原作の魔法学院
入学編
朝
閉じたカーテンの隙間から朝日が差し込み、部屋の中の暗闇がほんの少し薄くなる時間。
普段からの習慣によって俺は目を覚ます。
「ん‥‥‥‥」
「‥‥‥‥んぅ」
上体を起こすと両隣からそんな声が漏れ、耳に入ってくる。
そちらに目を向ければ一糸纏わぬ姿の2人の少女と1人の美女の姿が目に入る。
10人寝ても余裕のある大きさのベッドから床に足を下ろし、そんな3人に声をかける。
「リリアとルルア、それとセリーナ。起きろ。朝だ」
「んぅ‥‥‥‥」
俺の声に3人は目を覚ますどころか近くにあった布団の中に潜り、起きる気配を見せない。
それに小さく息を吐きつつ一旦無視して鍛錬のための動きやすい服に着替える。
3人が目を覚ますことに期待して気持ちゆっくりと着替えたが、その間3人の様子に変化はなかった。
また小さく息を吐きつつ窓辺に向かいカーテンを勢いよく開き、朝日で部屋の中を明るくする。
「さあ、起きろ」
再度声をかけつつ、最近新たな習慣として定着しつつある3人の目を覚ます作業に取り掛かった。
=====
第二皇子の婚約発表のパーティーから2年の月日が経過した。
俺は今年、15歳の誕生日を迎える。
つまり、原作の開始である帝都の高等魔法学院入学の年になったということだ。
それに伴い俺は現在帝都で日々を過ごしている。
高等魔法学院に通う者は基本的に帝都に持つ別邸、もしくは学院の敷地内にある学生寮から学院に通うことになる。
だが、俺は学生寮という制限の多い場所で生活をするのは認められず、来年になれば煩わしい視線を向けてくるクラインが来ることになる別邸で暮らすのも気に入らなかった。
そのため、俺は帝都に新しく自分で屋敷を買い、一ヶ月ほど前からそこでリリア達と生活をしている。
新しい屋敷に移ってからはほとんど毎日リリアとルルア、そして時々セリーナと一緒に寝ているのだが、コイツらは寝起きが悪く最近では俺が3人を起こすのが習慣となりつつあった。
「何故俺がお前達を起こすのが当たり前のようになっている‥‥‥」
3人を起こし、鍛錬を行うために庭を目指して廊下を歩きながらそう溢す。
「毎朝ごめんなさい旦那様。でも‥‥‥‥」
「レイス様が毎晩激しすぎるのが悪い」
俺の言葉に片や苦笑い、片や若干不満げな顔でリリアとルルアがそう答える。
「ご主人様が凄すぎるせいね。だからいつもこっちが先にバテちゃうのよ」
俺のすぐ後ろを歩くセリーナも俺の背中にくっつきながら2人に合わせるようにそう言う。
3人の言葉に何も言えなくなり、ほんの少しだけ足を早く進めた。
=====
「フッ!」
鋭く息を吐く音とともに下から迫ってくる斬り上げを上半身を逸らすことで回避する。
剣を振り切った体勢になった一瞬の隙を狙い素早く剣を打ち込むが、驚異的な反射速度でそれを防がれる。
お互い弾かれるようにして後ろに飛んで距離を取り、剣を構え直す。
目の前の相手から視線を逸らさず、相手の一挙手一投足に注意を向ける。
睨み合いが続くなか、相手の足がほんの少し地面をすべる。
その瞬間、目の前から意識を外し後ろに剣を振り抜く。
乾いた音が庭に響き、硬い感触と共に腕に掛かる重さ。
それとまともにぶつかるのはほんの一瞬。
軽く剣を引き、相手の剣の刃を滑らせ体勢を崩させる。
相手はすぐに体勢を立て直し剣を構えるが、ピタリとその動きを止める。
俺がその首筋に剣の刃を添えていたために。
「剣の扱い、威力、速度そして戦闘の際の動き。どれも素晴らしいものだが、とっさの対応力だけは及第点ギリギリだ。死角からの攻撃を流された後の行動が遅い。これが命の奪い合いであればすでに死んでいるぞ、ルルア」
「‥‥‥‥はい」
「これからはそこの能力を上げていけ」
俺は剣を鞘に収めながら今の模擬戦の相手、ルルアにそう告げる。
ルルアは俺の言葉をしっかりと受け止め、手に持った剣を鞘に収めた。
立ったまま軽く息を整えていると、庭の芝生を踏みこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「旦那様、ルルア。そろそろ朝食にしましょう」
「あ、姉さん」
「もうそんな時間か」
朝の鍛錬を行なっていた俺達を呼びに来たリリアからタオルを受け取り、体の汗を拭く。
そんな俺達を見ながらリリアは口を開く。
「今日は魔法学院の実力試験ですから遅れるわけにはいかないでしょう?」
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