絶望ー1
魔力を練り上げ、放つ。
消えた。
魔力を練り上げる。
今度はもっと強固に、頑丈に、丁寧に。
放つ。
消された。
意味がわからない。
全く理解できない。
何故、何故、何故何故何故何故。
「‥‥‥何なのですか貴方は。貴方は、一体何なのですか!?」
「これから死ぬのだから、知ったところで意味はないでしょう?」
「ッ‥‥‥!アアァァァッ!」
私が扱える魔法の中で最も威力の高い上級魔法を放つ。
「『
一瞬にして生み出された暴風の渦が大気を震わせ、明確な殺意を持って動き出す。
その先にいるのは長い銀髪を風に靡かせる女性。
これなら防ぐことは出来ないはずだ。
これまでの中級魔法や下級魔法とは訳が違う。
必要な魔力もその威力も攻撃範囲さえも下位の魔法とは比べ物にならないのだ。
「‥‥‥フフッ、フフフッ。これなら、さすがの貴方でも防ぐことはできないでしょう?せいぜい苦しんで死ぬといいですよ」
この魔法を発動させた時点で彼女に逃げ場はない。
今でこそゆっくりと移動しているが、私の意思一つでいつでもその速度を自由に操ることができる。
逃げ出そうとした瞬間に全身が暴風に包み込まれる。
ゆっくり、ゆっくりと女性に近づいていく暴風の渦。
普通であれば竜巻が目前まで迫った今の時点で恐怖を感じているはずだ。
そうでなければおかしい。
おかしいのだ。
なのに何故、彼女の表情は変わっていない。
女性は大きく息を吐いた。
まるで呆れたかのように。
「‥‥‥やっぱり、大したことはないわね」
女性がそう呟いた途端、竜巻が消えた。
そして女性がどこからともなく一本のナイフを取り出スト、自分の腕を斬りつけた。
相当深く斬ったのか、ナイフによって生まれた傷口から夥しい量の血が流れ出る。
何がしたいのか全くわからない。
気でも狂ったのだろうか。
私は女性の突然の行動に混乱してしまった。
だが次の瞬間、混乱なんてしていられる余裕は無くなった。
「『
彼女がそう呟くと地面に滴っていた血液が魔力を帯び、小さな死となってこちらに向かってきた。
それは一つ一つの大きさこそ大したことはないが、その数が異常だ。
視界が赤く染まっている。
「ーーッ!『
何とか攻撃がこちらに届く前に魔法を使用することができた。
私の前に作られた風の壁によってこちらに飛んでくる血液は勢いをなくし、液体となって地面に落ちていく。
何とか助かった。
だが、私の後ろにいた同志達は反応が遅れた。
ーーア゛ア゛アアァァァァァァッ!?
ーーガッ!?
同志達は次々とその体を貫かれていく。
傷は小さくとも、それがいくつもあるとなれば話は別だ。
一人、また一人と同志達が倒れていく。
私の真後ろに立っていた数人は何とか生きてはいるが、女性に対して激しい恐怖を抱いている。
かろうじて戦うことはできるだろうが精細を欠いた動きしかできないだろう。
「‥‥‥クソッ!」
打つ手がない。
魔法は一切通じず軽くあしらわれ、まだ可能性のある接近戦もこの攻撃がある限り近づくことすらできない。
同志達と役割分担をして攻撃しようにも彼らがこの状態ではミスをしてこちらが死ぬことになる可能性があり実行できない。
どうしろと言うのだ。
「防いでばかりでは何も変わらないわよ?」
「ッ!この‥‥‥ッ!」
こちらが防ぐので精一杯だとわかって煽ってきている。
ニヤニヤとした笑みでこちらを静かに見つめてきている彼女の姿にどうしようもないほどの怒りが湧き上がってくる。
今にも爆発しそうな怒りを抑え込みながら未だに続いている攻撃を防いでいると、ふと違和感に気がついた。
今、私が防いでいる攻撃は彼女の血液によって行われているものだ。
そのため攻撃をすれば当然のように体内の血液は減り、使い続ければ失血死を起こすだろう。
なのに何故、未だに攻撃が続いているのだ?
すでに人一人分の血液は攻撃に使われているはずだ。
それにも関わらず彼女は先ほどと変わらな様子で私の前に立っている。
「何が起こっているのですか‥‥‥」
「あら、ようやく気がついたかしら?この血を使った攻撃が続いていることがおかしいと」
「‥‥‥ええ。あなたはその体のどこにこれだけの量の血液を持っているのですか?」
「ふふっ。おかしなことを言うのね。私でもこれだけの量の血を自分の体の中に入れておくことなんてできないわ」
「なら一体どこに?」
「後ろを見ればわかるわよ」
彼女はそう言うとぴたりと攻撃を止めた。
後ろを確認しろと言うことだろう。
警戒はかず魔法は発動したまま後ろを振り返る。
同志達も私の動きに合わせるようにして後ろに視線を向ける。
「ーーッ!?」
私の目に映り込んできたのは全身の血を抜かれありえないほどに白くなった同志達の死体だった。
彼女は殺した同志達の血液を使っていたのだ。
「何と酷いことを。死者を冒涜するとは」
「ひどいわね。ただ、有効活用しただけよ」
「それを酷いと言うのです」
「そう。まあ、あなたの考えなんてどうでもいいのよ。今の私にとって大事なのはご主人様からのお願いを果たすこと。だから、そろそろ死んでちょうだい?」
彼女がそう言った瞬間、私の身に立ち上がることが難しいほどのプレッシャーがかかった。
思わず膝を負ってしまい、地面に這いつくばってしまう。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ‥‥‥!?」
呼吸がうまくできない。
苦しい。
冷や汗が止まらない。
何だこの恐怖は、今までに感じたことがない。
圧倒的なプレッシャーによって体をうまく動かすことができない。
それでも現状を確認しようと何とか頭を上げる。
そして、その視界に蒼い光が入り込んだ。
脳の中の知識が引っ張り出され、自然と一つの単語が口から漏れた。
「‥‥‥
「物知りね。でも、これで諦めもつくでしょう?」
そう言って彼女が、いや吸血鬼の王が微笑んだ瞬間私の人生は終わりを迎えた。
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