結婚

 僕は普段はしない余所行よそゆきの化粧けしょうを顔にし、白いワンピースランジェリー姿でデュランを待ち。部屋の中へ入ってきたデュランをベッドに三つ指をつきながら会釈えしゃくで迎えた。


「デュラン、僕は君のことが好きだ。あったばかりでこんなことを言うのは変だと思うかもしれないけど、本当に君のことが好きなんだ。

 だから、僕と結婚してください」


 そして変態だと思われてないかと不安に思いながらも魔物から助けてくれたことに対する感謝を動揺するデュランへ伝えた後。貴方のことが好きだと、結婚してほしいと頭を下げた。


「……俺なんかに・・・・そんなことを言うなアリス、俺はこの里を自分の都合で見捨てようとしたんだぞ。エルフ族を食べて強くなった魔物と闘いたいがためにな」


「ッ! それはちが――」


ちがわないさ。過去にエルフ族がヴィンデを攻撃してきたという理由だけで、俺はこの里を魔物の強さを上げる道具として消費してもいいと思ったんだ」


 僕はデュランが自虐じぎゃく気な笑みで己を否定する言葉を口にしたのを聞いた後、それでも君は助けてくれたじゃないかと言い返そうとしたが。

 その上からかぶせるように皮肉ひにく気な笑みを浮べながら自己否定を続けるデュランの姿を目の当たりにした僕は、何でか彼が泣いているように・・・・・・・・感じて混乱こんらんした。


「最低だろ、俺。アリスが命をけて仲間を助けようとしている時にそんなことをしてたんだ。

 だから俺にはアリスの気持ちを受け取る資格なんてな――」


「――そんなことはない! この里を救った君は僕にとって救世主ヒーローなんだ!!」


 いや違う・・・・、彼は泣いている。顔には涙なんて流れてないけどデュランは心の中で泣いている。

 昔の僕と同じだ、何もかも自分が悪いと決めつけて周りが見えていないんだ。

 きっと今のデュランにどんな言葉をかけても意味がない、彼自身が受け止めることができない。だから――僕も一緒・・・・に泣こう・・・・


「――魔物に殺されそうになった時、僕はこわかった。

 死ぬことがじゃない! もう誰も守れなく・・・・なってしまう・・・・・・ことが恐かった!!」


「……アリス」


 僕は母親にも言ったことがない弱音をデュランへ向かって吐き出した。

 デュランがおどろいたように目を見開いて僕の方を見ているのを見つめ返しながら何故か涙が出てくる。

 僕は今から言うことでデュランに失望されるかもしれないことが恐くて泣いているのだと、おくれて理解して。我ながら骨抜きにされたなぁと小さく笑みを浮べた。


「だってそうだろ! 誰も守れなくなった僕に何の価値あるッ! 僕が死んだ所で悲しんでくれるのはお母様だけだ!!

 僕は誰かを助けることでしか自分の価値を示せない! なのに死んだら誰も助けられない!! 僕はまた無価値な忌み子ハーフエルフに戻ってしまうッ、だから死ぬのが恐かっんだ!!!」


「そんなの、当たり前だろ……誰だって死ぬのは恐い。それでも守るためにアリスは魔物に立ち向かったんだ、立派じゃないか」


「立派? 分かったようなことを言わないで!!」


 言葉を選びながらなぐさめようとしてくれたのだろう、立派だと言ってくれたデュランの優しさが小躍こおどりしたくなるほど嬉しかった。

 だけどそれを表に出さないようにしながらデュランを怒鳴どなりつけた。


「僕が人助けをするのはそうしないと誰も僕を見てくれないからだ! お母様は僕へ罪悪感を抱いているし、他の大人達も僕の父親への憎しみを隠しきれていないっ」


「……アリス、もういい」


「分かるかい、僕は自分のために人助けをしていたんだよ。なのにそんな僕が立派? 笑わせないでくれよ! 僕は一度だって誰かを助けたくて助けたことなんか――」


「――もうめろ、アリスッ!!」


 デュランはそう言いながら僕を抱きしめた。

 そのぬくもりに甘えてしまいたい気持ちを抑えつけて、僕はデュランを突き飛ばそうとしたができなかった。

 何故なら真剣な表情のデュランに――くちびるうばわれたから。


「う? ……!!?」


 僕は抱きしめられたままベッドに押し倒されて足を魚のようにバタつかせたが腕力わんりょくで押さえ込まれ、顔をそむけることもできず。の果てに舌まで入れられて無茶苦茶むちゃくちゃにされてしまった。

