年の男が空き缶を拾い集めながら通り過ぎる。
呼び込みの声にも、どことなく活気が感じられない。
かつて経済大国と呼ばれたこの国は、今や見る影も無く、淀み切っている。この国の未来は何処へ行くのか。ひとつの雑居ビルの前で歩を止める。やけに明るく光を放つ看板を確認し、地下に続く階段を降り、ドアを開く。
「いらっしゃいませ」
「えっ、めっちゃ久しぶりじゃん。元気だった?」
久々に会ったカエデの声は弾んでいた。前に会ったのは何年前だったろうか。出会った頃はごくごく普通の女子大生だった彼女は、卒業以来ずっとこのガールズバーで働いている。就職はすっかり諦めたらしい。
会話に花が咲く。昔話に近況報告、話題は尽きない。しかし、グラスの酒は尽きるものだ。ユリナが新しい酒を運んで来てくれた。
「ユリナちゃんはお笑い担当なの!」
「ちょっとカエデさん、やめて下さいよ〜。」
どうやらカエデが勝手に言い出したことらしい。この店に何々担当という制度は無かった。
「ユリナちゃんは凄いんだよ!テンションが!ずっとテンションが高いの!電池が切れることがないんだよ!」
「私、充電式ですから。」
「何それ!ウケる!」
店内にカエデと、他のキャストの笑い声が響き渡る。溶けた氷がグラスの中で音を立てる。私も周りに合わせて笑う。しかし心の中では笑っていない。それはそうだろう。私は知っている。
ーーーユリナは充電式なのだ。
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