学校で僕にだけツンな人気者(アイドル)に催眠掛けたらえらい事になった (ほんとに催眠掛かってる?)

月浜咲

第1話 幼馴染

「んっ……」


何が起きたのか。


いや、僕は分かっているはずだ。

この出来事に至るまでの要因。


全ての事象には理由がある。

ご飯を食べないとお腹が鳴るように。

寝ていないと不機嫌になるように。


だから。

人気アイドルで幼馴染の彼女が現在、下着姿で僕を押し倒しているのは。

僕が原因なのだ。



〈七時間前〉



休み時間、トイレから戻って来た僕が教室の扉に手を掛けると、


ガラリ


僕より先に、誰かが内側から扉を開いた。


「どいて」


ファサリ

金髪の長髪を掻き上げながら フンッ と紅い瞳で僕の事を睨みつけて来る少女が一人。


「いや、他に通れる道あるやん。なんでこっち来るん」

「うるさいわね。退けって言ってんの」


「そうだそうだっ」「ヘラ様に道を開けろ!」「幼馴染だかなんだか知らんが愚民はどけ!」


「んだとぉ金魚のフンども! ケッ! 白けたぜっ」


僕は肩を揺らしながら幼馴染と金魚のフン(全員女子)の横を通り過ぎ、ドカッと自分の席に戻る。


「はー、やっぱ美人だなぁヘラさん……」「オッパイも大きいし……仲良くなれねぇかな……」「無理だろ……会話どころかあの取り巻きが邪魔で近付けもしねぇし」「何かの間違いで付き合えたとしても、ファンに殺されるぞ……?」


今日も今日とて、あの幼馴染は思春期の男子の煩悩の対象となっておられる。


ボフンッ


なんて考えてたら、不意に、背中に柔らかな衝撃。


「ツーヅラっ。何怒ってんの?」


僕にウザ絡みして来るのは、小柄妹系同級生の【茶梅(さざんか)】だ。


その身軽さと体躯と栗毛の髪はまるで小型犬。

人懐っこさも犬のようで、男子の僕にも構わず飛び込んで来るほど。

まぁ、女子はともかく、他の男子には懐かないんだけどもね。


??


なんだか矛盾するような表現だが、僕が男として見られてないだけだろう。


「僕を舐めてんのかっ」

「おおうっ、私に対する怒りっ?」

「ちゃうわい。ウメー、アイドル様に冷たくされたよー」

「またぁ? 懲りないねぇ。ツヅラはもう彼女に嫌われてるんだから絡まないのが吉って言ってるっしょ」

「僕からは絡んで無いやいっ」

「しょうがないなぁ。お姉ちゃんのおっぱい揉ませたげるから元気出して?」

「僕より生まれるのがひと月早いってだけでお姉ちゃんぶりやがって、このロリっ子が。……しかし、ここ最近のウメは急激にロリ巨乳化して来てるからな……少し前みたいにくすぐる感覚で揉むなんて無理じゃい」

「誰かさんのせいで女性ホルモンがドバドバなんだよっ、ウリウリッ」

「おふっ……背中にプニプニをウリウリするのはヤメタマエ……」


くおおおおおおおおおおおヨシ! 慣れた!


「ふぅ。ウメ、もう僕には効かないぞ。脳内でコレ(乳)は『腹肉』と変換完了したからな」

「なにっ! せっかく丹精込めて育てたのにっ」

「安心しな。効果があるのは十数分のみだ」

「短っ! じゃあ次の休み時間で揉ますっ」

「僕には特に不利益は無いなぁ……さて、残りの休み時間で怖い話動画でも見るか(スッ)」

「ウチが居るのに堂々と暇つぶしすなっ」

「……お? これは……」


Y◯uTubeアプリを開いた途端、トップの画面には『とあるアイドル』の切り抜き動画がオススメで表示されていた。


「噂をすれば、だねぇ」

「動画を開かないで通報するっ。切り抜きは犯罪っ」

「それはそう。あ、でもこれ公式のやつ?」

「再生数伸ばすのに貢献せんでいいっ」

「既に数百万再生だけどもねぇ」


スマホには、件の幼馴染こと【篦(へら)オオバコ】が、アイドル然とした衣装を着て、他の(二人の)アイドルと共に歌ったり踊ったりしている……そんな感じの動画サムネイル。


「全く……遠くに行っちまったぜ(笑)」


「チッ」


「うわっ、まだ近くにいた」


教室から出て行ったと思ったら、幼馴染とその一行がまだ扉の前に陣取っていた。

僕には睨まれる覚えなど無いが???


ムッ! と僕も睨み返すと、再び彼女は舌打ちをし、ようやく教室から出て行った。


「全く。あの子、僕にだけツンツンしてるんだから」

「他の生徒には普通か塩対応ぐらいなのにねぇ?」

「昔は仲良かったのにねぇ。妹のようにヨチヨチついて来てたのに」

「基本四つん這いだったんだー。不仲になった原因、思い出せないんでしょ?」

「あり過ぎて逆に無いかなぁ。当時から喧嘩も良くしてたけど、すぐに仲直りはしてたしね。結局アレだ、思春期(今の時期)特有のホルモンバランスの崩れ的なアレ」

「アレねぇ。寧ろアレじゃない? 身近に居てそれこそ兄妹みたいに育つと、身内の体臭がムリになってくるとかいう、アレ」

「アレかぁ。聞いた事はあるなぁ。ウメ、僕ってクサイ?」

「ん? ぜんぜーん? 甘くて、水飴のようにネットリしてて、なんというか……『誘う』ような香りだよ? 舐めていい?」

「甘い蜜なんて出とらんわ、どこ舐める気だ」


でも、まぁ、


「身内への匂い避けも、思春期過ぎれば落ち着くと聞いてるし?」

「なに? また昔みたいに仲良くしたいの?」

「妹(系)とは仲良くしたいだろ?」

「諦めなー? もう人気アイドルなんだよ? 男の噂なんかで無茶苦茶にしたくないでしょ? はなから別世界の他人だと思うべきだねー」

「ううむ……」


茶梅の言葉に、それなりに納得する僕。


ヒソヒソ ヒソヒソ


「茶梅容赦ないな……」「欲しいものの為なら手段を選ばない……」「肉食小型犬すぎる」


ヒソヒソと、教室のどこからか小言が聞こえて来たが、僕は関係無さそうなのでスルーした。

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