 そのまま僕は何度も絶頂ぜっちょうさせられて、全てが終わったときには文字通りの虫の息だった。


「な、な、にを……するん、だ、よ」


「何って、こういうことを期待してそんな格好をしてたんだろ?」


「なっ」


 デュランの言葉に僕は真っ赤にまった顔を隠そうと体の力を振りしぼってうつ伏せへ体勢たいせいを変えたが、デュランに手を差し込まれてひっくり返されてしまった。

 とっさに顔を腕で隠そうとしたがデュランが両手を顔の横で押さえ込んだせいで隠せなかった。

 こうなると僕にはデュランをにらみみつけることしかできなかった。


「可愛いなアリス、とても可愛い」


「……僕以外の女性にもそう言ったことがあるのかい、デュラン? さっきの口づけもふくめて、何か手慣れているように感じたんだが」


 僕は赤い顔を見られた仕返しに少しでもデュランを困らせてやろうと気になっていたことを訊いたが、言ってからもしかしたら自分が初めての相手じゃないのかもしれないと思って泣きそうになった。

 そうしてうっすらと涙が出そうになった時、デュランはあっさりと返事をした。


「いや、こうやって一緒に寝るのはアリスが初めてだ。だから上手く出来ているか不安だったんだが、その様子なら大丈夫そうだな。

 やり方を教えてくれたヴィンデには感謝しなくっちゃな」


「はっ、初めて?」


「おう、初めてだぞ」


 僕はその言葉がうれしくて涙を流すのと同時に戦慄せんりつした。

 つまり口づけだけで僕の体力を限界近くまで削り取ったあれはあくまでも様子見だったということだ。

 そう考えると僕はこれから先ほど以上の快楽かいらくを味わうということであり、正直耐えられる自信がなかった。


「ありがとうなアリス、俺なんかのために弱音を吐いてくれて嬉しかった。

 そして――それと同じくらいムカついた」


「――ひっ」


 デュランはそう言うと先ほどまで浮べていた笑顔を消して真顔になった。僕はそんなデュランが恐ろしくて何とか逃れようとしたが無理だった。


「俺があんな腑抜ふぬけたこと言ってたから、アリスに言わなくてもいいことを言わせちまったと思うと俺は自分が許せねぇ」


「な、何のことかな?」


 僕はそうやって必死にとぼけながらも冷や汗を流していた。

 何でか分からないけどデュランは僕のさっきまでの弱音がデュランの・・・・ためのもの・・・・・だと気がついている。

 もし認めてしまったら何かとんでも・・・・ないこと・・・・をされそうな気がして目をそらしたが、やってしまってからそれが遠回しな肯定こうていだと自覚して青ざめた。


「アリス、俺はヴィンデの言うような愛とか好きっていう感情はまだよく分からねぇけど。それでも、俺のためにあんな弱音も吐いてくれるお前のことを愛したいと思った」


「は、はい……」


「だから結婚しよう。俺はアリスの全てがしい」


 僕はデュランがそう言うのを聞きながらこれから何回絶頂させられるのか分からず、恐怖きょうふしながらもどこか歓喜かんきしている自分がいることに気がついて苦笑した。


「はい! 不束者ふつつかものですがよろしくお願いします!!」


「うん、よろしく。

 俺達は訳あって一カ所にとどまらないよう旅をしてるから子供が出来るようなことはしないけど、それ以外は全部やるから覚悟してね――アリス」


 そう言った僕は恐怖心を押さえ込んでデュランの方へ視線を向けたが、それは間違いだったかもしれないとどこか冷静な部分が判断した。

 何故ならこちらを見るデュランの眼が獲物えものらえたライオンの目をしていたからだ。


「さてアリス、今夜は寝れると思うなよ?」


「あはは、お手柔らかに」


 それから朝までイカかされ続け、全てが終わった時にはベッドは僕から出た液体でグチャグチャになっていた。

 ベッドを片付ける人へ申し訳なく思いながらも掃除そうじする余力などなく、僕は夢の世界へと旅立つのだった。


 翌日、僕とデュランは里の住人が見守る中で婚礼こんれいり行い、正式に夫婦となったが。

 お尻がヒリヒリと痛んで座ることが出来ないため、笑顔のデュランにお姫様抱っこされたまま僕は式へ参加することになりました。

 とても恥ずかしかった――デュランのばかっ!

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