悪役に転生したらハーレム作って主人公の心を折りたい

猫魔怠

プロローグ-始まりとはじまり

プロローグ-1 始まり (改)

 「随分と息巻いていた割には口ほどにもないな」


 俺の目の前で無様に地面を這いつくばるに向けて俺はそう言い放った。

 足と腕は骨が折れてあらぬ方向に曲がっているため自力で立ち上がることができず、顎が割れ、口の端から血の混じった唾液を垂らしている主人公がこちらを睨みつけてくる。


 「うあぁぁ!があぁぁぁ!」

 「黙れ」


 喉をつぶすべきだったか。

 顎の骨が割れているため言葉にならない声で叫んでくるが、それが鬱陶しく頭を踏みつけて強制的に黙らせる。


 ここまでやっても審判を務めていた教師は何も言わずただただ立ち尽くしている。

 ‥‥‥‥教師としていいのだろうか。

 だがやはり全員が黙っているなんてことはなく1人の少女が声を上げた。


 「やめてっ!もうカインは戦えないじゃない!これ以上はルールに反するわ!」


 そちらに目を向ければ明るめの茶髪を前世で言うところのセミロングにしている美少女が顔を悲痛そうに歪めてこちらを見ていた。

 いや、その瞳の奥に微かに闘志が垣間見える。

 主人公とその幼馴染。揃いも揃って俺の大嫌いな目をしている。


 「お前はほんの数分前のことすらまともに覚えてられないのか?」

 「‥‥‥‥なんですって?」

 「二度は言わん。しっかり聞き取れ腐り耳」

 「なっ!?あんたねぇ!」

 「なんだ?事実を言ったまでだろう。この決闘のルールはどちらかが戦意を失うまで、もしくは死ぬまで続けるということだったが?」

 「審判が戦闘ができないと判断した時も終わるというルールがあったわ!」

 「その審判が仕事をしないのだから仕方あるまい」


 そう言って教師の方を顎で示す。

 少女が教師に視線を向けた。

 教師は相変わらずただ立ち尽くしている。


 「先生!決闘の中止を!先生!」

 「ッ!?」


 少女の呼びかけでやっと気がついたのか急いで状況確認を始める教師。

 俺が頭を踏みつけている主人公の状態に気がつき焦ったように決闘の終了を宣言した。


 「か、カイン・ローグリンはこれ以上の戦闘を行えないと判断!しょ、勝者レイス・ヒーヴィル。誰か担架を持ってきてください!力のある生徒はこちらを手伝ってください!」


 宣言もそこそこに教師は主人公ーーカイン・ローグリンの容態を確認するために指示を出しつつこちらに駆け寄ってきた。

 ここまでか‥‥‥‥。

 俺は足を退かそうとしてカインがまだこちらを睨んでいるのに気がついた。

 気に食わない‥‥‥。

 足を地面につける前にカインの顔に一発蹴りを入れておく。

 ゴッと鈍い音がしてカインの顔が横を向く。


 「レイス・ヒーヴィル!」

 「カイン!」


 俺を責める教師の声とカインを案じる少女の声が重なった。

 その二つの声を気にすることなく数歩後ろに下がる。


 程なくして生徒が担架を持ってきて、カインはそれに乗せられて救護室に運ばれて行った。

 教師も付き添いと事情説明のためについて行ったが、去り際に


 「レイス・ヒーヴィル。後で職員室に来なさい。今回のことは幾ら何でも度が過ぎています。相応の処罰があると思いなさい」


 と言っていた。


 一体何を処罰するのやら。

 俺はルールに従っていたし、放心して決闘を止めなかったのは教師の方だ。

 俺に非はない。


 「これではこの後の予定も潰れただろう。帰るか」


 カインが運ばれて行ったのとは逆の方向に歩き出す。

 観戦していた生徒の方に近づいていくと自然と俺の通り道ができる。

 そこを堂々と歩きつつ生徒たちの中に声をかける。


 「リリア、ルルア帰るぞ」

 

 生徒たちの間をかき分けるようにして制服を身にまとった2人の美少女が俺の元に来る。

 後ろからは2人のメイドが静かについて来る。

 そしてそのままリリアは俺の右腕に抱きつき、ルルアは左側で俺に寄り添うような形に。

 メイドたちは俺の後ろに付き従うようにしてついてくる。


 そのまま正門に向かおうとしたところでカインについて行かなかったのか少女が叫ぶようにして俺たち、正確にはメイドの1人に声をかけた。


 「ねえ!あなたはそれでいいの!?そんな奴の奴隷のままでいいの!?嫌じゃないの!?」


 ああ‥‥‥‥イライラする。

 さも自分が正しいかのように、自分の言っていることが普通ですと言わんばかりのあの態度が気に入らない。

 俺が一言言おうと後ろを振り返る前にメイドが口を開いた。


 「あなたの価値観で語らないでください。不愉快だ」

 「え‥‥‥‥」

 「ク、クハハッ‥‥‥いくぞ」


 愕然とした表情を浮かべる少女。

 実に愉快だ。少し気が晴れた。


 「さすがだセリーナ」

 「当然のことです」


 正門に着くと待たせていた馬車に乗り込み、そのまま王都にある家に向かう。

 窓の景色を眺めつつ俺は考える。俺自身について。



 俺の名はレイス・ヒーヴィル。

 権力、財力、地位、才能、力その全てを持った人間。

 主人公に勝ち得る可能性を持った人物。

 運命シナリオに負けた

 そしてーー



 

 運命シナリオを、絶対的な力で蹂躙する人間。


 

 


 

 

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