第60話 リーダー決定!? 立憲君主的パーティ誕生!
俺たち3人は、幼女魔王さまを先頭に早速、温泉へとやってきた――んだけど。
なぜか魔王さまとミスティは『大浴場―銀泉―』と書かれた入り口を素通りすると、そこから少し行った先にあるこぢんまりとした施設に入っていった。
そしてそこにあった表記を見て、俺はひどく動揺してしまった。
というのも――、
「家族風呂……だと……?」
そこは家族で一緒にお風呂を楽しむことができる、特別な浴場だったからだ。
「うむ。家族風呂なら気兼ねすることなく3人で仲良く入れるじゃろ?」
「3人で? いや、あの、でも……な?」
「どうしたのじゃ?」
「だって百歩譲って相部屋はありとしても、嫁入り前の女子が男と混浴するのはさすがに問題だろ。超えちゃいけない一線を、完全に超えてしまっているぞ?」
「まぁ待てハルトよ、考えても見るのじゃ」
「考えるも何も、そもそも俺たちは家族じゃないよな?」
「
「なら――」
「じゃが妾たちはこの国の魔王と、新たなる勇者と、救国の精霊騎士じゃ。そんな目立つことこの上ない妾たちが、ゆっくりしっぽり温泉に入れると、ハルトは本当に思っておるのかの?」
「あ……」
魔王さまの指摘したことはしごくもっともだった。
「魔王さまは元から知られているとして、いまやハルト様も南部魔国中の人が知る有名人ですからね」
「なにせそっくりの似顔絵が描かれたかわら版が、大量に出回っておるからの。大浴場でのんきに浸かっていようものなら、ハルトとバレるのは時間の問題じゃ。そしてバレた途端に取り囲まれてしまい、ゆっくり温泉に入るどころではなくなるであろうな」
「そっか……言われてみればそうかもな。リーラ下帝国でも似たような感じだったから、納得っちゃ納得か」
リーラシア帝国にいたころ、よく下町の酒場に繰り出していた俺は――自分で言うのもなんだが――かなりの有名人だった。
それこそ街を歩いていたら、すぐに声をかけられるくらいに。
南部魔国での俺も、今やそういう状況になりつつあるってわけか。
「そこでこの家族風呂というわけなのじゃ」
「確かに酒場でみんなでワーっと盛り上がるならいいけど、温泉にはゆっくり落ち着いて入りたいもんな」
温泉とは身体と心を落ち着ける場所なのだから。
「太閤様もよく家族風呂で、ゆっくり気ままに太閤妃様と入っていたそうですよ」
「とりあえず、俺たちが目立ちすぎるってのは分かったよ。けどなぁ……」
俺がなおも渋っていると、
「ハルト様ハルト様、わたしたちはもう新生・勇者パーティの仲間です。そしてパーティの仲間はよく家族に例えられます。本当の家族ではないにしても、パーティという名の家族として一緒に家族風呂に入るのは、問題どころかむしろ自然ではないかと」
トドメのようにミスティがそんなことを言ってきて。
「まぁ魔王さまとミスティがいいんなら、いいんだけどさ」
「妾は別に構わんのじゃ」
「わたしもです」
「じゃあ……そういうことで。このパーティのリーダーはミスティだしな。ミスティの決定には従うよ」
勇者パーティのリーダーは代々、勇者が務めている。
これはいちいち説明するまでもなく、当たり前の話だ。
勇者パーティのリーダーは勇者である。
こんなのは子供でも分かる常識だ。
うん、そうなのだ。
当たり前の常識のはず――だったはずなんだけど、
「え、リーダーは魔王さまでは?」
ミスティはキョトンとした顔でそんなことを言った。
さらには、
「何を言っておる。リーダはハルトじゃろう? 能力的にも戦歴的にも群を抜いておるからの」
幼女魔王さままでそんなことを言ってきて。
「いやいや、勇者パーティのリーダーが勇者じゃなくてどうするんだよ?」
俺は当然の指摘をしたんだけど、
「私は魔王さまの護衛兼メイドですので、そうなるとやはりリーダーは魔王さまではないかと」
ミスティの意見もなるほど納得で、
「いやいや、妾はぶっちぎりでパーティ最弱ゆえ、戦闘パーティのリーダーはちょっと荷が重すぎるのじゃ。というか、へっぽこすぎて正直恥ずかしいし。よってここはハルトに任せたいと思うのじゃ」
魔王さまの意見もこれまた一理あるように思えた。
「いやミスティが――」
「いや魔王さまが――」
「いやハルトが――」
「いやミスティが――」
「いや魔王さまが――」
「いやハルトが――」
「いやミスティが――」
「いや魔王さまが――」
「いやハルトが――」
しばらく堂々巡りをしてから、
「このまま温泉の前で話していてもしょうがないな。とりあえず暫定的に、対外的には勇者であるミスティがリーダーで。内部的にはしばらくは俺が仮のリーダーってことでいいかな? でもあくまで仮で、基本的には3人の話し合いで決めることにしよう。言うなればパーティのリッケンクンシュセーだ!」
王にあたるのがミスティ。
だがミスティに絶対的な権力はなく、実はみんなで意見を出し合って決めるのだ。
「なかなかうまいことを言うの。もちろん異存はないのじゃ」
「私もそれで構いません」
――とまぁそういうわけで。
決まっているようで実は決まっていなかった新生・勇者パーティのリーダーを、話のついでに決めて。
そして3人部屋に泊まることになったのと同じように、俺はここでもやや押し切られるような形で、幼女魔王さまとミスティと俺との3人で、家族風呂に入ることになってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます