召喚されたけど旅に出ます。探さないでください。【改稿版】
寿明結未(旧・うどん五段)
第一章 要らないと言うのなら旅立ちます。探さないで下さい。
第1話 召喚されたけどスキルが文字化けして読めなかったそうで雑魚扱いされたが?
――それは突然起こった、修学旅行中のバスの事故。
タイヤが悲鳴を上げ、視界が白に塗り潰された。
耳鳴りと焦げた匂いの中で、生徒たちの親の顔が浮かんだ。
……俺が守れなきゃ、誰がこの子たちを守る!
――そう思った瞬間、すべてが光に呑まれた。
大きな光の中を通る感覚に死んだことを悟ったのだが、「先生」という声にハッと目が覚めた。
ひんやりとした冷たい空気と地面。床には見たこともない魔法陣が描かれている。
見たこともないような広場の中央で、俺と生徒四人が座り込んでいた。
……いや、見たことはある。
むしろそっち系のアニメをよく見ていたので何となくわかる。
これは――異世界転移だ!
「おお。お目覚めになりましたかな?」
そういって、でっぷりと太った王冠をつけた男……。
多分〝国王〟だろうと思われる男が口にする。
見るからに胡散臭そうな……出だしは最悪……というやつだろうか。
俺たちは立ち上がり、周囲を見渡しても俺を含めて教え子の五人。
どうせ「勇者様、世界をお救いください」とかいう王道パターンだろうかと思っていると――。
「あなた方を召喚したのは、我が国の危機なのです! 近隣の国々から攻め落とされようとしている。どうか力を貸していただきたい。そのためには大きな力を持つ異世界の者が必要でした……。あなた方は〝選ばれし者たち〟なのです!」
芝居がかった口調で口にする国王陛下を見ても、〝危機感〟しか感じなかった。
(こいつの言っていることは事実か? それとも虚言か?)
ただ、こいつのいうことを聞くのは危険な気がする……。
少なくとも俺はそう感じていた。
「元の世界に戻る方法は?」
「申し訳ありませんが……」
「そうか」
つまり、この世界に来たからにはこちらの世界で生きていくしかない。
俺一人で生徒たちを守れるだろうか……。
そう思っていると、クラスの男子の中心であった『井上』が拳を振り上げて雄叫びを上げた。
「……ここ、どこっすか?」
「……マジで、異世界なわけ~?」
「すげぇ……異世界だっ!! 来た来た来た――!!」
「もう井上君ったら~」
「待てよ、俺だってこれでも興奮してんっすよ!」
「ほら見ろ、先生も固まってるし!」
井上は興奮し、水野は得意げに笑い、菊池は面白がるように手を叩いた。
三人はよく学校でも一緒にいて、いわゆる学年カーストの上位にいつもいる面子だった。
それに対して、俺のそばで震え上がっている『姫島』は、学校でも目立たないタイプではあったが、何にでも真摯に頑張る素直な生徒だった。
「姫島、大丈夫だから」
「先生……」
「怖いよな。でも、立て。先生がいる」
「では、スキルチェックを行います」
そう神官らしき人物が口にすると、大きな石板を二人の係りで持ってきては、一人ずつ鑑定していく。
案の定というか、想定内だったが三人は優れた力があったようで、「国のために頑張ります!」と乗り気だ。
そして俺と姫島の番になると――。
「あ――……この二人は〝ハズレ〟ですな」
「ハズレとは?」
「我々が望んでいる力を持っていらっしゃらない。王様、これでは使い物になりませんぞ」
俺と姫島を見て神官がそう嘆くと、国王は「三人もいれば十分だ」と俺たちを召喚しておきながら、ゴミを見る目をして溜息を吐いた。
「一応聞こう、どんな〝ゴミスキル〟があったんだ?」
「ゴミスキルって~!」
「ウケるんだけど」
そう語る生徒たちには溜息しか出ないが、神官はそれが――と口にすると。
「〝文字が読めない〟のです」
「文字が読めないとは?」
「いわゆるハズレといわれる異世界人は、皆さんそろって、こちらの文字が読めない。そうなっているんです」
「ああ、確かにそうであったな……。ならばその二人は城から出て行ってもらうしかないが、召喚したのに放り出すわけにもいくまい。金だけでも渡してやるからさっさと去れ」
「しかし、井上、水野、菊池、お前たちは大丈夫なのか?」
「〝ハズレの先生〟たちよりはこの世界で有利に過ごせそうですし?」
「〝ハズレの先生〟よりはね~? あはははは!」
「〝ハズレ二人〟で仲良く異世界でも堪能したらどうっすか~?」
そういって馬鹿にした目でクスクスと笑い、姫島は今にも泣き出しそうだ。
案の定……というやつか。
転移前から三人は自己本位的なところが見受けられたが、実際目の前で見ると、人間の本質というのはどこに行ってもさほど変わらないのだなと思い直した。
――それよりも姫島だ。
姫島の肩に手をあてると、怯える目をして顔面蒼白。
