第57話 24歳になったかも
「〇〇細胞は、ありまぁす!!」
…大変だなぁ。出る杭は打たれるというかなんというか。
俺はボンヤリと朝のニュースを観ながら、呟く。
2014年。
ウクライナで親ロシア派の政権が反政権デモで崩壊し、EUに寄った政権が発足、それに対し南部クリミア半島にロシアが軍事介入。武力を背景に領土拡大を強行したロシアの行動に、冷戦後の国際秩序は大きく揺らいだ。
この軍事介入は2023年でも終わる事が無かった。
また、イスラム過激組織「イラク・シリアのイスラム国」が、イラクの都市を制圧し、指導者を預言者ムハンマドの後継者とする「イスラム国」の樹立を宣言した。
シリア内戦で政権の統治が及ばない土地で活動し、少数派や他宗派の迫害などの残虐行為を続けた。
そんな海外事情と、細胞の論文改竄で揉める日本の平和さに。
風邪を引く程に温暖さを感じていた。
投資した株は上昇傾向ではあるが、2014年では売却利益が出るほどでも無かった。
こんな時は、売却に関しては…静観かなぁ。
むしろ、買い増しするチャンスでは有るんだよぁ。
【世界が荒れたら、株は上昇】
皮肉だが、間違いなく歴史の上では起きてきた真実だ。
悲しいことに上がる株は、殆どがその荒れている場所では無く、安全な場所から武器や食料を送るような国々の株であった。
戦争や経済の傾きは、違う国の経済成長に。…繋がってしまうとは悲しい現実だな。
「…ご飯、出来ましたよぉ~~。この家で、最後の朝ご飯になりますよぉ。」
玲奈が朝食の支度を終えて、声を掛けてくれる。
「よっと…行くよぉ…愛、真人。」
「…うわぅ?」
「あうあー!」
2歳半になり、言葉が出てきてもおかしくないが…
まぁ、焦ることはない。ゆっくり我が子の成長を見守っていこうじゃないか。
「おっ。今日は和食御膳だ~。凄いね、こんなに小鉢いっぱいで。嬉しいけど…大変じゃなかったかい?」
「うふふッ…。最近、少し…手を抜いたものが多かったので…。私はこの家のキッチンに思い入れがあったので…つい、頑張っちゃいましたね。」
素晴らしい食卓だ。
…なんと大人4人分と子供2人分、しっかりと用意してくれている。
この献身性には、ホントに頭が全く上がらない。
「あっと…由佳さん。梨沙ちゃん、呼んでくれます?」
「ええ。大丈夫よ。…妊婦じゃなくなると、身体って凄く軽いの。ホント…素晴らしいわぁ。」
「俺も行くよ。」
コンコン。
「…空いてるよ~!」
ガチャ…。
「…寝てる?」
「うしし。…さっき寝たところ。3人共、本当に可愛いね!」
「おぎゃ…おぎゃぁあ。」
「オギャ…。」
「…おぎゃぁ…」
・・・・。
「…全員、起きちゃったね。」
「まぁ、連れて行こうか。」
「…私、頑張ったのに~!」
3人の愛する妻たちは、皆。無事に出産した。
俺と玲奈は24歳、梨沙は23歳、由佳は28歳。愛と真人は2歳半となった。
「本当に。こんな大家族になるとは…考えもしなかったよ。」
「うふふ…お嫌でしょうかね?幸村くんは。」
「私は…もう親には会わないから。その分だけここでいっぱい家族が欲しいなぁ。幸村くんの子供、もぉっと産んで家族だらけにしちゃうもんね。」
「…私も。この家族の多さは好きですね。こんな賑やかな家庭に、私もいるなんて…夢みたいです…。」
「あ、…やってしまいました。」
「ん?」
「この納豆に、お庭の大葉を刻んで載せようかと思っていたのに…。今、取って来ますね?少し、お待ち下さいね?」
「ああ…。いいよ、俺が行く。…元々、納豆にそういう薬味を入れるのが好きって言ったのは俺だしね。…子どもたちを見ておいてよ。やっぱり…母親のほうが反応がいいからさ。」
玲奈の料理は、庭に植えた野菜から…作られるものが非常に多い。
形の揃っていない野菜も多いが、無農薬で作っており、身体にも非常に優しい。
新しい家にも庭を作る予定なので、種を今から大量に準備しているとも聞いている。このような時間と手間がかかることを、育児の間にしていることに驚愕を覚えつつも、玲奈のそういった継続性に尊敬を覚える。
「お、綺麗な葉っぱになってるな。…コレくらいで良いかな?」
大葉を採取し終えた俺は、一度大葉を家の中に渡した。
「ちょっとだけ。水をあげてくるよ。…少し、今日は転居作業で忙しくなりそうだからね。」
そう言って、庭に出て作物に水をあげていると、何か…聞き慣れない音が聞こえ始めた。
カッ、カッッ…カッ!!
