番外編

出会いと別れ

 ある時。ただの蝙蝠こうもり汚染おせんされた竜穴の影響えいきょうで一匹の魔物となり、多くの命をらったことで魔王へと進化した。

 そして同時期に魔王となった二人と手を組んで数々の国をほろぼし、うまい酒をみながらつかまえた女をおかしたり、的当てゲームとしょうして逃がした国民へナイフを投げて殺したりなど。様々な悪事あくじを働いていたがどこかたされず。

 何故満たされないのか分からなかったが、それでも仲間である二人と一緒に悪事を働くのはそこそこ楽しかったため。悪党として悪逆の限りをくし続けた。


 そんな日々を送っていると仲間である二人からせっかく魔王へと進化したのにも関わらず、もう命をうばいたくないというこしけ共が集まる場所があるということを仲間に教えてもらい。そんな腰抜け共を笑ってやろうと思ってその魔王――スピネルはウィンクルム連邦国の跡地を訪れた。

 そうしてスピネルは跡地に住んでいる魔王達を嘲笑あざわらいながら見て回っていたのだが、そこで餓死がししかけている吸血鬼の少女――ルビーと出会った。









「おい大丈夫かい! あっしの声が聞こえるのなら返事をしろ!! 何故魔王であるお前が餓死しかけている!!!」


「……ぼくは、もう、な、にも、うば、わな、い」


 スピネルは流石に同族である吸血鬼の少女が死ぬのは見て見ぬふり出来なかったため、道の上へ倒れている少女に話しかけたが。

 返ってきたのはよく分からないうわごととだけであり、もう一刻の猶予ゆうよもないと悟ると人族の国からうばった輸血パックに穴を開けてから少女の口の中へ血を流し込んだ。

 そして周囲の魔王達へ頼み込んで近くの住居に入れてもらい、少女を寝床へ寝かせると仕方なく少女が目覚めるまでワインを飲みながら待つことにした。


「……ここ、は」


「あっしが倒れていたお前に血を与えてこの建物へ運んだんだ。

 なんで餓死しかけていたのか知らねぇがな、お前さんも吸血鬼の一人なら血くらい自分で手に入れろ。落ちこぼれが」


 それから半日が経ち。少女が目覚めたのを見届けるとスピネルはそうき捨てながらその場を立ち去ろうとしたが、少女がちっとも嬉しそうにしておらず。

 どちらかというと殺意さついをもってスピネルをにらんでいることに気がついてその足を止めた。


「かって、なこ、とを、ぼく、は、しの、うと、して、た、ん、だ」


「ハァッ!? バカかお前は!! 死んだら旨い酒も飲めねぇだろうがッ!!!

 人間共の宗教にでも影響されたのかも知らねぇがな、死んだってあっしらは天界てんかいとやらへは行けねぇんだぞ!! この世を楽しまないでどうする!!!」


「そ、れ、で、も、ぼく、は」


 スピネルはそう言って少女を説得しようとしたが、少女の意思は固いようで自殺するのを止めさせることは出来なかった。

 スピネルは仕方なくしばらく少女と一緒に暮らすことを決め、嫌がる少女へ血を与え続けて少女が回復するまで共にごした。


「――貴方は何でボクが死のうとするのを邪魔じゃまするの、ほっとけばいいのに」


「……あっしはただ同族がみじめに餓死するのが嫌なだけだ、それよりもお前。

 生き物を殺すのが嫌だったらぶたでも牛でもいいから家畜かちくを飼って死なない程度に血を吸えばいいだろう、なんで死のうとする」


 そうしているとスピネルは回復した少女――ルビーから自殺の理由を聞かれて言葉にまり、取りあえずの答えを返してから自殺しようとする理由をたずねたが。

 本当は何故ルビーを助けようとしているのか、スピネル自身分からなかった。

 分からなかったがルビーと一緒にいるのは嫌いではなかったし、何よりもルビーと一緒に過ごしていると今まで満たされていなかった何かが満たされていくのを感じて悪くない気分だった。


「……殺したから」


「うん? 殺したからって、どういう」


「幸せそうに過ごしていた家族の命を、ボクがこの手で奪ったんだ。

 ただの蝙蝠だったと時――死にかけていたボクを助けてくれた人達を」


 スピネルはそんなルビーの話を聴いて絶句ぜっくしてしまって「……その時はまだ理性のないただの魔物だったんだから、仕方ないだろ」と言うことしか出来ませんでした。

 するとルビーが無言で泣き出してしまったため、スピネルは困り果ててしまいましたが。ルビーが泣き止むまでただ一緒にいました。

 そんなルビーの姿に何か感じるものがあったのかスピネルはルビーのために人間の国から家畜を奪ってきて牧場ぼくじょうを作り、慣れない建築けんちく作業を能力でごり押して終わらせてルビーと二人で住む家まで作りました。

 そうして奇妙な共同生活を続けてルビーからスピネルおじさんと親しみを込めて呼ばれるようにまでなっていた頃、スピネルの元へしばらく会ってなかった仲間から『すぐに来てくれ』とだけ書かれた手紙が伝書鳩でんしょばとで届けられた。


 そしてルビーへ仲間に呼ばれたから行ってくるとだけ伝えて急いで仲間の元を訪れると、黒神様からデュラン・ライオットという人族の魔法をあばかなければ仲間達とスピネルは今まで国を滅ぼしすぎた罪で殺されることを知らされた。

 だが。自身の死よりもスピネルが恐れたのはもしスピネル達が任務に失敗した場合、吸血鬼という種族そのものが不要だと判断されて処分しょぶんされるという事実だった。

 もしかしたらウィンクルム連邦国の跡地で暮らしているルビーは処分をまぬがれる可能性があると思いたかったが、それならば種族そのものを処分するという言い方はしないだろうと。どこか冷静な部分が判断した。


 ――ルビーが生き残るためには、この任務を成功させるしかない。


 そう理解したスピネルは全てをルビーへ話してから自身が闘うことを伝えたが、ルビーからは一緒に逃げようと言われた。

 だが黒神の強さとその目的を知っていたスピネルはルビーを気絶させて他の魔王達にルビーのことを頼んでから二人で過ごした家を出るとロケットペンダントを開け、ルビーの写真を見つめてからその場を立ち去った。

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 ちなみに一応書いておきますがルビー以外の吸血鬼はみんなクズばかりなので吸血鬼という種族そのものが欠陥品けっかんひんだと黒神は判断し、吸血鬼という種族を処分することに決めました。

 ルビーは元々特例として処分の対象から外されていましたが、スピネルの処分は決まっていたので結果は変わりませんでした。

 改心しても悪党は悪党だから仕方ないね♡


 それとごいしさん、レビューありがとうございました。とても嬉しいです!!

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