神獣ケルベロス 5-4
ヒロが気がつくと、白い壁に囲まれたロイシュタイン城の病室で目を覚ます。部屋にはほのかな香りが漂い、柔らかな光が差し込んでいる。その中で、ヒロは辺りを見渡すと、ベッドの隣にダンテとベネッタが座り、何やら口論を繰り広げているようだ。
「ダンテ、ベネッタ……ここは?」
ヒロが声をかけると、ダンテとベネッタは驚きの表情でヒロを見つめた。
「おいおい、ヒロ! まだ生きてたんだな! ケルベロスを1人で倒したんだって?」
ダンテがヒロに笑顔で言いましたが、その笑顔の裏には深い安堵と共に疲労も感じ取れる。ダンテの身体には包帯やガーゼなどで傷口を塞いでいた。
「ヒロ、無事でよかったわ。身体はもう大丈夫なの?」
ベネッタは自身が身体を傷ついているにも関わらず、ヒロの心配をしている。
「あぁ、大丈夫だよ。ところでさっき2人で言い合いしてたみたいだけど……」
ヒロはダンテとベネッタが口論している理由を尋ねました。ダンテとベネッタは同時に「なんでって、優勝はベルゼルだから」と叫んだ。
「ベルゼルが優勝!? 俺たちが勝ったんじゃないのか?」
ヒロは不思議そうな表情を浮かべましたが、ダンテとベネッタは困ったような表情で互いを見つめる。
「えー、ヒロは魔族武闘会のこと覚えてる?」
ダンテが小首をかしげながら聞くと、ヒロはしばらく考え込みましたが、次第に記憶が鮮明になっていく。
「ああ、そうだ、ケルベロスと戦って……」
「そう、ケルベロスは倒したんだよな……でもヒロ、倒れてから何も覚えてねぇだろ?」
「倒れてから……」
ヒロは再び考え込むと、不安そうな表情を見せる。
「ヒロがケルベロスを倒した後、プッツンして倒れてしまってさ。で、俺たちはロゼ様から詳細を聞いて、ヒロが倒れたこと、そして……」
ダンテが言いかけたところで、ベネッタが口を挟みます。
「魔族武闘会の優勝は私たちじゃなくて、ベルゼル達だってさ。」
「どうして俺たちじゃないんだ? あのあと何かあったのか?」
ヒロは戸惑いながらも、ダンテとベネッタの説明を聞いた。二人はそれぞれの視点でヒロに続きを語り始める。
「ヒロがケルベロスを倒した後、ベルゼルは腰を抜かしながらも立ち上がったらしい。イヴは俺たちの名を宣言したらしいんだが、ロゼ様は『魔族武闘会の決勝はまだ終わっていない、最後まで立っていた者が勝者だ』っていってさ。魔族武闘会はベルゼル達の優勝で終わったんだよ」
ベネッタの説明にヒロは驚きを隠せずにいた。ケルベロスという強大な敵に立ち向かい、まさかそのあとにベルゼルに勝利を譲ることになるとは思っていなかった。
「そんな……、俺はケルベロスを倒したのに……」
「だから私はロゼ様に抗議に行きましょうって言ってるのに、ダンテが『ロゼ様には逆らいたくねぇ』ってビビっちゃって」
「ビビってねぇだろ! 今言ったって優勝が変わるわけねぇだろ! もう1週間もたってんだぞ!?」
「い、1週間!?」
ヒロは倒れてから1週間もの間ずっと寝ていたのだ。突然のことで驚きを隠せない。
「それで、ケルベロスはどうしてるんだ?」
「あぁ~、まだ会場にいるらしいぞ? 暴れる意思もないらしいから取り合えず軍団長たちが順番に警護に当たってるみたいだけど」
ケルベロスはヒロに倒された後、傷は十分回復しているにも関わらず、会場で暴れることなく、じっと何かを待っているらしい。
「そうだ、ヒロ、あなたの力……もう制御はできるの?」
「ん? あぁ、それがなんかこう上手く引き出せないというか……体も元に戻ってるし」
ヒロの身体は紋章の力に覚醒する前の肉体に戻っている。燃え盛るような翼も、赤く輝いていた紋章も輝きを失っていた。
「多分だけど、俺の持つ紋章はまだ何かきっかけがないと発動しないんじゃないかな? ダンテとベネッタがやられたときみたいな……」
「おい、勘弁してくれよ、またやられろってことかよ」
「いや、別にそういうわけじゃないけどさ。そういえばベルゼルとかは今何してるんだ?」
「あぁ、それなら……」
ベネッタがベルゼルのことについて説明しようとすると、外が何やら騒がしくなり、勢いよく病室の扉が開いた。
「やぁ、やっと目が覚めたみたいだねヒロ」
扉から現れたのはベルゼルとその後ろにディエゴとヤコブがこちらを睨みながら入ってきた。
「ベルゼル、無事だったのか!」
「当たり前じゃないか、君は……無事じゃないみたいだけどね」
ベルゼルは不敵な笑みを浮かべている。傷はそれほどひどくなかったのだろう、体はピンピンしていて問題なさそうだ。
「よぉ、へっぴり腰、具合は大丈夫か?」
「う、うるさい! あれは少しびっくりしただけだ!」
ダンテはケルベロスに出会ったときのベルゼルの様子を皮肉を交えながら言い放ち、ベルゼルはカッとなり必死に言い訳をしている。しばらくベルゼルとダンテは言い合いをしていると、ディエゴが気まずそうに間に入る。
「あの~、ベルゼルさん、今日はお礼に言いに行くって……」
ベルゼルは一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。まるですぐにあったまる電気ストーブのようで、ディエゴの方を向くと急にモジモジし始める。
「ば、ばか! なんで今そんなことを言うんだ! 僕のタイミングで喋るからディエゴ! 君は黙ってろ!」
ヒロはその光景を見て少し微笑ましかった。ベルゼルが2人と仲良くしているのを見てベルゼルもまた魔族武闘会で成長したのだろう。
「ふぅ、ヒロ……僕はお前に負けてないからな! 次も必ず僕が勝つ! わかったな! ディエゴ、ヤコブ! 行くぞ!」
そういってベルゼルは顔を真っ赤にしながら病室を出ていき、ディエゴとヤコブはベルゼルの後を追うように扉から出ていった。
「なにしにきたんだろ?」
ヒロはキョトンとしていた。
「まぁ、俺たちは試合には負けたけど、勝負には勝ったってところじゃないか?」
「そうね、次戦う時はもっと強くなってるかもね」
ヒロはベルゼルを生涯の好敵手とこの時肌で感じ取っていた―――
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