ケミストリーと言う名の劇薬はいかがですか?

まちゅ~@英雄属性

炎と氷とグリセリン その1

「アーク!!アークス・ウォード!!右から来るぞ!!」パーティーリーダーからの声に剣のグリップをもう一度強く握りしめる。


 前からは、この辺の定番モンスター、緑色の肌の小鬼ゴブリン、小さな角と濁った赤い目、口からは唾を滴しながら、俺の前に躍りかかる。


 右手にはこん棒か、

「そんな物で俺が倒せるか!!この安物の皮鎧すら通さないぜ!!」


 俺は、ゴブリンのこん棒をわざと体に受け、攻撃の隙を作る。


 軽い炸裂音、一瞬息が止まる様な衝撃があるが、想定内。

 右手の片手半(バスタード)ソードを両手で握り締め頭上に掲げ振り下ろす!!


 歯を食い縛り、大地を踏みしめ、


「スマッシュ!!」


 上段からフルスイングされた剣は、ゴブリンの肩口から勢い良く抜け、地面に刺さった。


 その後に、大量の緑色の血をぶちまける。

 俺は、左手をグリップから離し指差して叫ぶ。


「ウィル!!そっちの二匹停めろ!!」


 隣の右手に剣と左手に楯を持った金髪の戦士は「フン」とだけ言って二匹のゴブリンの前に立つ。


 一匹は俺に倒された奴と同じこん棒を持って、もう一匹は……あれは不味いな、錆びてはいるがアックス持ちか。こん棒の様な木の塊とは比べ物にならない位の破壊力があるはずだ。


「ウィル!!一匹アックス持ってるぞ!!右手な、おはし持つ方!!」


 俺の叫びが聞こえたのだろうか?、剣と楯の戦士ウィルことウィリアム・ハーキュリーはしかめた顔をして言った。


「それ位解る。何が箸を持つ方だ子供か?耳が腐るから黙れ攻撃バカ」両足を広げ地面を踏みしめる。


 そして右手の剣と左手の楯を持ち変えて大きく両手を広げる様に剣と楯を構える。


 二匹のゴブリンが同時にウィルに襲いかかって来た。


「二匹だぞ、無理するな!!」パーティーリーダーである魔法使いのギルマークからの声。


 普通の奴ならともかく、こいつなら平気だろ?


 俺は地面に刺さった剣を引き抜き次の行動に出る。


 ほぼ同時のゴブリンの攻撃、左のゴブリンからのこん棒をウィルは剣でいなして、いなした剣でこん棒を巻くように絡めとり、はじき飛ばす。右からのアックスゴブリンの攻撃は楯で反らした。


 両手の獲物を持ち変えたのは、攻撃力の高いアックスの一撃を防御力の高い楯で防ぐ為だ。


 悔しいけど、ここまで器用に防御する戦士を俺は見た事が無いよ。


 ウィルは更に、左手のゴブリンを返す刃で胴へ切り伏せた。


 その隙を狙ってかアックスゴブリンが渾身の一撃でウィルを狙う。


「お前の相手は……俺だ!!」


 隙なんて物があるか、お前の命はここまでだ!!


 地面を抉る様にスパイスつきのブーツで大地を蹴る。


 4~5メートルを一気に詰めてゴブリンに切りかかった。


「チャージ!!」

 そして前転するようにして、回転を利用してフルスイング。


 ゴブリンは真っ二つに吹き飛びながら切り裂かれた。


「どうよ!!ぐはっ!!」俺は着地に失敗して背中から地面に落ちて、盛大に土煙を上げて盛大に俺をむせさせた。格好悪いな。


 何はともあれ、ゴブリン三匹の討伐完了。


 クエスト成功だ。




「全く、何から文句言ったら良いのか解らねぇ」パーティーリーダーでもあるエルフの魔法使いギルマークがナイフで三匹のゴブリンの死体からその左耳を削いでいく。ゴブリンの討伐の印は左耳だ。


 俺は、ギルマークが印を取る間、仲間の僧侶から、細やかな治癒(ライトヒール)を受けながら、それを見ていた。


 だけどさ、


「ヒールするなら、ワンドを俺にゴリゴリ擦り付けんじゃねぇよ!!」

 地味に痛いんだよ。


「じゃあ、バカ丸出しで敵からの攻撃以上のダメージを勝手やってうけるの、やめて下さーい!!」

 安っぽい皮ローブを来た初心者丸出しの女僧侶リリことリリファーズがキレた。


 美しい銀髪に整った顔立ち、胸は無いけど黙ってればどこぞのお貴族令嬢に見える位なのに残念だねぇ。


「うっせ!!地味に痛いから止めろっての」

 俺は歯を剥き出して威嚇した。


「何よ!!やるんですか!?」

 同じ様に威嚇するリリとしばらくにらめっこをしていると、


「もう少し、余裕を持って動けバカ」ウィルが腰のタオルを取って水袋の水を少しかけて顔を拭ていた。


「お陰で俺は緑の血まみれだ」俺が倒したアックスゴブリンの返り血が思いっきりぶっかかったらしい。笑える。


「あらお似合い」リリの一言に、


 堪えきれず俺が大笑いすると、


「剣を取れ、攻撃バカ、腕の二~三本叩き切ってやる。その後、そこのバカ僧侶の処女◯をぶち抜いてやるからな、覚えとけ!!」

 ニヤニヤ笑う俺にイラついたのかウィルが剣と楯を取って立ち上がる。


「何だよ俺かよ、良いぜ面白いじゃねぇか」


 俺はニヤニヤ笑いながら、背中の剣を抜く。

「腕は三本もありませーん、じゃあ俺はお前の自慢の三本目の足でも切り落としてやるよ」

「やれやれー!!どっちかが死ぬまでやれー!!この聖女様の様なリリファーズ様の前で三本目の足だとか、処◯膜とか下ネタばっかり言ってるバカは死んじゃえー!!二人とも死んじゃえー!!」


 リリが、死ね死ねーとワンドを天に突き上げる。


 あの耳年増、処女の癖に下ネタに反応しやがって、冒険者ギルドのファンクラブの奴らが見たら泣くぞ。


 俺は右手で剣を回し、左手に持ち変えて剣を回し肩でリズムを取る。スパイス付ブーツで地面の感触を確かめながらウィルとの間合いを量った。


 ウィルは、剣と楯を何度か当てて打ち鳴らす。奴の敵との間合いの取り方だ。俺とは違ってあまり動かずに、どっしりと迎え撃つ。



 全く、相手にするにはこういう奴が一番やりづらい。


 それは、相手も同じ様だけど……。


 これで何度目の勝負になるのかな?


 まぁ良い、じゃあ行くか!!


『スリップ』


 あれ?足に力が入らない、しまった足を滑らせた?魔法か?俺の視界が急に、頭の上の青空に変わる。


「畜生、バカかよ!?」


 見事に転んだ俺は無様に両足を天に向けた。


「ワハハざまあみろアーク、馬鹿が、死ねっ!!……うわっ!!」


 剣と楯を持って足を滑らせた馬鹿がもう一人いたらしい。


「魔物相手にも使わなかった魔法を仲間のケンカの仲裁に使わせないでくれよ」


 やれやれと杖を構えて嘆く魔法使い。


 無様に転ぶ馬鹿な戦士二人。


 それを見てゲラゲラ笑う残念美少女僧侶。


 なかなかカオスな状況だな。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る