第16話 ロストとリセット
ドアの先に広がっていたのは、暖かい雰囲気の、生活感のあるリビングルームだった。
中央には明るい絵柄のカーペットが敷かれており、その上に大きなテーブルとソファが置かれている。
そしてさらに、テーブルの上に手紙が何枚かあり、それぞれ番号が付けられ、1番目の一番大きい紙には
「最初にこれを読め!」
とデカデカと書いてあった。ソファに座り、紙を手に取り、順番通りに読んでみる。
「俺へ、もしこの手紙を読んでいるのなら、まずは生き残って帰ってきた自分を褒めろ。そしてもし、今この手紙を読んでいるのが俺たち以外、つまり件の勇者さんなら、まず生き残って帰ってきた自分を褒めろ。そしてこの下に書いてある説明を見てくれ」
「突然のことが起きまくって何が何だかわからないと思う。ソファに座って、コーヒーでも飲んで落ち着いて読んで欲しい。これから説明するのはもっと訳のわからないこの世界についてだからだ。」
その下に書かれてる文章、ぱっと見文字数は4桁くらい。なんとか自分を奮い立たせ、流し目で手紙の内容を読む。
「まず初めにこの世界についてだ。単刀直入に言うと、この世界はループしている。同じ人が同じ行動を、一週間の間隔でな。信じられないと思う。けどこれは本当のことで、ちゃんと確認できる。」
「そこら辺に鍵束があるじゃろ?そこに『飛行船のベランダ』というネームタグがついた鍵があるじゃろ?7日目にそこに行って世界がリセットされる様を見てみると良い。いやでも信じるぞ」
突然の告白に、俺は頭をフル回転して書いてある事を整理した。
まず、この世界は一週間周期でループしている。それを確認するには飛行船のベランダへ行って見ると良い。
「次に今のお前の状況だが、どう頑張っても茨の道だ、おめでとう!」
「そしてそんな可哀想なあなたに朗報だ!元の世界に帰れる方法がひとつだけある。ズバリこのループを破る事だ!この世界には「主人公」というもの達が存在する」
「主人公の特徴としてはよくトラベルに巻き込まれたり、髪型や髪色が奇抜だったりする。そして何より一番の特徴は、最後の日に必ず悲惨な目に遭うという事。何かしらの冤罪を着せられたり、親に捨てられたり、もしくは....嘘を信じて生贄に捧げられたり」
「世界のループを終わらせるためには、その主人公たちの結末を変える事。運命を変える事だ。なんで変えたらループを破れるの? なんていうことは置いとけ、俺らも分からん。思うに、主人公という奴は世界を変える力があるんだろう。知らんけど」
ループを終わらせる方法は、世界の各地に存在する「主人公」というもの達を違う結末に導くこと。
手紙には他にも色んなことが説明されていた。今いるこの場所、持っていた銃について、敵の存在、etc...
「どうかたどり着いて欲しい、この世界の真相に。そしてどうか掴み取ってくれ、今まで辿り着くことの無かった、失われた運命。ロストシナリオに」
「せいぜい頑張れ。過去の、そして未来の俺たちより」
最後はその言葉で締めくくられていた。
「...そんなのわかんねえよ」
何もかもが分からない。手紙をテーブルに放り出し、ソファに横になる。頭の中は今までの出来事と情報の整理でいっぱいだった。
「ハァ....」
ため息をつく。それで全てがわかったりしたらどれだけ楽なことか。今までのこともあり、心身ともに疲れ果てた俺は、いつのまにか眠りに耽っていた。
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「モウスグ!モウスグ!」
鳩時計の鳩の騒がしい声が俺を呼び覚ます。正確にはインコだろうか、その鳥は「もうすぐ」という言葉を残して中に引きこもった。
重たい体をとりあえず起こしたは良いものの、何もしたくない。ふと、手紙に書いてあった飛行船のベランダの鍵のことを思い出す。
辺りをうろついてみると、真ん中より少し奥のダイニングキッチンに、鍵束が置いてあった。現在時刻は23時57分。
あの鳥が言ってた「もうすぐ」とはリセットのことだろうか? 寝ぼけた好奇心を抱き、入ってきたドアに鍵を入れて回す。開けてみると、またもや真っ黒な空間が広がり、その先にドアがある。
自分の頭は寝ぼけているのか、慣れてしまったのか、特に何も言わずにそのまま先へと向かった。
「...うわっ寒!」
開けた瞬間の強風に思わず声が出る。おかげで脳が起きたのか、段々思考がハッキリしてきた。リビングからランタンを持ち出し、夜のベランダを照らす。
まんまるとした真っ白で大きな月が、水平線までぼんやりと映し出す。点々と小さな光が大陸から発せられてるものの星空の光には叶わない。
「うわぁ...」
少し神秘的な景色を眺めていた時、視界がどんどん暗くなっていくのを感じた。自分の体に何か異常があるわけじゃない。手すりに乗り出し、原因を探す。
案外、それは簡単に見つかった。照らしている月自体がどんどん黒ずんでいくのだ。何かに侵食されるように、月は黒ずんだ何かに覆われていく。
ついに全体が黒ずんだ瞬間、今度は液体になったかのように下一点に集中する。それは一粒の涙となり、落ちていった。
落ちていく途中、それはいくつもの流れ星に分裂し、その一つが飛行船の近くを通り、そして...気球の部分を突き破った....これ不味くね?
「うわっ!...ちょっ!」
手すりや床が傾き始める。それだけじゃない、突き破られた部分が段々と光を全く反射しない黒に染められていく。金属も、木材も、何もかもだ。
急いでドアに駆け寄り、鍵を閉める。またもや理解し難い状況に直面して、頭を痛ませる。
確かに、あんな気味悪い黒いものはいつ月を見上げても見なかった。それがあらゆるものを呑み込み、そして....元の状態に戻っていた。
確かにあの時ハッキリと見えた。流れ星に突き破られた部分が、あの黒い液体によって縫い繕われているところを。あれは一度全てを真っ黒にして、もう一度再構築する効果があるのだろうか?
何も分からないことを考え、エネルギーを消費したのか、お腹が空いてきた。何か食べ物はないかと、リビングに戻る。
「....あ!」
しまった、ランタンを外に置いてきてしまった。かと言って取りに戻ることもできないだろう....悩みの種がもう一つ増え、リビングのドアを開けた時....テーブルの上にランタンが置いてあった。
悩みの種が一つ枯れ、そしてまた芽生えた瞬間であった。
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