カッ…カカカカッ…カッ!
何の音だろう。そう思って音の方へ向かうと、そこは玄関の扉であった。
カッカッ…カツン…
ギィ…
玄関の扉がゆっくりと、開く
「あはぁ…開いたぁ。開いたよぉ!…私の…私と真田くんの…おウチの扉ぁ。」
そこには。
【佐々木 笑】がドライバーのようなものと、ハサミを持って。
とても嬉しそうに、立っていた。
ゆっくりと。
周りを見渡して。
目があった。
「あは。」
「…真田くんだぁ。」
「…アハハ。」
「…あ、アハHAはㇵは…。」
「わたしの…真田くんダァ。」
その目つきは、何処か遠くを見ているようで。
俺を、本当に見ているのかと疑いたくなるような。…だが、間違いなく俺を視界の中心に置いて。こちらを見つめていた。
「…正直、いつ以来だ?」
「…あは♡私は覚えているよ。最後に顔を合わせたのは…大学の卒業式。あの時は…この家が出来て、玄関で野蛮な人達に捕まった時かな。その時のせいで、おまわりさんに近づいたら駄目って言われてたから…近付けなかったもんねぇ。」
【佐々木笑】は笑顔で、そして紅く頬を染めて。
ゆっくりと近付いてくる。
「ああ。卒業式にウチの警備員、連れてったもんな。」
俺は、その場から動かず。
じっ…と、目を逸らさずに、言葉を紡ぐ。
後ろには、慌てふためく…愛する家族の声がするから。
「うふふ♡ホント、恥ずかしがり屋さんだよね?」
「…なんでだ?」
「…ううん?なぁ~に?」
「なんで、俺に。ここまで執着するんだ?」
「うふ♡…私ね、最初の告白の後から。ずっと夢を見るの。なんども…同じ夢だよ♡」
「その夢が…どうした?」
スッ…と、【佐々木笑】の表情が変わった。
暗く沈んだ目つきで。語り始めた。
「その夢は…おかしくてね。真田くんと私は…結婚しているの。もうすでに。」
「…夢だな。ホント」
「黙ってェ…聞いてよォォォォオオオオ!!」
「…あは♡ごめんね、怒鳴って。あはは、は…は…。」
「話の続きをするね?…その夢は…何故か、貴方の事が好きじゃない私なの。」
ゴクリと、生唾を飲んだ。
「貴方が何度迫ってくれても、冷めていて。私は会社の元上司と不倫していて…。その人との子供までいたの。」
こんな…事が、あってもいいのか…?
「…意味がわからないよね?…世界で1番、好きなのは…真田くんなのに。どういう事だろう。何度も何度も同じ夢を見るのよ。」
「君と、…俺が。結婚した時の。…未来なんじゃないかな?」
「…あは♡」
「…知ってる。真田くんは知ってる。…絶対に、その未来をぉ!!!真田くんは、観たことが有るんだぁ!!」
その狂人を。
俺は、心の底から…恐ろしいと思えた。
「そんな…未来は。観たことも…今後観ることも…絶対に無い!!夢の話を…俺に…俺にするなぁあああああ!!!」
【佐々木 笑】は。ニタァ…と笑った。
「いいや、嘘よ。…貴方は知っている。その反応、その狼狽えよう。何かを知っているわね?…私、何処かで観たような顔だったのよぉ。…その元上司さん。」
「やめろ…!それ以上、話しかけんなよぉ!!」
「あれは…間違いなく、凶行の悪魔。【大塚 大貴】だったもの…。ね、パパ?」
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