デート

https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664563908555


「アリス、これが今向かっているドライ王国だ。ドライ王国は一応立場としては中立の国だがな。

 人身売買や違法薬物取引などが当たり前のように行われてる国だから俺の側を離れるなよ、危ないからな」


「な、何ですかこれ!? もしかしてこれはですか! 僕、こんなの初めて見ました!!! すごいです!! すごい!!」


「……話、聞いてないな」


 晩飯を食べ終わった後。デュランはアリスへドライ王国がどんなところなのか教えるため、前滞在たいざいしたときにった写真を見せながら説明したのだが。

 どうやらアリスは写真そのものを初めて見たようでかなり興奮していてうさぎの様に飛びねている。大変可愛いがこれでは俺の話など右の耳から左の耳へ抜けてしまうだろう。


「というわけで――アリス、今から回るぞ!」


「えっ、何のこと――ひうっ!?」


 なので飛び跳ねているアリスを捕まえてから腹にしっかりと腕を回して拘束こうそくした後、その場で独楽こまの様に高速で回転して小さな竜巻となり。空中へ飛び上がってからアリスの拘束を解いた。

 そのままアリス独楽は空中できりもみ回転していたが、しばらくすると落ちてきたので受け止めてから落ち着いたか訊いてみることにした。


「フフッ、落ち着いた?」


「おひふひまひは、ずびばべん」


 どうやらとても落ち着いた様なので頭を撫でながらアリスが回復するのを待っていると、ヴィンデがこちらを「何はしゃいでんの、子供か」とか思っていそうな顔で見ていると気が付き。

 何でか腹が立ったので空気をデコピンで飛ばし、弾丸と化した空気をヴィンデに命中させた。


「アリス、もう一度言うけどこれが今向かっているドライ王国だ。ドライ王国は一応立場としては中立の国だがな。

 人身売買や違法薬物取引などが当たり前のように行われてる国だから俺の側を離れるなよ、危ないからな。分かったか?」


「分かりました、さっきはごめんなさい」


 今度はきちんとアリスが返事を返したので気にしてないと伝えるため、頭を撫でてから写真はプレゼントとしてあげることにした。

 それからヴィンデが怒りながらこっちに来ようとしていたので、五指全部で空気を飛ばして打ち落としておいた。


「基本的な方針としては奴隷どれいや中毒者には関わらないぞ、切りがないからな。

 それでも助けたいやつがいたら俺に言え、何とかしてやるから」


「分かりました! しっかり言います!!」


 デュランは自分で説明しながらヴィンデのせいで絶対面倒ごとに巻き込まれるだろうなという確信があったが、アリスを置いていくという選択肢は無かった。

 ヴィンデの幻惑魔法も一定以上の実力者には気が付かれるため、絶対ではないのだから。

 それと幻惑魔法まで持ち出して大人げなく反撃してこようとしたヴィンデを両手の乱れ打ちで対処し、全ての分身を消して本体を弾き飛ばした。ほら、絶対じゃない。


「それじゃ、そろそろ寝るぞ。アリス。

 そう言えばさっきのはこのカメラって道具で撮ったやつだからこれ、やるよ」


「わぁっ! ありがとうございます!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664563968563


 就寝準備をしながらアリスへカメラと説明書を手渡してみると予想通り、目をキラキラと輝かせて喜んでいた。

 そのままアリスを見守っているとヴィンデが戻ってきたが、もう仕掛けてくる気はないようでほうふくらませて怒っていた。

 ご機嫌取りにリンゴを一個渡した後、船をこぎ始めていたアリスを天幕へと運んだ。


「……ヴィンデ、起きてるか」


「起きてるわよ。何、デュラン」


 旅の疲れからか今日は相手をしてくれず眠ってしまったアリスを見守りながら見張りをしていたが、やはり謝っておくべきかと思いヴィンデに話しかけ。

 侵略戦争へは基本的に介入しないとデュランの方から言ったにも関わらず、前言ぜんげん撤回てっかいしたことを謝った。


「何よ、そんなこと? 別にいいわよ。

 私も侵略戦争を何とかしたかったからね。」


「それと何でか最近、前の俺ならやらないようなことを何でか分からんがしちまうんだ。けど、俺はそれを悪い物だとは感じてないんだ。

 もしかしてこれが前ヴィンデが言っていた愛や好きって感情ってなのか?」


「えぇ、そうよ」


 ヴィンデから許された後、ずっと気になっていたことを訊いてみると肯定されたデュランは何とも言えない感情に支配されたが。

 一生縁がないと思っていた結婚をして奥さんが出来たんだから今更かと考えを打ち切り、刀を抱え込みながら目を閉じた。ヴィンデの流した涙を知らぬまま。






https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664564122766


 翌朝。ドライ王国へつくとデュランは髪を赤く染めて瞳には赤いコンタクトレンズを入れて変装し、アリスへ白いローブを着せてから門まで歩いた。

 荷車を幻惑魔法で隠してきたため持ち物は毛皮類と刀しかないが、旅人など珍しくも無いため動物の毛皮を見せながら売りにきたと伝えれば問題なく門を通過する。

 ここが起源統一教団の支部がある場所ならアリスを通さなかったかもしれないが商人の国であるドライ王国では特徴さえ隠せば、暗黙の了解として多種族の出入りを黙認している。親切心からではないが。


