第5話 奴隷の兄妹の身体が治ったら、俺達もそろそろ出立か!

翌朝、朝日が目に入り起き上がると、隣のベッドではスヤスヤと苦しそうではない寝息を立てて眠っている少年がいた。

冷えるピタリを外して熱を体温計で計ったが、どうやら熱は下がったようだ。

あっちの世界の薬がこっちではかなり効くんだな……。

そう思いながらゆっくりと部屋を出ると、丁度カナエも起きてきたようで俺にトトトと駆け寄ると、女の子の様子を教えてくれた。

女の子の方も体温計で計った所、37度までは下がったようで「こちらも同じだ」と言うと二人ホッと息を吐いた。



「でも、そろそろお腹も空くでしょうから胃に優しい物から食べさせてあげないとですね」

「カナエ料理は……出来たな、スキル10だったな」

「ふふ、私両親がいなくて祖父母と暮らしてたので、家事全般は得意ですよ」

「そうだったな……君には沢山苦労を掛けてしまうが、俺も出来る限りの事はするからな」「ありがとう御座います先生」

「とはいえ、まずは腹ごしらえだ。顔を洗ったり色々整えよう」

「はい!」



こうして先にカナエが歯磨きや顔を洗って髪を整えると、続いて俺が歯磨きや髭剃り等をして身奇麗にする。

しかし、御年27歳で18歳の生徒と一緒に暮らし、更に10歳と8歳の子供まで預かる羽目になるとは……俺の結婚は遠のいたな。

そう苦笑いしながら溜息を吐くと、気合を入れ直しリビングへと向かう。

俺とカナエの朝食はサンドイッチに珈琲だ。

野菜が足りないが、そこはまぁ、ボチボチ考えよう。

朝は軽めが丁度いい。

子供達用にとカナエが作っているのは温かいお粥で、まずは胃を食べ物に慣らして行く事からスタートさせるのだと言っていた。

そんな匂いが子供達にも伝わったのだろう。

二つの扉がキイ……と音を立て開き、コッソリこっちを伺っている子供たちが見えた。

シュウは10歳とあったが、見た目的にもっと幼く見えるのは栄養が足りなかったからだろう。

ナノだってそうだ。8歳とあるが見た目的にはもっと幼い。



「おはよう、シュウ、ナノ。お腹空いただろう? こっちへおいで」

「おはようシュウちゃんにナノちゃん。ご飯作ったから食べましょう?」

「「……はい、ごしゅじんさま」」

「あーそうか、奴隷契約……。命令じゃなくてお願いなんだ、こっちに来てくれるか?」



そう俺が告げるとシュウとナノは俺の元に来て、椅子に座る様に言うと二人椅子に座った。

そこにカナエが作ったお粥が届き、木製スプーンも用意され、お茶も用意される。

二人は驚いた様子で俺たちの方を見ていたが、苦笑いすると「熱いから気を付けて食べるんだぞ」と言うと目を輝かせて何度もフーフーしながらお粥を食べ始めた。

途端、ポロポロと涙を零し始め一瞬慌てたカナエを止め、二人を見守りながら俺達も食事をする。

……まともな料理も、温かい料理も貰えてなかったのだけは分かった。



「もっと食べる?」

「欲しいです!」

「わたしも!」

「ふふ! 慌てて食べなくても、このお粥は二人の身体を考ええて作った料理だから、誰も取ったりしないわ」



そう言ってカナエは二人の器にお粥を入れ、目を輝かせて食べる子供たちに俺達はサンドイッチを食べ終わると珈琲を飲みつつ二人の様子を伺った。

お腹いっぱい食べると二人は幸せそうな顔をしていて、俺とカナエは顔を見合わせて微笑むと「さて、聞きたいことや話したいことが沢山ある!」と告げると、二人はビシッと座り直した。



「まず、俺の名前は中園アツシ。アツシと呼ぶか、先生と呼ぶかは二人に任せる」

「「はい」」

「こちらは俺の生徒で、姫島カナエ。カナエと呼んだ方がいいだろうな」

「カナエお姉ちゃん?」

「それでもいいぞ」

「うん、私は構わないわ」



可愛らしく問い掛けたナノにカナエは嬉しそうに微笑むと、まずこれは決して誰にも話してはならないと言う契約をした上で、自分たちが異世界転移されて、ハズレだと王国に捨てられた事を話した。

そして、この世界で生きていく上で、どうしても裏切らない誰かが必要で、その時奴隷商人から二人を買ったことも話した。



「だが、奴隷だからと言って命令するつもりはない。俺が命令するときは本当に何か身の危険が迫った時だけだと思ってくれ」

「「はい」」

「それと、カナエの言う事もちゃんと聞いて欲しい。君たちの身体を治すためにお薬を用意したのはカナエだ」

「カナエお姉ちゃんありがとう」

「ありがとうカナエ姉さん」

「うん、どういたしまして」

「それで、俺のスキルはこの家もそうだが、拠点といってな。この中にいる間はモンスターの攻撃も何もかも通用しない。俺の許可した相手しか入れないと言う制約がある。後は移動用の拠点もあるが、それは追々な」

