百十二話 棋盤上の典黙

曹操はソワソワしていた、典黙が曹昂に篝火狐鳴の仕掛けをさせて以来動きが全く無くなった


上手く行ったのか?援軍がバレたのではないのか?


あれこれ考えていると曹昂が良い知らせを持って帰った

「丞相、固く閉ざされていた召陵城から脱走兵が数多く現れました!その数は毎日二三百程度あり、しかもその数も増え続けています!その脱走兵を一部捉えて訳を聞けば袁術軍内では士気は既に下がりきっています、武官に至っても逃げ出す者がいました」

その後落安寺での出来事をも報告した。


報せを受けた曹操はもちろん皆に共有しようと招集をかけた


議政庁では許褚は目を見開き

「子寂、お前すごいな!予知もできるのか?空から石碑が振り落ちるのも知っていたのか、通りで袁術を召陵に追い込もうとしたわけだ!剣術は下手なのに占いは一流だな!ハッハッハ…!」


典黙は許褚を見て肩をすくめ

「いやいやっまさか、仲康兄あの石碑は僕が笮融に用意させた物ですよ。それに僕の剣術は結構なものですよ…」


説明を受けた一同は納得した、通りで先日の郭嘉も笮融を口にしてから子寂に感服した訳だ


曹操「子寂、これが今度の援軍の正体か!この一手により袁術軍はおろか袁術自身も闘志など失せるだろう!君の石碑一枚で十万の雄兵よりも効果はあった!……総崩れか、ガッハッハッ…!」


徐州攻略に褒賞手形を城内に撃ち込んだ時から典黙の心攻めの噂が広まっていた

まさかあれ以上の心攻めがあるとは誰も思わなかった


「文字通り、一兵卒も使わず袁術の帝国を崩した君は管仲や楽毅よりも勝る!子寂の補佐さえあれば天下を手にしたも同然!」

浮かれた曹操は思い付く全ての褒め言葉を使った、援軍の正体が石碑などと想像もできなかった


図々しい典黙もここまで褒められるとさすがに少し照れて後ろを向いて手を振り

「えへへーこれしきの事で褒め過ぎですよ…」


郭嘉は酒瓢箪を下ろし首を横に振り

「丞相、援軍はただの石碑だけではありませんよ」


「ほう、どういう事だ奉孝?」

安心した曹操は元帥椅にあぐらをかいて興味津々に郭嘉を見た


郭嘉は典黙を一目見て立ち上がった

「魚腹蔵書、狐鳴篝火。僕の考えが正しければ子寂は玉佩を袁術に送った時から既にこの日を計画していたですね!袁術は玉佩を天意だと思えば思うほど石碑を見た時の衝撃が大きくなるでしょう、あの玉佩は単に荊州との繋がりを断つためにあるのでは無く、袁術を深淵に落とすための布石でもありました」


郭嘉は上を仰ぎ

「良い手段、良い計略だ…袁術は死んでも敗北の原因を知らないでしょう、自分はただの駒でしかない事もね……麒麟の才、か…」


郭嘉の分析を聞いた曹操たちは冷や汗が止まらなかった

石碑が決め手とばかり思っていたがそれだけではなかった。

梟雄袁術も劉備も劉表も典黙の手にある駒に過ぎなかった。


子寂が敵だったら我もその駒になっていたのか……


曹操は郭嘉をチラッと見て、郭嘉は自虐のように笑ったのを見て


奉孝さえも今日に真相がわかったなら間違いない…


典黙の凄さを改めて理解した曹操は元帥椅から降りて典黙に近寄り、その手を掴んだ

典黙は驚いてじたばたして手を抜け出そうとしたが貧弱な彼にそれができなかった


「袁術は魚腹蔵書で運命を手にしたと思い込んでいたがそうでは無い!子寂、君を手にした我こそ運命を手にしたのだ!大業は必ず成せる!」

言い終わると曹操は典黙に熱い抱擁をした


典黙「ちょっと丞相、髭がチクチクする…」

曹操「なーに、じきに慣れる」


典韋「へっ丞相、昔弟と市場に行った時とある占い師が言ってた、弟は必ず重役に着くってな!ありゃ間違いねぇぜ!」


言い終わると典韋は曹休たちをチラッと見て

「それじゃお前らは下がっていいぞ、俺はまだ丞相に用があるがな」


「なんだと!また俺らを仲間はずれにしてコソコソ手柄を建てようてぇのか?!召陵を攻めるだろ!俺らも連れて行け」

曹純は前に出て不満を顕にした


「なんだ?文句でもあるのか?」

典韋が曹純を睨みつけて

「軍中の規律では力のある者が大将だ、不満なら広場でどっちが上か決めようぜ?」


「子盛、お前の腕が立つのはわかるがそれで俺らを仲間はずれにするのは良くないだろ!軍師殿、贔屓はほどほどにしてください」

チンピラ典韋に話が通じないのを見て曹真は諦めて典黙に話しかけた


曹操が止めに入るかと思いきゃ何も言わなかった。厄介事に首を突っ込みたくないだろう


典黙はため息をついてから肩をすくめ

「そう慌てるな、袁術は既に虫の息。今は攻城戦を仕掛けるよりも召陵城門前で挑発するだけで良いので、"百日後が楽しみだ"とね。僕の予想が外れなければのこまま脱走兵が増え続けてそのうち反乱が起きるだろう。その後に我々は漁夫の利を得れば良い」


典黙がそう言うと曹純一味は納得した

曹純「それなら俺らが行こう!」

曹操「決まりだ」


そしてそこから数日に渡り曹純たちは召陵の城門前で袁術軍に向かって罵声を浴びせた


罵られた袁術軍は出陣どころか言い返す気力も無く、ただ単に好き放題言われてやつれていた。

そして夜になると曹純の隊は撤退と見せかけ近くで待ち伏せして召陵から出て来る脱走兵を捕らえ、それを繰り返していた。


捕虜の捕縛もれきとした手柄、曹純たちもとても喜んでいた。

捕らえた捕虜を曹操は毎日直々に尋問をして召陵城内の情報収集をした


そして城内の様子は典黙の予想通り日に日に混乱になって叛乱も数回に渡り起きていたが韓星によって鎮圧された。


情報収集した曹操は毎日上機嫌で笑いが止まらない。


もうすぐだ、もうすぐ決着が着く!


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