「アリス、おどおどせずに堂々としてろ。その方が目立たない」


「わ、分かりました」


 そう伝えても周囲の人族が恐いのか目を閉じて俺の右手に抱きついてきた。

 ……これはこれで悪くないのでこのままにしておこう。

 買い取り所で状態のよかった魔物の毛皮やドラゴンの爪や牙などを売り払い、ある程度の金が手に入ったため表通りから裏通りに入った。

 そこら中に浮浪者ふろうしゃがいて環境は最悪だがあいつらは殺気を飛ばせば散るので気にせず進み、デュランの財布をすろうとした子供の財布を逆にすり返し。嫌がらせで中身をばらまいたりしていると目的地に着いた。


「ここが目的地だ、この店の中じゃフードをとってもいいぞ」


「分かりました」


 アリスは怯えながらフードをとると目を開けて店内を見渡し、着物などが丁寧に畳んである光景からここが服屋だと判断したのか。デュランに触ってもいいか訊いてから服を見始めた。

 そのまましばらくするとやなぎ色の着物を手に取ってからカウンターへ向かおうとしていたが、デュランが咳払せきばらいしたことで自身が金を持ってないことを思い出したようで。赤面しながらデュランの側にやってきた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664564180548


「これがドラゴーネ金貨だ、これ一枚で一月くらいは暮らせる。買ってきな」


「でゅ、デュラン、僕。実際にお金を使ったことがないんだけど大丈夫かな?」


「いいよ、口止め料も兼ねてるからそのまま渡してくれ」


 デュランがそう言うとアリスは安心したのか三着の着物を持ってカウンターへと向かい、金貨を手渡して着物を買った。本当は大銀貨でよかったのだが、いい物を見られた礼なので構わないだろう。

 そのまま再びアリスへフードを被せてから外に出ると目の前をドワーフ族の男女と木人族の男性が走り抜けていった。


「デュラン、今のは」


「姿をさらけ出してるってことは奴隷商人から逃げてきたな、まあよくあることだ。気にするな」


「……分かりました」


 目の前を棍棒を持って怒りながら通り過ぎていった人族の親父に視線を向けながらそう言うと、アリスは思うところはありそうだったが飲み込んで何も言わなかった。

 しかし嫌な予感がしたデュランは懐に目を向けてからため息をついた。

 ヴィンデがこちらを睨んでいるのでやはり助けなければいけないようだ。アリスみたいに少しは遠慮してくれ、母さん。


「少しここで待っててくれ、アリス。すぐ戻る」


「分かりました!」


 町中で魔力を体へまとうと衛兵えいへいに見つかるのでデュランは荷物をアリスへ預けてから身体能力のみで通行人の視界から消え、屋根伝いに移動して奴隷商人を七つ先の通りへ置いてきた後。

 一瞬で三人組近くへ移動してから殴り倒し、ロープでグルグル巻きにして袋小路ふくろこうじへ叩き込んだ。

 そうして三人組を逃げられなくしてから元の通りに一度戻り、アリスへ今から三人に尋問状況確認するけどどうするのかとくと同席したいと言ったので二人で袋小路へ入った。

 そしてデュランは気絶している二人・・を見ながら


 ――デートの邪魔してんじゃねぇよ、死にてぇのか?


 と思いながらも三人組にその場で創り出した海水を被せるのだった。







「うぅ、何が起きたのですわ」


「俺が嫌々助けたんだよ、お前らをな。今からいくつか質問するから正直に答えろ」


 頭から海水を被っていその香りをただよわせている三人組のドワーフ族の女の独り言に対してそう返した後、刀の鯉口こいくちを切ってから刀のつかへと手をそえ。嘘を言えば斬るとデュランがおどすと。

 ロープで縛られている状況ということもあり色々と素直に答えた彼らの話を聞いてまとめてみたが、奴隷商人は悪いやつではない可能性が高いということが判明した。


「なるほど……故郷こきょうを追われ放浪ほうろうの旅をしてたが途中で食料がなくなり、動けなくなっていた所を人さらいに捕まってドライ王国まで連れて来られた。

 自分達を買った奴隷商人に飯は充分食わされてたが売却日が決まり、二人はそれで離れ離れになることが決まったと。

 それが嫌でそこの女ノアが泣いていたら、そこの木人族クラウンが助けてくれると言ったから。そこの男ルイスと共に話に乗ったと」


 奴隷制度は本来理由があって身売りするしかなくなった人々への救済措置きゅうさいそちだったことを思えば、この商人の姿が戦争になる前の正常な奴隷商人の姿なのだろう。何せこんなご時世じせいだ。

