第16話 後悔

「たまげたなぁ……まさか、死神しにがみを目にすることができるなんて、思ってなかったぜ」

失礼しつれいですよ、タイラー」

「すみません、カルミア隊長たいちょう。つい、本音ほんねれたっス」


 金髪きんぱつあたまきながら、私に視線しせんげかけて来るのは、タイラー。

 カルミアさんの部下ぶかなんだって。


 彼は、魔物まものからげ出した後、カルミアさんのことが心配しんぱいになって探しに来たんだとか。

 仲間なかまおもいのい人だよね。


 でも、あのあたりにそんなにつよ魔物まものなんていたかなぁ?

 カルミアさんを石化せきかさせた魔物まものたのは確かだけど。

 私達がいたころには、もういなかったんだよねぇ。


 なんてかんがえていたら、おちゃえたらしいカルミアさんが、すっくと椅子いすから立ち上がった。

「リグレッタさん。いいや、リグレッタ殿どの。このたびいのちすくっていただき、まこと感謝かんしゃいたします」

「うぇ? 私、何もしてないけど」

「いいえ。間違まちがいなどではなく、私は貴女あなたいのちすくわれたと考えています」


 そ、そんなに言われたら、れちゃうなぁ。

 実際じっさい、私がしたことなんて、万能薬ばんのうやくを作ったくらいだよ?

 たしかに、石化せきかのろいは厄介やっかいだけど、そんな大げさな話じゃないよね?


 でもまぁ、ここは素直すなお感謝かんしゃっておこうかな。


本来ほんらいであれば、何かしらの謝礼しゃれい用意よういしたいところなのですが……」

「いやいや、良いですよ。一緒いっしょにおちゃめましたし。お散歩さんぽできて楽しかったので。ね、ハナちゃん」

「うん!! お散歩さんぽたのしいんだよっ!」

「お散歩さんぽ……」


 カルミアさんが、しんじられないとでも言いたげなかおで私とハナちゃんを見比みくらべてる。

 もしかして、お散歩さんぽしたことないのかな!?

 本でんだけど、騎士きしってお仕事しごといそがしいから、あそひまとかほとんど無いんだよね?

 大変たいへんなんだろうなぁ……。


「もし、またもりに入る予定よていがあれば、その時は一緒いっしょにお散歩さんぽしますか?」

「それは非常ひじょう興味きょうみぶかいおさそいですね……ですが、それはむずかしいと思います」

「そうですか。きっと楽しいと思うんだけどなぁ」


 カルミアさんはいそがしいんだから、仕方しかたが無いよね。

 今も、しきりにまどそと視線しせんげて、かえりたがってるみたいだし。


「それでは、リグレッタ殿どの美味おいしいおちゃをありがとうございました。名残なごりしいですが、私達はこのへんでおいとましようと思います」

「そうですか。もりの外まで行くんですよね? 良かったら、出口まで送って行きましょうか?」

「……本当、ですか!?」


 お、かなり食いついてきたね。

 やっぱりあれなのかな?

 カルミアさん達はこの森についてあんまりくわしくないから、ちょっとこわかったりするのかな?


