第8話 語り出す


7

私は、一つ一つ慎重に思い出しながら話し出した。


「それは、私が川から釣りに行っての帰り道で、何やら女の人の悲鳴の声が聞こえてきたのです。時刻は未だお昼前でした。

私、その声のする所に駆け寄って行ったのです。


見ると、男が娘を手篭めにしょうと、腕を掴み草わらの方へ引きずり込もうと、しているのです。」


「強姦の現場に遭遇したの?

男って、だから嫌なのよ。本当に!」


と、少し怒った言い方した。


そんな会話中に、女中が注文された料理を運んで来てくれた。

だが、私の注文した、焼き魚はまだ来なかった。

みどりが注文した料理はどれも美味しそうで、飾り付けも綺麗であった。


「しんちゃんも食べてね。」

と、私に勧めてきたが、話の方が気になるみたいで

「それから、どうなったの?」

と、みどりは、聞いてきた。


私は、遠慮なく天ぷらを、口にほうばった。


みどりは、私の食べる様子を見ながら、

「ねえ、どなったのよ?」

と、次の話が知りたいみたいだ。


「私は、その男の元に駆け寄って、言ったのです。

『こんな昼間から、女を手篭めにするとは、何事か?』

と、すると男は何も言わずに私を、睨んでくるのです。

見ると、洋服を着ていました。

私の村では、あまり洋服は見かけ無いのですが、何故か着ていました。

娘は、男から逃げて私の元に来ました。

暫く、睨み合いが続き男が私に向かって、そこにあった木の枝を持ち、正眼の構えをとったのです。


私は、釣り竿しかありません。

私も武士のせがれ、剣の道は少しは心得てはいるのでが、

仕方が無いので、釣り竿を相手に向けたのです。

その時、釣り竿の針が相手の男の目に入り見事釣り上げる形になったのです。

その男は、泣きながら逃げていきました。

でも、その男は・・・・」


私は、一気にそこまで話したが、ここでひとまず間を置いた。

そして、天ぷらを食べてビールを頂いた。


みどりもビールを美味しそうに飲み、刺身を食べている。


「それから、どうなったの?その娘さんと しんちゃんと、仲良くなったの?」


「それからですか・・・・。でもここからの話は、貴女には信じられないかも知れません。」


「信じられないって何よ?そんな事言われたら、もっと聞きたくなるでしょ!

話してよ」


「では、話しますよ。今から言う事は、私が実際に体験した事です。信じてください。それは・・」

と言いかけた時、私の注文の料理が運ばれてきた。

女中も私の言葉が、耳に入っていたようで、少し興味があるみたいだ。

 名残惜しそうに、料理を置いて出て行った。


私、焼き魚を食べながら、小さな声で


「それは、助けた娘がこう言うのです。

『私を助けてくれてありがとうございました』と。」


と、ひとまずそこまで喋って、ビールを一口飲んだ。

焼き魚も美味しい。未来の人達はこの様に美味しい物ばかり食べているのか? 

日本も豊かな国になった事を嬉しく感じた。

















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