光竜

https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664561856671


「光竜ライオードその爪、俺がもらうぞ」


 天高くそびえる大樹ユグドラシルの根元で光竜ライオードと向き合いながらそう言ったデュランは鯉口を切り、刀を水平にかせてから体を光属性で強化して突っ込んだ。

 そのまま光竜ライオードがこちらへ向けて振り下ろした爪の軌道きどうを完璧に読み切り、後の先を取ることで相手の力も利用して爪を斬り裂こうとしたが。その攻撃では小さなかすり傷を与えるので精一杯だった。


「……お主とんでもない腕前だな、ただのミスリルで出来た刀で我が爪に傷をつけるか! 

 面白い、お主はその剣で何を目指す。救世主か、それとも覇道はどうか!!」


「……俺は昔から自分の心も他の人の感情もよく分からない。心が揺れ動くのは剣を振っている時だけだ。だから俺は救世主なんて器じゃない、例え死体を見ても何も感じないのだから。

 剣を振るうたび心が揺れ動く、剣が好きで修行して、剣の腕を高めるのが楽しいと俺は言える・・・――心の底から言えてしまう・・・・・・

 だから俺は誰よりも強くなって好きや愛って感情を知りたい、誰もが当たり前に持っているそれを」


 デュランの言葉を聴いた光竜ライオードはひとしきり笑った後、口から光属性のブレスを吐いてこちらを狙ってきた。

 その砲撃ほうげきの流れを読み切って回転しながら刀でからめめ取ったデュランはそのまま相手の元に送り返し、瞬時に地面を二十回りつけて光竜ライオードの死角へ入り込むと。そのままもう一度爪を斬りつけようとしたが読まれていた。

 目の前には光竜ライオードの顔があり、その口元は再び光属性のブレスの発射準備を終えていた。


「クソッタレが!」


「ガアッ!?」


 とっさに光竜ライオードのあごを蹴り上げてブレスを口内で爆発させ、相手がもだえている間に先程斬りつけた所を寸分違すんぶんたがわず斬り続けることで爪を斬ろうとしたが。

 切り口が爪の半分ほどの位置に差しかかった頃、回復した光竜ライオードが周囲へ衝撃波しょうげきはを放ったことでデュランは吹き飛ばされた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664561822932


「なるほどよく分かった、どうやら手加減はいらないようだ。ここからは本気で行くぞ!」


「くっ、こんちきしょうめ!」


 体にまとった光属性の魔力を流動させることで衝撃波の大半は受け流したが一部の衝撃が内臓を貫き、デュランは口から血を吐き出した。

 しかし即座に自身の体を操作することで治すと、大樹ユグドラシルのみきを蹴りつけて再び光竜ライオードの元へ向かっていった。


「クソッ!」


「我が爪をここまで斬るとは見事! だがしかし、得物えものがそれではもう闘えまい。

 降参するのであれば見逃してやるぞ?」


 しばらく攻防が続き、決定的な一撃を放った後。

 光竜ライオードの爪を斬れる寸前の状態に出来たが、やはり無理をさせすぎたのだろう。刀身が中程から折れてしまった

 格上を相手に闘い続けたデュラン自身も疲労がたまり、今にも崩れ落ちそうな状態だった。


「降参? 冗談を言うなよ――俺の名前はデュラン・ライオット! 剣神を超えて世界一の剣士になる男だ!!」


 デュランの言葉に光竜ライオードはニヤリと笑みを浮べた後、雄叫おたけびを上げた。


「その覚悟よし! ならばもし、我が爪を斬れたのならばオリハルコンの鉱床と大樹ユグドラシルの枝木もやろう!! 行くぞォッ!!」


「――ぶったる!!」


 一瞬の交差こうさの後、倒れたのはデュランだった。

 そしてその胸には四本の・・・あとがあった。


「ふっ、フハハハッ――見事!」


 光竜ライオードは自身の胸に深く刻まれた傷跡を見つめた後、背後のデュランへ振り返った。

 それから少し遅れてデュランが斬った爪が地面へ落ちたのを見届けた光竜ライオードは、花の妖精が必死で包帯などで応急処置をしているのを尻目にその場を立ち去り。約束の物を取りに行った。


「さすがはあの方のう――いや、これは口に出すべきではないな。どこで誰が聴いているか分からん」


 そう言いながら最期のあの瞬間、光竜ライオードは自身の爪が斬られたことに一瞬気がつくことが・・・・・・・できなかった・・・・・・ことを思い出して笑った。

 見失うほどにデュランの剣の速度が上がった訳ではない、斬撃ざんげきから極限まで無駄がなくなったことで視界へ入っているにも関わらず認識できなかったのだ。

 そうあの時デュランは無意識の内に魔力をそのまま体へ取り込んで魔法を使い――剣神になっていた。


「あやつにとって普通の魔力は毒その物、それを取り込んだのだ。三日は目覚めまい。

 無意識下でも光属性だけを体内に取り込めるようだし、問題はないだろうがの。

 いや、問題と言えばどうやってデュランにあの魔法の使用を禁止するかの? 困ったのぉ」


 その三日後、目覚めたデュランへ光竜ライオードはあの魔法を使わない方が体を隅々すみずみまで鍛えられるなどと言って説得を試みたが。

 案の定言うことを聞かなかったので仕方なく魔法の安全装置である詠唱えいしょうを考え、これを詠唱してからあの魔法を使うように言い含めてデュランと別れた。

 約束を守ってくれるか不安だったが、大樹ユグドラシルの番人としてこの場を離れるわけにもいかない光竜ライオードにはデュランを信じることしか出来なかった。

 ちなみにこの不安は後に的中することになるが、それはまた別のお話である。







「こんな感じの闘いだったな、最期の一撃を避けられなかった時は死んだかと思ったが。生きてるんだから運がいいよな~、もうけもうけ」


「もうけもうけじゃありません、絶対に光竜さんとの約束を守ってくださいよね! 僕とも約束です」


 そう叫ぶアリスと約束した後。再び荷車を走らせて昼頃にデュラン達はプライド王国へと辿り着いたが、そこに広がっていたのは地獄のような光景だった。

 山よりも大きな蜘蛛くもの魔物とその手下である小蜘蛛から人族達を守るため、闘いの騒乱に乗り込んだデュラン達は再び現れた蛇の大魔王のわなにはまる。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664564822988


 奥の手魔法を使うしかなくなってしまったデュランは剣神となり。

 アリスとヴィンデを守るため、全力を出せる十秒に己の全てをけるのでした。


つるぎとなりててきつ――天下無双てんかむそうっ」


 そして――つるぎは解き放たれた。

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