親子転移ー魔王と勇者と弓の話ー
こーの新
最後の日
今日も1日授業を終えて、部活動までしっかり取り組んでからいつも通り桐山と下校する。桐山は高校の同級生で、同じチャンバラ愛好会に所属している仲間だ。頭は良いけれどちょっとチャラくてブレザーはいつも着崩している。もちろん俺はきちんと着ているぞ。
「明日の模擬戦は俺が勝つ」
「いや、明日も銀狼無双だから」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくないのか?」
詳しくは知らないし記憶にも残っていない父親。その父親譲りらしい銀髪と金色の瞳、そしてあまりの無敵さから、いつしか俺は銀狼の異名を付けられた。
そして銀狼無双とは入会以来無敗の俺対ほかのメンバーというカードがひたすら続く模擬戦のこと。桐山は悔しいのかと思いきや恥ずかしがってその名を使わないけれど。
チャンバラなんてと思うかもしれないが、俺たちは誇りを持って戦っている。まあ、周りからは中二病だなんだと言われるけれど。
「なあ、あれ望実ちゃんじゃね?」
「ん? ほんとだ。おーい、望実!」
少し先で信号待ちをしていた少女はセーラー服のスカートをヒラヒラと風に揺らしながら振り返る。艶やかな黒髪を短く切り揃えて、目を合わせればくりくりした黒目がキュッと細められる。贔屓目なしに可愛いあの子が俺の妹の望実だ。
「お兄ちゃん!」
「望実、1人か?」
「そこまで伊澄と一緒だったよ」
「そっか、ならよし。一緒に帰ろうか」
「うん!」
ぱぁっと花が開くような笑顔が可愛い。天真爛漫でついつい守ってあげたくなるこの子のためなら、俺はどんなことでもしてあげたい。
望実と俺では髪の色も瞳の色も全く違う。けれど正真正銘血のつながった兄弟だ。昔からよく疑われたけれど、俺は父さん似で望実は母さん似というだけ。ただし父さんがどこの人でこんな容姿をしているのかは知らないけれど。
「俺完全に蚊帳の外じゃん」
「あ、桐山くん。こんにちは」
「望実ちゃんこんにちは。絶対今の今まで気がついてなかったでしょ」
桐山に図星を付かれてはぐらかすように笑っている望実も可愛い。そう、俺の妹は何をしていても可愛い。目に入れても絶対痛くない。というか食べちゃいたい。
望実にキモいと言われないように、まあ望実はそんな汚い言葉遣いをする子ではないんだけど、愛情は胸の内に隠す。
望実を真ん中にしてしゃべりながら途中までは3人で帰って、桐山の家の前で別れた。そこから1kmの道のりは2人きりの時間。
「今度のテストどう?」
「大丈夫だよ」
「そうかそうか。うんうん。望実は頑張り屋さんだしな」
毎日寝るギリギリまで参考書とノートを広げていることを俺は知っている。俺と同じ高校に入ると意気込む妹は可愛い。
うりうりと頭を撫でていると、望実は照れ臭そうに笑って上目遣いに俺を見上げた。
「だってお兄ちゃんの妹だもん」
グサッと何かが深く胸に刺さった。こんなに可愛い妹がいて、俺の人生は薔薇色だ。俺と望実を産んでくれた母さん。母さんが望実を身篭ってすぐに行方不明になってしまったから顔も覚えていないけれど。俺と望実に遺伝子を分けてくれた父さん。2人には感謝してもしきれない。
「今日の夜ご飯は望実の好きなオムライスにしようか」
「やった! お母さんも今日は早く帰ってくるんでしょ?」
「うん。早番だって言ってたから、多分もうそろそろ家に着いている頃だと思うよ」
母さんは看護師をしている。夜間診療がない小さなクリニックだから夜の出勤はないものの、スタッフが少ないからと週の半分は帰りが遅い。
「ね、お家まで競走しよ?」
「良いけど、転ぶなよ?」
「はぁい! よーい、どん!」
望実の掛け声で揃って駆け出す。望実が転んだらすぐに支えられるように、俺は1歩後ろを走る。
「お兄ちゃん、遅いよ!」
「望実が速いんだよ」
望実だって嘘だって分かっているだろうけど、こればかりは譲れない。大切な妹を守りたいと思って何が悪い。付かず離れず一緒に走っていると、家の前に着いた。
「ゴール!」
顔全体で笑っている望実の頭をクシャッと撫でて、玄関の方に向かわせる。
「汗かいたし、望実はご飯の前にお風呂入りな」
「分かった。お兄ちゃんもちゃんと汗拭いてね」
「承知」
玄関のドアを開けてやって、いつものように望実を先に入らせようとした。けれど何か嫌な予感がして俺が先に入った。
その瞬間、血まみれで倒れている母さんが視界に飛び込んできた。
「かあ、さん?」
「お兄ちゃん? どうした、の……っ、お母さん!」
「望実っ、下がれ!」
望実が俺の後ろから顔を覗かせた瞬間、母さんの向こうから男がこっちに向かって飛び込んできた。誰だよ。てか、何してんだ。
「女、殺す」
女? 望実のこと? 母さんはこいつが?
望実を守らないと。
疑問はいくらでも浮かぶ。分からないことだらけの俺の頭には、確実なものはそれしか浮かばなかった。
望実を抱き締めるように抱え込んだ瞬間、布が裂けるような音がした。痛みはなかったから慌てて腕の中の望実が無事か確認した瞬間、脇腹に激痛が走った。
「なっ、不味い!」
「っ、望実っ、走、れ……っ」
「お兄ちゃん!」
男は俺を刺したことに動揺して一瞬俺たちから離れた。その隙に倒れ込みながらも望実を玄関から遠ざけようとするけれど、痛みで上手く動けない。腕の中の望実の温かさが消えないまま、俺の意識はパタリと途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます