プロローグ-2 はじまり (改)
レイス・ヒーヴィル。
ルヴィア帝国にある高等魔法学院を舞台として主人公の成長を描く『ロード・オブ・ジャスティス』、通称『ロス』と呼ばれるゲームに登場する悪役の名前である。
レイスはルヴィア帝国のヒーヴィル公爵家の長男として生まれ、剣、魔法、知能などの才能にも恵まれていた。だが、悪役だからといって努力を怠ったり容姿が醜いなどと言うことはなかった。
むしろその逆でどの面でも努力を惜しまず、容姿に関してもエルフという美に優れた種族が認めるほどに整っていた。
ではなぜそんな人物が悪役となるのか。
それは、『ロス』の主人公カイン・ローグリンとレイスの性格が理由であった。
カインの家は男爵家で貴族の中では身分が低かったため、身分が上の貴族から無理難題を押し付けられることや嫌がらせを受けることが多くあった。
カインはそれに必死に対応し、日に日にやつれていく当主である父の姿を見続けてきた。
そして、自然と彼の中に父を困らせる貴族のような"悪"をなくしたいという思いが芽生えた
そのため、カインは正義感が強くどんなに小さなことでも曲がったことが大嫌いで、はっきり言って貴族には全く向かない性格であった。
それに対してレイスは公爵家の長男であり次期公爵家当主でもあったため、幼い頃から家の身分や権力目的に近寄ってくる者や騙そうとしてくる者、行動の邪魔をしてくる者などを警戒しなければならなかった。
そのため、それが家族であろうと人を信じることができなくなり、人からの愛を知らない幼少期を過ごし、やがて全てを1人で行うようになった。
それでも1人でできることには限界がある。
だが、レイスは限界が訪れても人を信じることができず、やがて1人で目的を達成するにはたとえ悪事であろうと行うという考えをするようになった。
このように二人は考え方が真逆であり、『ロス』がカインの主観で進むゲームであったためカインと考え方の違うレイスが悪役となってしまったのだ。
こういったゲームでの悪役は基本的に主人公の踏み台となったり、ラスボスに操られるということが多い。
だが、レイスは違った。
レイスは圧倒的な強さで何度も主人公を追い詰め、現実を突きつけ、勝利を重ねた。
ラスボスにも匹敵する力を持ったレイスはゲームの終盤になっても勝利するのが難しく、ストーリーを進める上で大きな壁となり多くのプレイヤーの頭を悩ませた。
それでも、一貫して自分の考え方を貫き、それに相応しい力を持ったレイスは主人公を上回るほどの人気を獲得した。
だが、それでもレイスは最終的に主人公によって殺されてしまう。
それがゲームの
レイスが生き残るルートを作ってほしいという要望が大量に制作会社に寄せられたが、レイスの境遇と主人公と敵対する理由を考えるとレイスを生き残らせることは難しいとそのルートが作られることはなかった。
それでもしばらくの間は同じ内容の要望が寄せられ続けたが、それもだんだんと減り、ついには一つも来なくなった。
人々の記憶から消えてしまったのだ。
それはレイスに憧れ、何度もゲームを周回した俺も例外ではなかった。
日々の忙しさからゲームをやる時間もだんだんと減っていき、ついにはゲーム機に触れることも無くなってしまった。
でも、眠りに落ちる寸前に時々レイスのことを思い出す。
レイスはいつも一人だった。
仲間は誰一人としておらず、自らを愛してくれる者もおらず、全てを1人で成し遂げていた。
その結果が、盲目的に"正義"を掲げる主人公によってもたらされる死。
だが、もし仲間が一人でもいたらレイスはどうなっていただろうか。
レイスを愛する者がいたとしたらどうなっていただろう。
レイスが
レイスは最凶の悪役となっていたのではないだろうか。
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暗い。
光が全くない。
どこを向いても飲み込まれそうなほどの黒が広がっているだけだ。
それに狭い。
今は、体を縮めているのだろうか?体が伸びていないことだけはわかる。
狭さがどうしようもないほど不快で手足を出鱈目に動かす。
すると体が少し動いたような感覚があった。頭の方だ。
その感覚に従い、頭の方に動くように手足を動かした。
しばらくそうして動いていると頭が何かから抜けたような感覚があった。
同時に何かが頭に触れる感覚も。
そして体も抜ける感覚を感じると同時に背中に何かが触れた。
狭いところから抜け出すことができたが、今度は別の不快感が湧き上がってきた。
どうにかしてこの思いを発散したい。
手足を動かす程度じゃ発散できない。
そうして俺は産声をあげた。
それから数ヶ月の期間が経過して理解した。
俺はレイス・ヒーヴィルに転生したのだと。
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