第4話 未知の食材との出会い
つる草がしっかりと絡まる茂みをいとも簡単に切り開いていく。弾力も強度もあるつる草に立ち向かうのはルビは苦手だったが、シノブはさほど苦労しているようには見えなかった。
しかし、わざわざ道から外れて山の中に切り込んでいったって何があるというのか。
「まー、見つけてからのお楽しみ」
と不敵な笑みを浮かべた彼女から言われたのは『紫色と黄色の花を見つける事』。確かに罠を仕掛けに山に入るときなどに見かけたことはあるけれど、どこだったかなど覚えてはいない。
『任せて』と胸を張ってから3日が経っていた。その間にシノブは使えなくなった鎌や穴の開いた鍋などを集めておいて、2度ほど意識を失いながら自身が右手に振るう『ナタブレード』とルビの背負う先が三又鋤を生成したのだった。確かに長い方が便利なのは分かるが、彼女の腕の長さほどもあるのは最早ナタというよりは剣である。切っ先が尖っておらず平らであることだけが農機具の面影を残していた。
「今度はこのつるとかも狩りに来よう!」
「へ? 何に使うのさ?」
「ベッド代わりになる物ー」
何を言っているのか全く分からないけれど、そのうち現物を見せてくれるのだろうなと思えるようにはなった。こんな苦労をしなくたって魔法の力でポンポン出してしまえば楽だろうに。
「ごめんなさいね、変なことに付き合わせちゃって。私がもうちょっと万能だったら良かったのに」
ルビの感情は耳に現れるのだが、本人はそれに気づいていない。村長から面倒を見るようにと言われてしまったルビの事を思えば、シナっとなった耳にかける言葉があるとするなら詫びくらいしか思いつかなかった。
「や! そんなことないよ! 大丈夫よ! ちょっと何が起こるのか心配になっただけ! 分かんないの、チョトコワイにゃ」
驚いたのか尻尾が膨らむ。モフモフしたら嫌がるだろうか。
「ダイジョウブ、ダイ……あー! あれ、花だ!」
気まずくて逸らした視線の先に、薄紫で中が黄色い花が幾つか付いたものを見つけた。良く見ると、同じ花がたくさん咲いている。
「素敵ー! じゃぁね、この辺かな……」
しゃがみこんだシノブは手を目一杯開き、親指を茎にあて小指の位置を差す。
「この辺りから鋤を落として、花ごと掘り返してみて」
それなりに固いはずなのに、驚くほどすんなりと地面に刺さる。掘り起こすと紫色した拳半分くらいの球根が幾つも出てきたのだった。
「ビンゴ! やっぱりあった!」
「シノブさんや、この禍々しい色合いの球根は、どうすんのにゃ?」
「食べるよ」
「あ、あぁ……」
デスヨネー、とつぶやきながら、もういくつかの花を掘り返す。シノブは手に持った袋に球根たちを放り込みながら鼻歌など歌っていた。彼女にとっては大収穫なのである。
「これは……にゃー」
ルビ宅のリビングのテーブルは濃い紫色をした奇妙な形をした球根たちが広げられていた。
「原種って奴か。サツマイモよりも色が濃いのね。あ、これはジャガイモというの」
「シノブー、悪いことは言わないよ。これ食べたら絶対お腹痛くなるよ」
「そうなのよ。これ、芽に毒があったり、日に当たったら毒素が出てきたりして、とっても厄介なんだけど、美味しいし、栄養もあるし、お腹いっぱいになるの」
ペシャンコの耳はそう簡単には納得しないようである。それは仕方ない。
「見ててね……」
あたらめてテーブルに小麦、塩、果実酵母、そして紫色した不格好な芋を並べる。
大きく深呼吸をして、
「さぁ、うまくいってくれよなー。小麦、水、練る……」
パンを出した時のように作り方を詠唱し始める。
「芋、下処理、蒸かす、包む、焼く……」
前と同じように食材たちは温かい光に包まれる。
「よーし、出来上がれ、ジャガイモパン!」
光が収まり現れたのは、前に作った半分ほどの大きさのパン。
「ふー」
とシノブは椅子に座り込む。
「大丈夫にゃ?」
「んー。パンは慣れたみたい」
手に取り、二つに割ると中に入っていた芋ごと割れいい匂いの湯気が立った。
一口かじると芋の甘みとパンの香ばしさが口の中広がる。絶妙の塩加減だ。
「ほら、食べてみてよ」
割った片割れをルビに渡した。
目の前で食べられてしまったのだからもう食べるしかない。見た目がパンに隠れているので言うほど苦手感はなかったが。
「はぐ」
口の中に広がる『美味しい』という表現しかできない味わい。
「何にゃこれ! めちゃくちゃ美味いんだけど!」
「な?」
しばらくは山から掘り出し、ルビの畑でも植えることにした。
村長夫人に報告と共に差し入れをしたら、また村長が騒ぎ始め夫人に一喝されていたのはまた別のお話。
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