ヴぇ位キングら二0

エリー.ファー

ヴぇ位キングら二0

 もうすぐ、このあたりは夜になる。

 死体が躍り出すと言っていい。

 あんただって、知ってるはずだ。

 連続殺人鬼が街を支配してから、もう二十年も経っちまった。

 警察も政治家も、全く機能していない状況で、町に住む人間がまともなツラをして生きていけるわけがない。

 寂しさが横たわるような町じゃないのさ。

 もう、この街には騒がしさが常に住み続けている。

 死体になっても叫びまわるのは子どもたちの特権だ。

 公園で遊びながら、口から血を吐きだし続けて、訪れた旅人たちに呪いをかける。

 街の東側じゃ、噴水から血が噴き出すどころか粉末になった骨が湧き上がってくる。粉のくせして、まるで液体のようなうねりを持つものだから、不思議がって手を入れるヤツらが、余りにも多い。そのせいで、次から次へと噴水の燃料が注ぎ込まれていくってわけだ。

 街の西側にも行ってみりゃいい。あのあたりは、死体こそないが、その代わり、多くの人間たちの恨みつらみが渦巻いてる。しかも、それは死体の言葉じゃねぇ、生きているやつらの言葉だ、どっかの小説家も言っていたが、本当に怖いのは、死体じゃねぇのよ、生者なのよ。なにせ、あいつらは、死体の骨から剣を作ったり、矢を作ったりするわけだ。そんでもって、それを使って、次から次へと生者を死者へと変えていく。結果として、どんどん言葉は薄まっていくはずなのに、生き残っている側の罪悪感は肥大化するから、質はどんどん高くなる。あのあたりの霧は濃くなるばかり。

 街の北側にも行ってみるといい。あのあたりには墓がある。でも、その墓の下には、骸骨なんてものはない。それこそ、土。そう、何もない。金目のものも埋まっていないが、その分、恐怖もない。幾分か、この街じゃマシなところさ。元々は、街中で死体が溢れ返るだろうと考えたやつらが、あらかじめ墓を大量に作っちまったのが始まりなわけだ。でも、誰も入らなかった。何故か。街の治安がいいからじゃねぇ。誰も墓の下に仕舞おうなんて思わなくなっちまったんだよ。だって、死体で溢れ返っちまったからな。そもそも、墓場まで運ぼうとするヤツがいないのさ。運ぶヤツだって、殺されちまったからな。

 街の南側に行ってみるといい。あのあたりは店が多い。どんな店が多いかは行ってみてのお楽しみだな。何があって、何がないのかは、感じることもあるだろう。ただただ、多くの商売人が、次は何で金儲けをしようか、死体になった今も考えてる。大抵は、このあたりに住んでる悪魔どもと契約して、いかに、生きている人間を騙してその命を安く買って、悪魔に高く売るかしか考えてないのさ。気の持ちようだが、そのうち、死体だって安く買って、開くまでに高く売りつけ始めるかもしれない。まるで、商売人の魂が空気の中に溶けていかないのは、その勤勉さから来る皮肉みたいなもんじゃないか。

 で。

 まだ、このあたりにいるのか。

 まだ、このあたりで何かを探るのか。

 もしかして。

 まだ、何かを求めているのか。

 この街で。

 だったらやめておいた方が良い。

 今の説明を聞いた上でこの街に入るようなヤツは、ただの命知らずだ。その称号に似合った死に方がプレゼントされること間違いなしだよ。

 もし。

 今の説明を聞いた上でこの街に入ろうとしないなら。

 お前は、まともな人間だよ。

 そして。

 まともな人間の魂は、向こう見ずな人間の魂よりも高く売れるのさ。

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