第二十四話:仮面ニンジャ

 半泣きのカミシモを背負って人気のない場所へとたどり着く。


「よし、誰もいなさそうだ。おーい、カミシモ大丈夫か?」

「ぁうぁう、仮面、仮面を……」

「これか」


 俺のすぐそばに赤い特徴的な仮面が転がっていた。レタンに吹き飛ばされた衝撃でここまで飛んでいったのか。どこか壊れていたりは……よし、なさそうだ。

 仮面を手に取ってほこりを払ってから、ふにゃふにゃになったカミシモに渡した。

 カミシモは俺の手から素早く仮面を奪い取り、座ったまま慣れた手つきで装備するとシャキッと立ち上がった。


「……ありがとう」

「その仮面、付けてる時と付けてない時とだと、だいぶ雰囲気変わるけど、魔法でもかかってんの?」

「……暗示を、掛けているだけ。昔、魔物に襲われてた、私を助けてくれた、人をイメージして作ったから」


 過去にカミシモの身に何があったのかは分からないが、それだけ大切なものなのだろう。


「仮面を、つけていると、その人も……その一緒になって、戦ってくれている……ような気がして、ちょっとだけ、勇気が出る」


 カミシモを助けて勇気をくれるほど憧れる人か、それは会ってみたいな。でも生きているかな。モンスターいるし、生活水準見ていると平均寿命も日本ほど高いとは思えない。いや、回復魔法とか発達しているから案外高いのか?


「その人は生きている」


 仮面を無くしてヘロヘロになっていた人物とは思えないほど、力強く言い切った。

 どこの誰かは分からないが再会できることを祈ろう。


「でもカミシモも結構強いと思うけどな、分身の術とかバンバン使っているし。今じゃその人と並ぶくらい強かったりして」

「それはない、残念だけど。それに、本当は臆病、なんだ。満足に話せないし、注目されるのは……無理」


 思えばゴーレム倒した後とか、俺たちと一緒に街の隅っこの方にいたもんな、カミシモ。注目されるのが嫌だったとしたら悪いことをしたな。


「あー、ごめん。そうとは知らずに……」

「……そんなことは、ない。私が不甲斐ないだけ。……姿を見られると、昔のことを思い出して、戦えなくなる。

 だからバレない、忍者になった。でも話せなくて、里を追い出されて、克服したくて、劇団に入ったけど、ダメ……だった」


 女忍者の過去が少しだけわかった。昔に何者かに襲われてそれがトラウマらしい。姿を見られると何もできなくなるのは過去を思い出してしまうからなのだろう。そんな自分を変えたくて忍者になったか、まあ話せる内容じゃないか。


「今までのはただの空元気だったってこと?だとしてもすごいことだよ。俺なんかよりもできることが多そうだし」

「君たちとの戦いは、私が目立たないから……やってける」

「……そう言ってくれると嬉しいよ」


 おお、無駄に熱くて重い着ぐるみの中に閉じ込められ、モンスター相手に奮闘していたのが報われる日が来るとは。

 今までの戦闘を振り替えて感動していると、向こうからレタンが金髪を揺らして走って来きた。


「カミシモ、大丈夫か?」

「もう、大丈夫。ちょっと混乱した、だけだから」

「そうか、それなら良かった。その、仮面が取れたのは私にも責任があると思うから」


 レタンは腕相撲が原因で、仮面が取れてしまったから負い目を感じているのだろう。こっちはこっちで堂々としているというか。ピノはどうしているんだろうか。


「アイツは嬉しい悲鳴を上げながらお客をさばいている。大会という名目上、収拾を付けないといけないしな」

「結局勝敗は?」 

「一応、私の勝ちになったらしい」


 まあ、あれだけ派手に投げ飛ばされればレタンの勝ちだよな。

 負けた方は申し訳なさそうに、俺に頭を下げた。


「すまない、命を遂行……できなくて」

「気にしないでよ。むしろこっちがゴメン」


 忍者もダメで、劇団もダメ。そんな話を聞いた後だからこっちまで気まずくなるぞ。

 みんな真面目だよな。いや、もう一人ピノとかいう強欲商人がいたか。


「ああ、それとピノも心配していたぞ。何かあったときのお金は任せておけ、と言ってた」


 訂正、悪かったピノ。


「……ありがとう、平気って、伝えといて」


 カミシモは指で輪っかを作って答え、完全に復活したと思われる。

 レタンも納得がいったようで、大きくうなずいた。


「ならよかった、準優勝者としてインタビューがあるそうだ」

「え……やっぱり、ダメかも」


 赤い仮面は青ざめた顔を隠しているんだろうな。


「やはりか、何処が痛むんだ?仮面を取って顔を見せてくれ。私だって騎士さ、応急処置くらいはできる」

「……そこまでじゃ、ないから、平気」

「そうか……分かった。先に行っている、ピノが待ってるぞ。あと、痛くなったら早めに教えてくれ」


 女騎士は、地獄への道を無自覚の善意で舗装すると、スタスタと一人で行ってしまった。

 残されたのは俺と腕相撲大会準優勝者。まあ、激戦を繰り広げた二人にはスピーチの一つでもしてもらわないと収拾がつかないのだろう。

 歩き出そうとした俺の裾が急に引っ張られた。


「……一緒に、ついて、来て」


 何も泣かなくてもいいだろうに。




 その後のことをサックリとまとめよう。

 カミシモはレタンと一緒に舞台に上げられ、仮面と同じくらい顔が真っ赤になっていた。堂々したレタンの挨拶に対し。


「準優勝、ありがとう」


 その一言で終わった。しかも、『ありがとう』なんて聞こえるか聞こえないかくらいの声量で。

 嘘でしょ、だってさっき仮面付けたから大丈夫って言ってたじゃん。ほら何とも言えない空気が張り詰めてるし、ピノも反応に困ってるよ。

 静寂の中、俺の隣からすすり泣く声が聞こえる。カミシモに賭けて爆死したのだろうか。全財産突っ込むなんてどんなバカだろうか。ぜひそのマヌケ面を拝んでやろう。


「カミシモ……よく、頑張ったな。人前でこんなに話せるようなって……」


 劇団の団長さんが感動のあまり泣いていた。嘘でしょ。

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