第51話 2011年、大学を卒業して
震災後の復興に尽力した俺は、途中で力尽きた。
「真田さん、過労によるダウンが原因です。カウンセリングでは、鬱に近い症状も診られます。震災復興にだいぶ力を入れていたとお聞きしましたが…ご自身のお身体も大事になさって下さい。」
医者からはそう言われた。
大震災で救えた人は0。
その後の復興支援で助けれた人は1000人ちょっと。
何もしないよりは良かった。
そう思うしか、無かった様に思う。
コンコン。
「ん、はーい。」
「おはようございます。…体調は如何ですか?会長。」
「ん。ぼちぼちだね。…今日は経理の何かかい?」
「…まさか。こんな状況の会長に仕事を持ってくる訳有りませんよ。」
「…好きな人のお見舞いです。」
「…困ったな。何度も言うけど…俺はもう妻帯者…のようなモンだよ。長谷川さんみたいな美人が俺を好きになるのも。…悲しい事にわからないよ。」
「ふふっ…。大丈夫です。追う恋を楽しんでおりますんで。」
「…不思議な人ですねぇ。」
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最近は常に、ニコニコと傍に居ることが多い長谷川さん。
経理の仕事に関しても。
「経理の仕事って大変なんだ。新しい人を入れるかい?」
そう聞いたら、資格の勉強に経理のプロへ相談しに行く等の行動を起こしてくれた。…結果。ウチのグループのほぼ全てを任せられる、凄腕の経理となっていった。
前世の経験を合わせても。こんなに正確にデータを管理してくれる人間は居なかった。性格的にも非常に合っていた。
間違いを的確に。そして嫌味のない言い方で。
他者に伝えられる。その性格はこのグループで無くてはならない人間となった。
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「…私は。」
「…ん?」
「…奥様2人とも、仲が良いです。」
「…まぁ、1番話してるよね、3人で。」
「25歳。これから結婚を考えなければなりません」
「…女性は大変だ。」
「…もし、会長が貧乏でも、働かなくても。私が働き続けますよ?」
「もしかしなくても、今…アピール中?」
「…ええ。奥様2人は赤ちゃん騒いじゃうので、お昼に来ますから。…朝のこの時間しか、私は2人になれませんので。」
「…用意周到というか、…長谷川さんは頭がいいよね。」
「私の、頭の良さは【常識から物事を考える力】ですね。それは長所だとも思っています。」
「あー。わかるかも。」
「…私は、会長の考え方を尊敬しています。貴方の【最終的に誰かが助かる道】を探す力を。私も助けられ…福田さんも助けられました。」
「んん。…災害は。流石に無理だったねぇ。」
一瞬。雰囲気が固くなる。
それは俺の後悔を察してか。それとも災害の悲惨さを物語っているのか。
「ホント。凄いですねぇ…会長は。」
「ん?」
「年に10億、何もしなくても入ってくる状況なんですよ?部下もいっぱい稼いできますし。正直普通の人なら、働かないですよ?」
「…恵まれてるねぇ。」
「…それでいて。」
「…うん?」
「まだ…出会った時と変わらず。他の人を助けようと必死で。…私、笑っちゃいます。こんな人、今まで何処にだって居なかった。」
「…笑ってくれるなら、嬉しいもんだね。」
「…愛しています、会長。」
「…そんなハーレムみたいな事は、出来ないよ」
「…むぅ。」
「そんな顔しても駄目だよ」
「…私、この会社の経理を握ってますよぉ?」
「…はは。ずるいな。確かに、その通りだ。信頼しているし、居なくなったら…この会社は途端に回らなくなる。…俺なんかよりよっぽど重要な人物かもね。」
「…そんな人間が、愛してくれないと…離れちゃうかも知れませんよ?」
「…それは大問題だ。…でも。でもね、もう一つ大事な問題が有るんだ。」
「それは、長谷川さんと。もし結ばれて産まれるであろう子供が。どう周囲から言われるか。それを考えた時に…。俺は今の玲奈と梨沙。そして愛と真人を守るのに必死で。解決策ですら…見つけてもいない。そんな奴が新しい家族を増やすなんて…馬鹿みたいだよ。」
「…なるほど。」
「…そんな、事ですか?」
「ん?んん?」
「そんな当たり前なこと、とうに考えは終ってます。…私はシングルマザーとして産みますよ?…あーあ。待ってて損しました。そんな事で…」
「そ、そんな事とは…」
「そんな事!それくらいの事、です!…そんなちっぽけな理由で、奥様2人に何度も説得して…ようやく了承を得た、私は。…絶対に、引き下がりませんよ?」
「…困ったよ。」
震災前、業務中に何度も何度も。
「大好きです、心から」
「会長の傍に、居たいです。」
「愛しているんです。本当に…」
愛をはっきりと目を見て伝え続けられたら、そりゃぁ意識もしてしまう。
女性として意識してしまうので、玲奈と梨沙に相談するも…
「…仕方ないよ。あの気持ちは。私も理解っちゃうもの。」
「そうですね…。形は誠実では無いですが…思いは本物でしょうね。」
…認めさせてるよ。凄いな。
「もう、諦めて下さい。私も、いや…私は貴方の子供を産み、育てます。」
「貴方を愛しているので、ずっと傍にいたいのです。」
「一生を貴方に尽くし続けると。ここに誓えます。私の気持ちは、変わることはありません。…会長の気持ちは、…どうですか?」
「…本当に、それでいいの?」
「…ええ。当たり前です。これから何度、聞かれても。同じことを…私は、返すと思いますよ?」
「…わかった。わかったよ。」
「…ただし、玲奈と梨沙の前で…決定しよう。それは変えないよ?」
「うふっ。本当に律儀な人ですねぇ。」
そう言って、ゆっくりと。
長谷川さんは俺に抱きついてきた。
「っと…。ま、まだだってば。」
「うふふ…。嬉しくて、つい…ぎゅ~~~っとしたくなりました。」
2011年4月に、俺は大学を卒業した。
あまりに慌ただしい中であったが、卒業はなんとかできたという感じ。
そりゃぁそうかも知れない。
他の大学生が、テストに卒論に就職活動まで。魔のハッピーセットをこなしている時に、俺は自分の会社でぬくぬくとしていた訳だ。
あ、そう言えば。
うちの会社に面接が殺到していた。
その中には【佐々木 笑】という名前での、エントリーもあったよ。
話したくも無いので、書類で落選したはずなのに。
最終選考に顔を出してきていた。
「わ、私は!このグループの会長と…知り合い!いや、恋人なのぉぉぉおおお!!!」
…名誉毀損や虚偽申告で、何か出来ないだろうものか?
警備の人間も、非常に良い仕事をしてくれる。
定期的に【佐々木 笑】の捕縛報告を聞くと、助かったと思う反面、手に刃物を持っていた等の追加報告を聞くと…自分より家族の危険を感じてしまう。
更に、驚くべきは。
報告書の写真を見る度に、気付きがあった。
徐々に。それでいて確実に。
整形によって、顔が前世の妻と似てきたのだ。
まだ、完成形ではないのだが…間違いなく言える。これは前世の妻だと。
更に言うならば。
毎回の捕縛報告を聞いて、1番…笑っていたのは、福田さんであった。
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