第53話 タピ活 ~新生・勇者パーティ初任務~


 今日やってきた辺りは、ゲーゲンパレスの中でも特にオシャレで若い女の子が集まるハラジュクと言われる地区だった。


 ちなみにミスティはもう鎧は脱いで、いつもの見慣れたメイド服に着替えている。


 俺は一度も来たことがなかったので、あちこちキョロキョロしながら2人の後ろについて歩いてゆく。

 するとすぐにたくさんの女の子たちが集まっているエリアにやってきた。


 同時に俺はあることに気が付いていた。

 女の子たちはみんながみんな、手にストロー付きのカップを持っているということに。

 

「察するに、あれがタピオカって飲み物だな?」


「正確には中に入っている小さなお団子のようなものがタピオカですね」

「あれ? そうなのか?」


「タピオカ入りドリンクを片手に、友達ときゃっきゃうふふ盛り上がるのがタピオカ活動、略してタピ活なのじゃ」


「なるほど。つまり、友人との楽しい時間を共有するためのアイテム。共通の話題としてタピオカが選ばれていると言うことか。であれば、よほど話題性のある美味しい飲み物に違いない」


「実際、美味しいのじゃよ? 人気はとどまるところを知らず、今やこの辺りはタピオカドリンク専門店が立ち並ぶ、その名もずばりタピオカストリートと言われておるのほどじゃしの」


「魔王さま魔王さま。あれこれ言っていても始まりません。百聞は一見に如かずと言います。ハルト様には実際に飲んでもらいましょう」


 こうして俺は初めてのタピオカミルクティーに挑戦したんだけど、


「な、なんだこの『ちゅるん』とした食感は!? これがタピオカなのか!? なんだこれ、すごい!?」


 俺は一口目からタピオカの魅力にすっかりはまってしまっていた。

 太いストローで「ちゅるん」と口の中に入ってくる得も言われぬ感触が、病みつきになってしまいそうだ。


「飲み物なのに食べ物……なによりこの不思議な食感……実に興味深い……」


「うむうむ、ハルトが気に入ってくれて何よりなのじゃ」

「新生・勇者パーティの初任務は大成功ですね♪」


 タピオカドリンクを堪能する俺を見て、幼女魔王さまとミスティが楽しそうに笑った。


 俺はすぐにタピオカミルクティーを飲み干してしまうと、


「悪い、お代わりを買ってくるからちょっと待っててくれないかな? どこのお店がいいかな?」

 お代わりを買うことにする。


わらわのお勧めは、あの奥のお店なのじゃ」


「うーん、でもあそこすごく並んでるからなぁ……並んでるってことは人気店の証拠なんだろうけど……」


 だけど、あそこに並ぶと2人をだいぶ待たせることになってしまう。


「ではミスティ、ハルトと一緒に列に並ぶとしようかの」

「はい! 今日は暑いので私もお代わりしたいですし」


「え? いいのか? 結構時間がかかりそうなんだけど」

「みんなで一緒に並んで待つ時間も、それもまたタピ活の一環ですから」


「ふふん、だいぶ慣れてきたとはいえ、ハルトもまだまだ最先端文化の何たるかを理解してきれておらんようじゃのう」


「話題の共有だけでなく、時間の共有でもあるのか。なるほどそういうことか、勉強になるな」


「ハルト様ハルト様、そういう難しい顔はタピ活では厳禁です」


 ミスティが可愛く笑いながら、なるほどと納得した俺の頬を、人差し指で軽く触れるように突いてくる。


「わ、悪い。うーむ。俺はそれなりに最先端文化を学んできたと思ったが、まだまだ理解が浅いようだ……」



 今日も今日とて、幼女魔王さまとミスティのおかげでまた一つ、最先端文化のなんたるかを理解した俺だった。

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