 態々わざわざ多種族の奴隷に健康を維持できる以上の食事を与えるなど余程のお人好しか、常識知らずのアホしかいないのだから。

 まあ、人族は皆邪悪じゃあく人非人にんぴにんしかいないとでも思っていそうなドワーフ族の男女にそんなことを言っても信じないだろうが。


「お願いします。私に出来ることなら何でもしますので他の奴隷の方達も助けてください!!」


「待てノア! 人族にそんなことを言ったら何をされるか分からないだろッ!?」


「だけどルイス!!!」


「我が輩は何でもいいよ、面白そうだし流れに身を任せるわw」


 ……というか理解しているのだろうかこの馬鹿女は。何でもすると言うことはこの場で対価として首を斬られても文句が言えないということを、アリスがいるからやらないけど。

 木人族の男性はそれを理解していそうだが口を出す気配はない。コイツだけ攻撃を受け流していたし実力からくる慢心まんしんだろう、恐らく。


「木人族の男……確か名前はクラウンだよな、助けて欲しいって言うならお前は手をかせ。それとお代はお前ら三人の残りの人生だ。

 何か言いたそうなそこの二人は寝とけ、ヴィンデはこの二人を見張っておいてくれ。最悪殺してもいい」


 アリスのいる場所に実力者であるクラウン残していくのはよくないと判断してアリスと共に移動して裏通りで宿を取り、アリスとヴィンデ。ついでに眠らせたドワーフ達を宿に置いてきた後。

 クラウンに裏通りで買った汚いローブを着させてから奴隷商人の店まで案内させ、二人で天井裏からしばらく様子を見ていたが予想通り。この奴隷商人は善良だったようでドワーフ達のことを普通に心配していた。

 ……クラウンに店の一部を破壊されているのにこれとか、コイツ何で奴隷商人なんかやってんだ。


「さっきは悪かったな、今一事情が分からなかったもんでな」


「ッ!? ――先ほど拙者せっしゃを連れ去った御仁ごじんですな、いえ拙者こそ先ほどは見苦しい所を見せて申し訳ありませんでした」


 そうして謝るこちらへ奴隷商の言葉に嘘はない、心からの謝罪だった。

 デュランは正直ドワーフ達よりもこの奴隷商人の方が好感が持てるなと思いながらも気を取り直し、三枚のドラゴーネ金貨を見せながら会話を始めた。


「さて、突然の話で申し訳ないが俺はここから逃げた三人からの依頼でここまできた。

 話を聞いてくれると嬉しい」


「ルイス達からですか、分かりました。聴きましょう」


 そうしてドワーフ達の言っていたことをそのまま話すと奴隷商から自身の不手際でデュランへ迷惑をかけたことを謝罪されたが、気にしてないと返してからクラウン達を身請みうけするための三枚のドラゴール金貨を手渡して三人を奴隷商人から購入した。

 まあクラウンに関しては正直放っておいてもいいのだが店の修繕しゅうぜん費込みで渡し、他の多種族の奴隷達へ故郷に帰りたい者がいるかを訊いて希望した奴隷の分の金を払い。夜になるのを待ってから店を出た。


「クラウンお前は奴隷達を木材のおりで囲え、俺はお前とその檻を持つ」


「分かったでござるw、それではお願いするでござるデュラン殿ww」


 そのまま全員を連れて旅をするのはだるいので故郷の場所を訊いてその場所へ夜の間に超速で送り届け、最期に残った機人族の男の娘以外は全員故郷へ送り届けた。

 デュランは唯一残った機人族のリーベにどうしたいか訊くと旅についてきたいと言ってきた。理由は俺達の旅の行く末が気になるからだそうだ。

 ……奴隷になっていたのも奴隷の知識を知りたかったのでわざと捕まったと言うし、知識欲に狂ってる気違いのようだ。


「分かった、ついてきてもいいから一端これを着ろ」


「分かった。これが人族のローブ、興味深い」


 クラウンと同じ様にリーベにも汚いローブ渡してみると予想通り、しばらくローブを観察してから身に纏った。

 そのままアリス達のいる宿へ戻った後。四人の奴隷紋どれいもんを起動してもらい、デュラン・ヴィンデ・アリスに不利益を発生させないことと危害を加えるのを禁止することで二人の安全を確保する。

 ……恐らくクラウンには効果がないので彼に関してはデュランが見張るしかないだろう。


「ヴィンデ、俺はクラウン達と天幕や食料品を買って荷車に積んでくる。人数が一気に増えたからな、そう言えばリーベお前普通の食料は食えるのか?」


「我が輩が家などはその場で作れるので天幕はいらないでござるよw、その分の金で風俗ふうぞくへ行きましょうぞww

 我が輩、いい所を知ってるのでござるよw」


「食べられるよ、鉱物から肉、野菜でも何でも。それと風俗だが私も興味がある、一緒に行かないか?」


 取りあえずクラウンは余計なことを言ったので片手で物理的にめてからそのまま連れて行き、リーベは普通の食料を食べられる様なので裏通りで買ったリンゴ飴を与えておいた。

 そして様々な消耗品や天幕等を買い込み、翌朝ドライ王国を出発し次の目的地であるプライド王国を目指して旅立つのだった。


 ちなみに人数が増えた影響でアリスが恥ずかしがって夜の相手をしてくれなかったため、デュランは八つ当たりで一晩でドライ王国近辺の魔物を刈り尽くし。

 しばらくの間、ドライ王国には平穏が訪れるのでした。

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