第2話・こっちを向いて(BL)

ある時から、このクラスで一番人気の男子につきまとわれるようになった。

修学旅行の班分けも校外学習で一人の時も、そして放課後二人の時。

長いまつげが影を落とし、僕の手元を見ながら、

「きれいだなあ」と言う。

字が綺麗なのだと言う。自分のは汚いから、と。

カーテンが風で波を作る。

僕が顔を上げたのを感じ取ったのか、そいつは顔を上げて淡く、そう淡いという言葉が似合う、笑みで「微笑んだ」

風が一際大きく吹き抜ける。

「どうした?」

「……今までさ、なんか僕をかまって? たけど、それって罰ゲームとかじゃ」

「ちがう」

ああ、

「違うけど」

そしたら、これはなんなんだ。

大きな手が僕の前髪を触りながら、

「どうしてだと思う?」

風が、しん、と静まりかえった。どうしてなら、うぬぼれていいなら、

「気持ち悪くない?」

僕は言う。

「気持ち悪いの?」

「そうじゃなくて」

「うん」

「これ以上、望んでもいいの?」

「うん、やっとこっち見た」

嘘だよ、なんて言葉を待ってはいられない。

そいつは髪を触っていた手を、机にあった僕の手に重ねて、

「好きだよ」

口元を震わせながら僕は手を返し、持ち上げて額にくっつける。

「ぼ、ぼく、ぼくも」

目の前が歪んで、そいつの顔も揺らめいた。

「いつ、いつのまにか、ほんと、ばか……好き、になって」

「おれも好き」

「好き?」

「好き」

「じゃあ、おれ、もっと愛してる」

ばさぁっと大きな音をたてて風とカーテンが膨らんで教室中の空気が変わっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る