第二章 出会い

第3話 【精霊騎士】の戦闘能力(すごい)

 俺は即座に立ち止まると、意識を集中し、耳を澄ませる。


『誰か――! 助力を――!』

 間違いない、それは助けを呼ぶ声だった。

 場所はここから数キロも離れた、街道を大きくそれた平原だ。


 数キロなんてのは普通の人間なら絶対に聞こえない超長距離だ。

 けれど精霊騎士の俺は違う。


 お節介なことで有名な風の最上位精霊【シルフィード】が、【遠話テレフォン】という精霊術で遠く離れた場所での悲鳴を、この場所にいる俺へと届けてくれたのだ!


「やれやれ。追放された感傷にも浸らせてもらえないとはな。もちろん見過ごすってのは無しだ。【シルフィード】! 風系精霊術【エアリアル・ブーツ】発動!」


 ――はーい――


 俺の言葉に、即座に風の最上位精霊【シルフィード】が応え、俺の足が一陣の風をまとう!

 空を駆けるがごとく長距離高速移動を可能にする風系精霊術【エアリアル・ブーツ】を発動したのだ!


 準備を整えるや否や、俺は疾風のごとく走り始めた。

 周囲の景色がぐんぐんと、ものすごいスピードで後方へと流れてゆく。


 時速60kmを越える超スピードで、1キロを1分もかけずに駆けた俺は、ものの2分で声の聞こえた場所近くへとたどり着くと、


「【ルミナリア】! 光系精霊術【光学迷彩】発動!」


 ――かしこまりました――


 走りながら、光の最上位精霊【ルミナリア】の力でもって、まずは自分の姿を周囲に溶け込ませた。

 これで敵は、俺の姿を視認することができなくなる。


 さらに!


「戦いの精霊【タケミカヅチ】よ! 戦闘精霊術【カグツチ】発動!」


 ――御心のままに――


 戦いの最上位精霊【タケミカヅチ】の力によって、俺の身体に膨大な精霊力がみなぎり、戦闘力が大幅に向上する!


 準備を万全に整えたところで、俺はちょうど現場に到着。

 野盗らしき汚い身なりの男が30人ほど、白塗りが美しい綺麗な馬車を襲撃しているのが目に映った。


 護衛と思しき女騎士が1人、馬車の前で孤軍奮闘で応戦しているが、


「く――っ!」

 剣を弾かれてしまい、今にも捕まりそうな状況に陥ってしまう。


 とても可愛い顔立ちをしていて、野盗に捕まった後にひどい目にあわされるのは想像に難くなかった。


「この状況、どちらが悪いかは一目瞭然りょうぜんだな」

 俺は悩む間もなく野盗に斬りかかった。


「げへへ、散々てこずらせやがって。だが上玉だな。へへっ、今夜は最高の夜になりそうだぜ」

 まずは好色そうな笑みを浮かべながら女騎士に近づいていく野盗を、一刀のもとに斬り捨てる。


 さらにもう一人、さらにもう一人と、俺は黒曜の精霊剣・プリズマノワールを振るって、一片の容赦もなく斬り捨てていった。


 俺の経験上、こういう不逞のやからしつけのなっていない獣と同じで、似たようなことを何度も繰り返す。

 生かしておいてもろくなことにはならなかった。


 と、見えない俺に仲間を次々と斬り倒されたことで、残った野盗たちが騒然とし始めた。


「なんだなんだ! 一体どうなっている!?」

「何が起こっているんだ?」

「姿は見えないが、何者かがいるぞ!」

「くっ、ダメだ! なんも見えねぇ!」


 完全に浮足立つ野盗たち。

 このまま姿を隠して全滅させる手もあったんだけど、


「せめてもの情けだ。残りの奴らには、冥途めいどの土産に誰にやられたかくらいは教えてやるか」


 俺は【光学迷彩】を解除すると、女騎士と馬車を守るような位置で姿を現した。


「な、なんだこいつ! いきなり現れやがったぞ!」

「こいつがやったんだな!」

「よくも仲間を殺りやがって!」

「許さねぇ!」

「気をつけろ、奇妙な術を使うぞ!」


 突如として戦場に姿を現した俺を見て、残った野盗たちが騒ぎ出す――がしかし、


「おいおまえら! 臆することはねぇ! 相手はたったの一人だ、包囲陣形で囲んで一気にボコっちまえ!」


 リーダーらしき男が号令をかけると、野盗たちはピタリと落ち着きを取り戻した。


「なるほど、よく訓練されているな。指揮系統がしっかりしていて、部下も命令を理解する頭を持っている。ってことはお前ら、終戦で職を失った傭兵崩れか」


「はん! だったらどうだってんだ?」


 俺がこいつらの素性に当たりを付けている間にも、野盗集団は手慣れた動きで俺をぐるりと取り囲む布陣を完成させた。


「やれやれ。それなりに知恵は回るみたいだが、それ以前にこうやって正対しているのに格の違いも分からないとはな。ま、その方が手間が省けるんだけど」


「ぬかせっ! かかれ!」

 リーダーの合図によって、野党たちが俺へと一気に殺到してくる!


 だがしかし。

 北の魔王ヴィステムが誇る精鋭魔族部隊と何度も戦い、泥まみれで死線を潜り抜けてきた元・勇者パーティの俺にとって、たかが傭兵崩れの野盗など子供の相手をするのに等しい!


 次々と襲い掛かってくる野盗たちを片っ端から斬り捨てた俺は、ものの1分とかからない内にリーダーを含めた野盗の集団を一人残らず、文字通り全滅させた。

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