26.逢いに行くよ
台風前夜のような夕暮れだ。
月が移動している。一際に大きい、赤い光が引っぱって、他の赤い光と一緒に地球との距離を
地球の公転に、それまで存在していなかった大質量が上乗せされて、軌道も周期も変化した。自転も、でたらめな相互の引力に影響を受ける。月の公転軌道も、
地球の半径の三倍以内、ロシュ限界を超えてしまえば、月は
「よろしいのですか」
「まあ、ね。こんな状況で急にいなくなったら、死んだと思われるでしょ。それなら、最初からいなかったって認識に変えておいた方が……なんて言うか、余計なことで悲しくなる必要、ないからさ」
「失敗したらどっちみち、みんな死んじゃうんだしね」
自然に、言葉にできた。守るとか背負うとか、そんな大層な気持ちでも、もうなかった。
考えることをやめたわけでも、あきらめたわけでもない。たくさんの人の中にいて、自分のやることを理解して、できるだけする。いつもの両親と同じで、いつかの自衛官とも同じで、思えば、国も世界も同じだ。
初夏でも、これから少し冷え込む時間帯だ。
今は、なんとなくじゃない。理解していた。
「そんな顔しないでよ。
笑って見せた
鼻水をすする音が大きく響いて、
「承知致しました。今度こそ、わたくしを妻と設定し、この身も心も
「全然、承知してないよね。そんな元、どこにもないから」
「破局した未練をふっきるには、いっそ、新たな肉欲に
「その顔、すっごく
小首を
歩きながら
「本当の俺が、神さまだったとしても……この身体と、この一度の人生は、
立ち止まらない
「
市道から国道へ、荒野のような無人の中を進む。
警察や自衛隊の通行規制を、認識されずに通り抜ける。敬礼をしたくなったけれど、我ながら
立入禁止指定区域の
被災者、行方不明者の
夕暮れから、いつしか深夜を過ぎていた。
四人で、屋上に座って少し待つ。いや、人間の感覚なら、まだ違う。少しじゃない時間を、待つ。
背景の黒と星の赤に、やがて
「兄弟」
「お兄ちゃん」
「
かしずくように月に遅れて、今日の
近くて遠い。
宇宙が
「
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