……だが俺は、笑ってみせた。
……教師は、生徒の前で泣いちゃいけないからだ。
最後に笑顔で嘲笑った三人を見た。
「そうか! ならば俺たちのことは気にせず存分に楽しむといい! 姫島のことは先生が面倒を見よう。君たちはこの異世界で死なない程度に頑張ってくれ!」
「は? 死ぬわけねーし?」
「そっちこそ直ぐ死ぬんじゃないっすか~?」
「でも、中園先生と離れるのは私嫌だな~。せっかくのイケメン枠がなくなるっていうかー?」
「俺たちでも十分だろう?」
「ま、異世界で素敵な男性を見つければいっか!」
そう語る三人をよそに、布袋を二つ用意され、俺と姫島の前に出される。
持ってみると結構重く、ジャリッという音が聞こえてお金だと分かった。
「一人につき金貨五十も出してやったんだ。さっさと城から出て行け、雑魚めが」
「やーい! ざーこざーこ!」
「「あははははは!」」
「先生に対してそんな言い方っ!!」
ここにきて初めて姫島がそう叫んだが、俺は彼女の肩に手を置くと首を振って彼女と共に城を後にした。
城の外に出ると、ドアは厳重に閉められた。
そして肌で違和感を感じる。
王はあんなにもでっぷりしていたのに、町の住民はとても貧しかったのだ。
広間には黄金のシャンデリアがあったのを覚えている。
だが反対に、街は土埃と飢えの匂いに満ちていた。
その落差が、この国の病そのものだと思った。
俺の〝危機感〟は、ハズレではなかったようだ。
それにしても、異世界だというのが嫌でも分かる空気に風景。
いろいろ問題はあるが……取りあえずやるべきことは三つほどある。
そのために、まだ兵士の目の届く場所の木陰に向かい、姫島に声をかけた。
「姫島」
「はい」
「自分のスキルを見る方法分かるか? こう、ステータスとかいえば開くとか」
「私には分からないです……」
「〝スキルボードが文字化けしてた〟ってことだよな?」
「そうですね……」
「取りあえず意識して自分を調べてみたいが……『鑑定』してみるか」
そういった途端、一瞬風が止まった気がした。
だがすぐに「ブオン!」という音と共に何かが出てきた!!
どうやら自分にカーソルを合わせて『鑑定』といえばスキルが視れる……のだろうか?
カーソルを合わせるというのも言い方がアレだが。
いきなり出てきたスキルボードに、姫島の息を呑む音が聞こえた。
「姫島、自分を調べたいと思いながら『鑑定』といってみろ」
「はい! えっと……『鑑定』! ……わ! 何か出ました!」
「お互い見せ合えるか?」
「そうですね、情報を共有するのは大事かと」
こうしてお互いのスキルを見ることになったのだが、俺のスキルはというと――。
【拠点(キャンピングカーあり)】【危険察知】【鑑定】【空間収納】【剣術10】
……剣術10は多分、俺が長年やってきた剣道のスキルだろう。
戦闘に向いているのか分からないし、最大何十まであるのか分からない。
しかし【拠点】ってなかなか良いんじゃないか?
(いやでも……なんで〝キャンピングカー〟?)
一瞬、白い車体が頭をよぎった。まるで俺専用の家でもできたみたいだな。
【拠点】を『鑑定』すると以下のことが書かれていた。
【拠点の中にいる間はどんな敵でも一切入ってこれない。拠点レベルが上がれば色々選べるようになる。複数の拠点を選ぶことも可能だが、まだレベルが足りません】
なるほど……?
では、拠点レベルが足りないを鑑定すると、以下の通りが出た。
【拠点レベルを上げるには〝戦闘して経験値を溜める〟か〝商売をして経験値を溜める〟かのどちらかを選べます。冒険者の道を選ぶか、商人の道を選ぶかは自由ですし、両方取っても構いません】
つまり――冒険者ギルドに登録するか、商人ギルドに登録するかが必要ということだ。
確かに身分証明代わりには使えるし、何とかなりそうだ。
「この『鑑定』って便利だな」
「ほんとに便利ですね」
「もう少し自分のスキルを調べよう」
「そうですね……。先生、私まだ不安で……これからどうするんですか?」
「生きよう。俺たち、ハズレ組で生き残ってやろう!」
「……はいっ!」
その返事に、俺は小さく笑った。
――その笑みは、恐怖よりも少しだけ強かった。
俺だって怖い。けど、生徒の前じゃ笑ってみせるしかない。
こうして俺たちは物陰に隠れながら自分のスキルを調べていくのであった。
この世界では、俺と姫島の二人だけが〝ハズレ〟と呼ばれた。
――だがこの〝ハズレ〟こそ、世界を変える鍵になるのである。
【改稿版】本話は、無断転載版とは異なる正式な原稿です。
文章および構成を修正し、寿明結未(旧・うどん五段)本人が手を入れています。
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