「私は家事スキルとかそっち系なの。後は秘密の力があってね?」

「「秘密の力!!」」



そう言うとカナエは目の前でネットスーパーを開くと、シュークリームを二つ取り出して袋を開けて二人に渡した。



「こういう事も出来るのよ。食べてみて」

「「はい!」」



そう言って食べた初めてのシュークリームに、二人は尻尾がピーンとはり目を見開いて顔を見合わせていた。



「美味しいでしょ?」

「「おいしい!!!」」

「二人に、これから仲良くしてくださいの贈り物です。いい子にしてたらオヤツとして出してあげるからね」



そう言うと無言で頷いてガッツリとシュークリームを食べた二人に俺は苦笑いをしつつ。



「カナエはいい奥さんになりそうだな」

「先生、私と結婚します?」

「ははは! 教え子と結婚はな~」

「私も何時までも教え子と言う年齢じゃなくなるんですけどね?」

「理想的だが、考えておこう」

「お取り置きありがとう御座います!」

「お取り置きと来たか」



思わず苦笑いしつつも、まずは二人を綺麗にしなくては。

風呂には湯を張っている為、何時でも入れるのだが……。



「よし、カナエ、まずは二人の下着だけでも買おう」

「そうですね」

「後はこの子達用のバスタオルとタオルがいるな」

「そうですね。歯磨きも子供用がいりますね」

「うむ」

「あの……獣人を怖がらないですか?」



ふいに聞かれた言葉に俺達が反応すると、シュウがおどおどした様子で聞いてきた。

何でもこの国では獣人は生きる価値がないと言われているそうで、もう国へは入れないと思うと言う事だった。

だとしたら遠慮はいらない。さっさと情報を集め終わったらこの国を去ろう。



「そうか、どこの国なら受け入れて貰えそうか分かるか?」

「はい、えっと……今いる国がオスカール王国と言う人間至上主義の国で、国民も税金が重くて苦しんでいると聞いてます。他国に戦争を仕掛けようとしているという噂も」

「やはり早く離れたほうがいいな」

「そうね」

「この世界には四つの国で成り立っているんですが、その一つが此処で、中央に大国であるジュノリス大国があるんです。そこは全ての中間地点で最も国力がある国なんですが、何事も実力主義の国で、テリサバース宗教の拠点ともなっています。テリサバース宗教はこの四つの国を治める為に作られた宗教で、戦争をしてはいけないと言う同盟みたいな……そんな感じです」

「なるほど、寧ろ獣人が暮らしやすかったり、人々が安定している国は何処なんだ?」

「ノスタルミア王国か、獣人の国であるダングル王国でしょうか」

「ふむ」

「ただ、ダングル王国は人間に余りいい気はしてなかったと記憶してますので……」

「なら、目指すはノスタルミア王国か」

「そうですね」

「世界地図でも買っておけばよかったな。在ればだが」

「それなら冒険者ギルドと商業ギルドで売っていると言う話を記憶してます」

「シュウ、お前本当に頭がいいな!! それにとても物知りだ。期待してるぞ」

「はい!」



そう言うと今度はナノに向き合った。



「ナノはシュウの妹か? よく似ているが」

「はい、お兄ちゃんです」

「そうか、ナノは基本的にカナエの手伝いをしてくれ。テイマーのスキルがあったから、もし気に入ったモンスターがいて、仲間になりそうならテイムしても良いぞ」

「いいんですか?」

「それなら、獣魔協会と言うところに沢山の魔物がいるそうなので、そこで選ぶと言う手もありますね」

「なるほど、違う国に着いたら行ってみるか?」

「はい!」

「よし、じゃあ基本はカナエの手伝いをしてくれ。君たちを不本意な形で奴隷にしてしまったことは心より謝罪する! だが、出来るだけ怖い思いや嫌な思いをさせたくはない。何かあれば我慢せず言ってくれ」

「「先生……」」

「ふふ、先生はね? 捨てられた私を守ろうとしてくれてたの。だから二人の事もきっと守ってくれるわ」

「カナエお姉ちゃん」

「……あの、でも、俺、投擲は出来るけど戦闘とかしたこと無くて」

「そうそう、俺は剣術10ってあるんだが、10が最高なのか?」

「はい、10が最高ランクです」

「だとしたらカナエも」

「そうですね……」



やっぱり雑魚スキルじゃなかった。

文字化けしてくれて本当に助かった!!

俺もカナエも奴隷の様に働くのは絶対イヤだからな。

この異世界、商売で成り上がっていくぞ!!

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