第57話 【精霊騎士】、花火を見る。
「み、みみみミスティよ。精霊の存在を感じられるとは、まことなのか!?」
「はい。時々、声も聞こえますよ? それがどうかしましたでしょうか?」
「魔王さま、なにをそんなに焦ってるんだ?」
ミスティと俺は、よく分からないと言った感じで顔を見あわせる。
すると、
「なにを言うか! 考えても見るのじゃ! 精霊との交感能力という
幼女魔王さまは、ブルブルと小刻みに震えながら、器用に小声でシャウトした。
周りの人に迷惑にならないようにという、配慮の行き届いた幼女魔王さまである。
「パーティの戦力が強化されるのは、いいことだろ? そのうち声を聞くだけじゃなくて、精霊を使えるようになるかもしれないし」
「それとこれとは話が別なのじゃ! ただでさえ新生・勇者パーティのお荷物的な
幼女魔王さまがふらりと意識を失いそうになって、
「魔王さま、お気を確かに!」
すかさずミスティが支えに入った。
「お、このパターンは初めてだな」
俺ではなくミスティが原因で幼女魔王さまを失神させたのは、初めてだったと思う。
ある意味、自作自演と言うのかもしれないが。
俺たちがいつもと少しだけ違った――けれど、やっぱりいつもと同じなやり取りをしていると――、
ドン!
ヒュルヒュルヒュルヒュル~~、パァン!
大輪の花火が夜空に打ちあがった。
「花火の打ち上げがはじまったみたいですね」
「おっと、もうそんな時間か。お祭りに熱中し過ぎていたよ」
「ふふっ、盛り上がっているとついつい時間の経過を忘れてしまいますよね」
「楽しい時間ほど早く過ぎるよなぁ」
「時間って不思議ですよね」
「明らかに主観で速さが変わるよな」
なんて会話をしている間にも、
ドン!
ヒュルヒュルヒュルヒュル~~、パァン!
ドン!
ヒュルヒュルヒュルヒュル~~、パァン!
2発目、3発目、4発目と次々と花火が打ち上げられていく。
「はふぅ……すごく綺麗です……」
可愛い物や綺麗な物には目がないミスティが、うっとりとした顔で花火を見上げる。
「ほんと綺麗なもんだな」
俺もそれに完全に同意だった――んだけど、
「まったく、ハルトはまだまだじゃのぅ。女心というものがちっとも分かってはおらぬ」
慣れた様子でショックから立ち直った幼女魔王さまが、なぜか俺の耳元にハンドメガホンを作って、小さな声でひそひそと言ってきた。
「女心って、どういう意味だ?」
「こういう時はの、『お前の方がもっと綺麗だぜミスティ』と言うのが、女子的には胸キュンなのじゃよ」
「ふむ……」
幼女魔王さまの言葉はいちいちもっともだった。
今は言ってみればデートみたいなものだ。
であれば女性をエスコートする男性として、一緒にいる女性の魅力を褒めるのは当然の行動と言えるだろう。
なのに俺は浴衣を着せてもらってからこっち、自分が縁日を楽しむことしか考えていなかった。
これはダメだ。
あまりに一方的なコミュニケーションすぎる。
大いに反省するとともに、幼女魔王さまの指摘に心底納得した俺は、ミスティの耳元に顔を寄せると、
「花火も綺麗だけど、ミスティの方がもっと綺麗だよ」
そっと優しくつぶやいた。
「ふぇっ!? あの、えっと!? その、ハルト様!?」
ミスティがびつくりしたように、上目づかいで見上げてくる。
「いつものポニーテールも可愛いけど、今日は
「あ、ありがとうございます……」
ミスティはそう小さく言うと、完全にうつむいてしまった。
そしてそのまま黙ってしまう。
あれ?
どうしたんだろう?
「なぁ、魔王さま。急にミスティに目をそらされたんだけど。もしかして俺にキザなこと言われて、ちょっと嫌だったのかな? 魔王さまはどう思う?」
俺は小声で幼女魔王さまに尋ねてみた。
すると、
「……はぁ」
幼女魔王さまは何も言わずに、ちょっと呆れたようなため息をついた。
あれ?
また俺、なにかやっちゃったのかな……?
「ハルトよ、今度
「俺はどっちかって言うと、転生系の冒険小説のほうが好きかな。新しい世界で主人公の秘められた才能が開花する展開は、何度読んでも胸が躍るんだ」
「ラブコメをかすゆえ熟読しておくように」
「え、うん、分かった」
有無を言わさぬ幼女魔王さまの言葉に、俺は得体のしれないプレッシャーを感じてしまい、首を縦に振る。
この後、ミスティが少し挙動不審だったものの、俺たちは花火と縁日をしっかりと楽しんだのだった。
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