第18話 本当の敵を発見

大変だった…。

工藤さんの泣いていた理由を「不安」という漠然とした発言で乗り越えたが、父や母から「何をした」だの「泣かした」だのの発言は辛かった。


佐々木さんは「真田くんはそんな事できません」と庇ってくれた。



だが、続く言葉がおかしい。

「私だって…そんな…誘われたり、襲われたこと無いのに…、こんな襲っても怒らないような人間がいても、手を出さないんです!…真田くんは…そんな事、絶対に、出来ません!!…そうですよね、工藤さん?」


ビクゥッ!!

工藤さんはその圧に負けて、怯えながら返事をしている。


「…は…はい。そうです…。私が不安で…泣いてしまって…」


フォローは嬉しい。

…ただね。不服だよ。


出来ません。はおかしいよ?

しない!がいいな、俺は。


…悲しいフォローを受けてるな。


場が落ち着き出すと、業務に移動する。

佐々木さんと妹2名も混じって、工藤さんを加えたPC修理に励む作業場は、非常に華やかであった。


穏やかに工藤さんに修理や業務方法を教える佐々木さんは、非常に教え上手であった。このまま学業面でもフォローしてもらおうか。

そうなると、少し修理業務を減らすか…。でも渡す賃金が減ってしまうかも。




そんな事を考えていると、珍しく父が受付している店の玄関先から大きな声がする。


「お客様、見学や購入はありがたいですが…大きな声は、他の人の迷惑に…」


それでも、その客は注意を聞いていないようであった。

「おお~!!凄いじゃんこの店、このPCレベル、探したぜ。2006年だとこんなレベルでも高いもんな!!」

「ええ~。何言ってるの大ちゃん?メチャクチャ高いよ?このパソコン…。こんなの買うの?」


「五月蝿えな!これから動画配信とかしていきたいんだよ、俺。一昨日競馬で大勝ちしたろ?それ使うから問題ねえよ。黙ってねぇと捨てるぞお前!?」

「や…ヤダな。そんなの買えるの、凄いって話じゃん。大ちゃん…最近凄いお金持ったし、使い方も凄いから…その…びっくりして…」


何か聞いたことがあるような、胸が強く締め付けられる声だった。

俺は即座に、店先に向かった。




いた。

間違いない。店先で、横柄な態度で商品を見ているその男。


元上司だ。


確か…名前は【大塚 大貴】。


若返っているけど…間違いない。元上司だ。


何故この店に…そう考えていると、この店でも一番高価なPCの前にいることから、やりたいことが簡単に分かった。


アレは今後、動画編集を主とするような高負荷を必要とする【配信者】向けのパソコンだ。アレにこの時代、手を出すのは趣味で動画編集する物好きか、プロしか無い。


「父さん、一時的に受付変わる。何かあったらすぐに警察の準備を。」

「…すまんな。ああいう若いのは、どうも上手く対応できん。」


受付を変わったのは色々思うところがあるからだ。

度の入っていないメガネをし、マスクをして受付に立つ。


すると、すぐに横柄な男に呼ばれる。


「お~い、兄さん。これ買うわ。」

「…はい。承知しました」


「…ったく。こんなパソコンショップだから店員も湿気てんなぁ。根暗感が強いぜ…」

「ちょ…ちょっと大ちゃん!…すみません。普段は良い人なんですが…。先週からいきなりこんな感じで…」


横の女性が小声で謝ってくる。どうやら彼女なんだろうか。

元上司は俺に全く気付いていない。多分俺の名字である真田が目にも入っていないのだろう。


購入の為、重いPCを台車に載せ、ラッピングをする。その際には最近佐々木さんがよくラッピングしてくれる。とても丁寧で、父や俺では真似ができない方法で包装をやって観せてくれる。


その為、佐々木さんに「申し訳ないけどやって欲しい」と伝える。


すると、佐々木さんは工藤さんの勉強と言って、2人でラッピングにきた。

元上司は2名の少女を見ると、何かを考え始めた。


「…ほう。これはこれは。」

そう言うと、なんと工藤さんの方に向かっていった。


「…ねえ、君」

「…はい?なんですか?」


声を聞いて、何か確信を持ったように元上司は工藤さんに話しかけ続ける。


「…ここでバイトしてんの?」

「…はい。まだお仕事を教えてもらう段階ですけど…」


「…割のいいバイトあんだけど。…君、才能ある。…なんでだか…俺、わかるんだよなぁ。ホントまじで。」

「…え?」


「君には…そうだね。大人な仕事が合う。綺麗な…女優。…そう!女優になって映像を作る。…そんな仕事をするような才能があるんだ。…どう、やってみないk…」


佐々木さんが間に入る。

「…なんでラッピングするのに、女優さんなんですか? 話も全くわからないけど、この娘は今日からここでお勉強するんです。邪魔…しないで下さい!」


「おおぅ…。すまんすまん。…よく見ると、君も可愛いね。胸もかなり大きいし。…どうかな?君も将来女優に…」


「遠慮いたします。私は最近ようやく夢を持ったところです。…女性をお連れしているのに、他の方を口説こうとするような方には、私は信用を置くことは絶対に出来ません。」


そういうと横の女性が、元上司を見つめている。


「…大ちゃん、サイテーっ。」


「…うるっせーな。お前、捨てるぞ?…良いのか?これから俺は大成功して超有名になっていくんだぞ?お前みたいに将来スーパーのバイトで人生を潰していきそうな女に…」


その途中で、焦ったように元上司は自分の口を塞ぐ。

「…っっとぉ。すまんすまん。…違うんだ、エリ。これは口説いてんじゃない。言ったろ?他にやりたい事業があるって…」


「…もう、知らない!!」

そう言ってエリと呼ばれた女性は足早に帰っていく。


「…っち!!…んだよ、アイツ…まあいいや、違う人生も良いだろうな。まだ俺は21歳。違う女と結婚でも、なんでも出来るぜ…。あっ。それでさ、君らにはまだ、パソコンがラッピングされるまで、少し話を…」




「すみませんが、お客様」

「…ああん?」

俺はマスク姿で元上司に声をかける。」


「このパソコンはお売りできません、今すぐにこの店から出ていって下さい。」


「ああん?…俺は客だぞ?何いってんだ根暗ぁ。」


元上司は、俺の胸倉をグイッと掴む。

「お帰り下さい」

「だから!客だって!!…買うっつってんだろぉがぁ!!!」


俺は元上司に胸倉を掴まれた状態で、ゆすられる。

「…お帰り下さい。お帰りはあちらです」


「てめぇ!!店長呼べ、店長ぉ!!」






パシャッ!!


「んなっ!!」


父親がその場の写真を取って、現れる。






「私ですが、何か?」


「…てめえが店長か、何写真撮ってんだよぉ!?どんな教育してんだ、この店員。物を売らないって…店やる気無いのかよ!!」


「その店員ですか…。確かに貴方にPCを売るのを拒否しましたね。」


「…ああ、そうだよ!つーか、写真なんか撮ってんじゃねぇ!!消せよ!!」



「よくやった。本当によくやった。…教育は成功だったと。私はそう…思っています。誇らしいものです。」


「っはぁ~~!!??」


「この写真は警察に行くための資料です。焦らなければ動画で撮れたのですが…。ああ、そうだ監視カメラの情報がありましたね。じゃあ大丈夫だ。」


「…おいおい、待ってくれよ。客にパソコンを売らないんだぜ?そりゃあ…こっちも必死に…なるじゃん?…わかるよな?」


「ウチの女性店員を口説いた、男性の店員に暴言を発した。これが売らない理由ですかね。今は更に暴力的で怖い…というのがありますね。」


「…ふっざけんなよぉ!!分かった、もうしないから、警察は止めてくれよ!」


「…お客様、帰りはあちらです」


「…二度とこねえぞ、こんな店ぇ!!覚えたからな、【パソコンショップS】!!」


今日ほど、店の名前にインパクトが無くて良かったと思えた。

こんなありきたりな店の名前、絶対に覚えない。


そしてなにより…真田という名字がバレなくて、本当に良かった。


しかし…元上司の発言は気になるな。

どうにも、未来を知っていそうだ。彼女だろう人の言葉も気になる。


多分、俺と同じ若返った現象になったのではないか…。

だとしたら非常にまずい。

未来を知っているというのはアドバンテージだ。


俺も、悪用や大きく未来を変えるような行動を、取るつもりはない。


だがそこに躊躇のない人間もいるだろう。

あんな人間に力を持たせるのは本当に良くない。


…そして工藤さんに対するあの態度。

元上司は、何かを知っているとみた。俺は警戒を強めて、自分たちの安全を願った。




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