第13話 レクリエーション Ⅳ
昼食は映画館に隣接したレストランで済ませ、アーケードを潜り商店街へ入ると大勢の神が道を行き来していた。
思い返すと午後の予定を聞いていない。
アイリスに案内されるまま後を着いて行くと、すれ違う神々の視線を感じる。視線の先が自身ではないことは百も承知だ。
顔良し、スタイル良し、性格は悪いわけではないが、かなり……少し面倒だ。そんな彼女の彫刻であれば美術館に展示されていても違和感はない。目を奪われる気持ちは理解できる。
「着いたわ。」
着いた先はゲームセンターだった。
(……意外だな。)
勝手なイメージだが、彼女がゲームをするとは思ってもいなかった。休みの日は家で読書やお菓子作りなんてしてるお嬢様の様な趣味を想像していた。
ゲームセンターの中に入ると現世とあまり変わらない。クレーンゲーム、メダルゲームやビデオゲーム。向かった先は音ゲーのコーナー。
選んだゲームはダンスゲーム。
「これ、得意なの。」
予想外の選択であった。これも勝手なイメージで申し訳ないが、絶対に運動音痴だと思っていた。
彼女は立ったまま片膝を上げて、サンダルを脱ごうとしている。
「待て!」
「何?」
「せめて、どこか座って脱げ。」
「?」
彼女は気がついてない様であるがワンピースの丈が短いのだ。このままでは自身の醜態を晒す事に気がついていなかった。
「……んっ!」
彼女は近くのベンチでサンダルを脱ごうとするが、レースアップの紐が固結びになっている。
「ほどけないわ。」
(性格だけじゃなく、手先も不器用なのか……)
「ほどいてくれない。」
「子供か!……わかったよ。」
四苦八苦しながら固結びになった紐を外す。ついでにもう片方のサンダルを脱がせ手に持った。
彼女はそのままゲーム機に飛び乗るとお金を入れ曲を選択している。『Psychosis』という曲を選ぶ。星が1、2……11。このゲームは初見であるが、高難易度であることは直感的に理解できた。
曲のイントロは高音域のシャウトで始まるテクノ系の楽曲であった。彼女は顔色一人変えず小刻みなステップでスコアを上げていく。
曲が終わり、スコアが表示されるとあまり納得出来ていない様子で次の曲を選び始める。
急に彼女の顔色が変わった。
(珍しいな。感情を表情に出すなんて。)
「ごめんなさい。夢中になってたわ。」
「気にするな。見てるだけで面白いよ。」
正直言うと俺は驚いている。
彼女が俺に気を使うなんて思っても見なかった。
「次は楽しい曲にするから。」
そう言うと彼女は次の曲を選び始める。
次に選んだ曲は『Papillon』という曲だった。ポップなメロディーはどこか聞き覚えがある。
先程とは違い彼女は飛び跳ねる様にステップを踏む。クルクルと回って見せたり、手を振ってみせた。
曲がサビに来ると大きく飛び跳ねる。
「バッ……!やめろ!」
俺の声が聞こえてないのか、お構いなしに飛び跳ねる。ワンピースの裾が絶妙に彼女の下着を隠しているがいつ見えてもおかしくない。
辺りを見るといつの間にかギャラリーが出来ている。あろうことかスマホで撮影している神さえいやがる。
俺の心配とは裏腹に彼女は無事に醜態を晒さずに踊りきった。
先程のベンチに戻ると彼女は何かを待っている。
(そうか。サンダルだな。)
手に持っていたサンダルを彼女の目の前に差し出すと、そのサンダルを受け取ることはなく、代わりに左足を前に突き出した。
「おい。どういう意味だ。」
『履かせろ』という意味だろう。
意味はわかっていたが敢えて聞いた。
彼女が俺のことをどう考えているかわからないが、線引きを間違えるわけにはいかない。
六花の未来がかかっているのだ。
良き仕事のパートナー。
それ以下でもそれ以上でもない。
困ったことがあれば助けるがそれ以上はない。
互いに甘えることはできない。
「どこか切れてない?」
「……。あぁ、見るよ。」
そう言われて彼女の足をみると薬指には小さな傷が出来ていた。傷口からは血が出ている。
「ちょっと待ってろ。」
「えぇ。」
ゲームセンターを出て辺りを見渡すと、少し先にコンビニを見つけた。消毒液と
(俺は自意識過剰か!!)
自己嫌悪に陥りながら、途中でトイレに立ち寄りハンカチを濡らして彼女の元に戻った。
ハンカチで足の裏を拭き、消毒液と掛けると彼女は小さく声が漏らした。
「……っ!」
「我慢しろ。」
薬指に絆創膏を巻くとサンダルを履かせた。
レースアップの紐を結ぼうとするが、いつもと逆の結びとなるため蝶々結びが上手くできない。背中に通り過ぎる神達の視線を感じる。
ようやく結び終えると念のため右手足も確認する。こちらには傷がなかった。ハンカチで足の裏を拭き、同じようにサンダルを履かせた。
「立てるか?」
手を差し出すと彼女はその手を少し躊躇ってから握った。手を引くと彼女は立ち上がる。
また違和感を感じるが口には出さなかった。
「ありがとう。」
「……あぁ。」
歩き始めると彼女が左足を庇う様に歩く。
見かねて彼女の左側に立ち、ポケットに突っ込んだ右手の肘を少しだけ折り曲げた。
互いに会話は無かったし、目も合わせなかったが俺の二の腕には小さな手がそっと添えられた。
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