 分かるなぁ。

 私も小さいころは、森の中を歩くのがこわかったおぼえがあるもんね。


「リッタ。またお散歩さんぽに行くの?」

「うん。そうしようと思ってるよ。ハナちゃんもついて来る?」

「行く! ねぇリッタ! あれやりたい!」

「あれかぁ~。そうだねぇ。ちょっと聞いてみようね」


 ハナちゃんの言う『あれ』って言うのは、少し前からハマってるあそびのことだ。

 きっかけは、ラービさんだった気がする。


 ものがおそらまわるラービさんを見て、ハナちゃんはうらやましそうにしてた。

 そして、色々いろいろためし始めたんだよね。


 ベッドの上でねてみたり、屋根やねの上からりようとしてみたり。

 あぶないことをかえたびに、シーツとほうきたすけられてたよねぇ。


 でも私は、ハナちゃんが何をしたいのか分かって無かったんだ。

 だから、屋根やねの上にるのを見つけた時は、飛び上がっておどろいちゃったよ。


 だから、ある日ハナちゃんに聞いたんだ。

 そしたら、ラービさんをゆびさして、こう言ったんだよね。

「ハナもそらびたい!!」


 それくらいの事なら、言ってくれたらかなえてあげるのに。

 って言ったら、ハナちゃんは小さくつぶやいてた。

「だって、ハナがべたら、リッタにおしえたいもん」


 あの時は、われわすれてきそうになったよね。

 あぶなかったよ。

 ホントにあぶなかった。


 それから、ベッドシーツと沢山たくさんのリーフちゃん、そしてタマルンの力をりて、ハナちゃんはそらび立つことができたのです。


「おっさんぽ、おっさんっぽ! ふぅ~!!」

 お玉のタマルンを持って外にけ出してくハナちゃん。

 そんな後姿に、私は声を掛けた。

「ハナちゃん、あわててころばないようにね!」

「は~い!」


 元気げんきのいい返事へんじきながら、私はベッドシーツにサインを出し、その後、リーフちゃんのうたかなでる。

 うん。

 大量たいりょうのリーフちゃんがはたけよこあつまりだしたね。

 そうしたら、ベッドシーツにリーフちゃんをくるんでもらって、それにハナちゃんがタマルンをしたら、完成かんせいするはず。


「あの、リグレッタ殿どの? 一体いったいなにを」

「今からお散歩さんぽに行くんですよね? だったら、空のお散歩さんぽとかしてみたくないですか? って言うか、ハナちゃんがり気なので、一緒いっしょに空を散歩さんぽしに行きましょうよ。その途中とちゅうで、もりそとまで向かえば良いと思うので」

そら散歩さんぽ!?」

「……死神しにがみ、マジパネェッスね」


 マジパネェって、どういう意味いみなのかな?

 今度こんど、本で調しらべてみよう。


「はぁ……リグレッタ。私はもうつかれた。今日のところは帰るぞ」

「あ、ラービさん、帰るんですね。気を付けてください」

「ばいば~い」


 西にしもりに向かってんで行くラービさんを見送みおくって、私はそら散歩さんぽ準備じゅんびすすめる。

 ちなみにハナちゃんは、すで準備じゅんび万端ばんたんだ。


「カルミアさん、タイラーさん。ハナちゃん号の後ろに乗ってくださいね」

「ハナちゃん号?」

「もしかして、その簡易かんいベッドみたいな奴のことを言ってるっスか?」


 簡易かんいベッドって、失礼しつれいだよね!?

 リーフちゃんをくるんだシーツは、フッカフカで気持きもちいいんだよ!?

 まぁ、私は一緒いっしょれないんだけどさぁ。


 内心ないしん、ハナちゃんごうれる2人に不満ふまんれながら、私はほうきこしせる。

「よろしくね、ほうきさん」


 おそおそるハナちゃんごうに乗るカルミアさん達を待って、私達は空へと飛び立つのでした。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 リグレッタとハナちゃんとともめぐった空の散歩さんぽわった。

 私は今、死神しにがみもりひがしにあるベスカー平原へいげんます。


「いやぁ……あれが死神しにがみか。すごかったっスね、カルミア隊長たいちょう

「そうですね」


 正直しょうじきにいうと、タイラーの話しなんてあたまに入ってきていません。

 それどころじゃない。と言うのが本音ほんねです。


「それにしても、まさか森の中を彷徨さまよってた騎士団員きしだんいん全員ぜんいん見つけて、ここまではこんできてくれるとは。俺、死神しにがみってのはもっと、おそろしくて危険きけんやつだと思ってたっス」

「タイラー。少ししずかにしてくれませんか?」

「す、すみません」


 彼が興奮こうふんするのも分かります。

 正直しょうじき、私の心臓しんぞうは、今までに聞いたことが無いほど高鳴たかなっているのですから。

 ですが、冷静れいせいに考えなければいけないことが、沢山たくさんあると思うのです。


 まず、今回の調査ちょうさられた最大さいだい情報じょうほうは、リグレッタという名前の死神しにがみが、森にんでいるという事実じじつ


 気になるのは、その名前。

 リグレッタ。

 その名が意味いみするものが、私の考えている通りだとしたら……。

 それはきっと、私達人間にとって、脅威きょういになると考えた方が良いのかもしれません。


 そしてもう一つ、獣人じゅうじん集落しゅうらく壊滅かいめつさせた犯人はんにんは、リグレッタではないでしょう。


 なぜなら、きっと彼女なら、えカスなどのこ余地よちも無いほどに、完璧かんぺき集落しゅうらくることができたはずだから。

 それをせず、おまけに獣人じゅうじんの女の子をひろってそだてている。

 それがすべて、ただの気まぐれだとは、思いたくありませんね。


 今回こんかい調査ちょうさで、私は理解りかいしました。

 なぜ、この森が、死神しにがみの森と呼ばれているのか。


 死神しにがみんでいるから?

 いいえ、ちがいますね。


 文字もじどおり、この森が死神しにがみ所有物しょゆうぶつだと言うことを、しめしているのでしょう。


いそぎ、国王こくおう陛下へいか情報じょうほうとどけなければ……」

 この情報じょうほうは、くににとって有益ゆうえきなものにちがいありません。


 そして、今後こんごうごき方を考える必要ひつようがありますね。

 間違まちがっても、彼女と敵対てきたいすることが無いように。


 後悔リグレット


 彼女の両親りょうしんは、何を思ってその名を付けたのでしょう。

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