第22話
六十四
ミカエルが狡猾を捨てたいきさつは、神武天皇が消えてゆく浄化を止められなかったからであった。想いもよらぬ消滅で、心に空いた空白が、自分本意の展開しか想像できなかったからで、心が悔やんだ挙げ句に、想いもよらぬ脹らみをしたのである。最善を口にする己の傲慢が、友の苦しみを理解した振りであったことを教えられたのだ。
本音を隠す心の作用は、数学的な確率を裏切るだけでなく、建前を
相手が亡くなっていたとしても、身内が復讐を心に秘めるとしたならば、終わりなき争いが生まれるだけで、それをも戒めている。争いが生み出す感情は特殊で、競技の枠では
物語でよかったね? という気休めならまだしも、それが現実ならば、当事者の内心は計り知れないはずだ。そんな経験は
薄情がもたらす妖しに恐怖する習性は同時に、用心も薄れさせてしまったようだ。そうなればなおのこと、自然災害の威力を計り知れなくなって当然だろう? 言い分だけが、勝手に独り歩きしても不思議ではない。だからだろう、ミカエルの戒めが、現代の時代背景になっているようにも感じられた。輪廻で繋がるのだから、当然といえば当然なのだ。内心がその些細な動向に気付くのは、戒めを表現する言葉だけが重石になるからで、結界内の住人は偉人といわれるだけの甲斐性が敏感だから、
ミカエルが想いだけを電磁波に乗せて、送ってきたのだろうか? 神々のザワツキがもとで、結界内の住人たちが、それを感じ取っていた。
ミカエルが死神を受け入れた理由として、人間の自分勝手を知っているから、感情移入すること無く地獄へ連れて行けるからだった。エンマ大王が得意化になり見せびらかした、刻から授かったであろう雷の杖は、嘘と方便に敏感に反応する
仕組みは、真実味を含ますために、脳が働くことで生まれる熱を感知するのである。神経で伝わる指示系統が、熱を必要とする人間の組織に敏感な装置ということだ。もっと踏み込めば、高酸素で巨大化した恐竜を退化に導いたのが氷河期だから、凍結から身を守るために指令を閉ざす防衛本能が、正にそれだという、うさぎの想いに繋がっていて、地球上の生命体が繋がる理由としているからだった。ただの一説も、結び付くことで繋がることは、あって当たり前となるからである。それを信じるか否かは、掬われるという発想の元に繋がっていて、自らの感性に従うべきものなのだ。様々なことに連結させることで、目先を変えるのは、その為なのだ。
六十五
「赤瞳の誤解だけは解いて措きましょうね」
卑弥呼は云い、神妙な面持ちで語り始めた。
「神々の悪意が造り出したものが、悪魔なのです。人間が非実体になれば、人間の悪意が造り出すものが、怪物となります。怪物は人間の被害妄想をエサに成長を続け、宇宙を飲み込むまで巨大化する危惧があり、その未来を守るために、心を復活させる運びになったのです」
「怪物にしないために、心の重要性を説いた? って云うんですね。
「そうなると、人間が非実体になる未来が直ぐそこまでせまっていることを、感性かあさんが予知した? ってことなんでしょうね」
「人間の悪意が、神々よりも強大な理由は、可能性に便乗しているからってことなの?」
「そう、みたいだね。でもそれって、夢に託したからかも知れないわね? 夢を喰らうバクでも喰らい尽くせないほどの強大さ? なのかしら」
「宇宙を飲み込むほど強大だから、喰らい尽くせない? ってことなんじゃないかしら」
「ねぇ、赤瞳さん。それって人間が恐竜の子孫だから、怪物になるの? かなぁ」
「被害妄想がエサって云われると、そうなりますね、祷さん」
「神々の悪意が恐竜になったんだから、人間の悪意が怪物になるのかぁ」
「人間は獣ですから、怪獣になるんでしょうね?」
「ならば、怪獣の次は何なのよ?」
「恐竜に手を焼いた経験があるから、繰り返さないために、色々と手を打っているんでしょうね。でなければ、単細胞生命を終わらせるために、複細胞生命体(地球外生命体)を送り込んで、生命の新時代に突入するかも知れませんね?」
「地球外生命体が送り込まれるの? それって、高水準な科学技術で、地球を侵略させるしかない? ってことだよね」
「そうなると、層に護られた地球は、終るしかないでしょうね?」
「何で? ですか、卑弥呼様」
「単細胞を守る意味が失くなるからよ。因みに層がなくなれば、重力が消滅するのは道理よね?」
「錯覚の多い人間には、ピンとこない? んじゃないかしら」
「どういうことなの、理性さん?」
「無重力だから、怪獣なのよ。質量を護るための層がなくなるわけなんだからね」
「そういうことかって云っても、やっぱり想像できないですよ」
「人間は、護られている実感がありませんからね。でもそれが、傲慢を蔓延させた理由なんですけれども?」
「だから、赤瞳さんは、宇宙から視た人間は米粒よりもミクロ? って表現した訳だもんね」
「高濃度酸素でなくても、巨大化できるのかしら?」
「複細胞ですから、連結方法はいくらでもあります。触手だけが連結していると勘違いしている人間たちには、想像の域を出ないはずです。細胞単位で連結できるから、地球外生命体を恐れるんでしょうからね」
「概念や観念が邪魔になるだけだもんね。想像するにも、規格という枠組みが、意外性の邪魔をするはずだからね」
「そうなのかぁ? だから見えないものを見ようとしないのかなぁ」
「錯覚を克服しないのは、層に護られているからよ。だから赤瞳は、それを指摘するのよ」
「概念と観念ばかりが気になるから、記憶を紐解く術が見出だせないのよ。幼い生命体なのに、完成形と思い込んで終っているから、傲慢がその隙をついて、蔓延したんでしょうね」
「本当の高水準文明を誇る生命体は、自尊心に左右されないわ。それは、理念と理論に矛盾が生まれないだけの理屈があるからよ。克服するために費やした時間を無駄にしていないからよ」
「失敗を繰り返さない志が、苦労を理解しているからです。記憶を
「移り変わる時代背景に遇わせるだけの人間は、未来を先取りすることができないから、不安にうちひしがれるしか、できないんです。造り出す器用さと、想いを重ね併せることは違いますからね」
「そんな匠でさえも継承できなくした時代背景って、なんなのかなぁ?」
「それが、科学なんでしょう。情が無くなることを、無情って云いますからね」
「薄れた人間を、薄情って云うもんね。見えないものに感心を持たないのが人間だから、赤瞳さんは心を失くした現代人に当て嵌めたんだね」
「お金に魅せられた人間は所詮、お金が回り込む仕組みに取り入るしかないです。近代は科学に取り込まれて終い、欲がものの価値観の大部分を占領されたのが、現在になっています。云わずもがな勝利することだけが、立身出世の倣わしであり、上を目指す意味が塗り替えられています」
「勝利する争いは戦争でしかなく、命を弄ぶのが戦争という認識を消された教育が、悪意のない致命傷を負わされたのが、心なんです」
「悪意を管理できない人間が増えた理由? ってだけのことじゃない。猫も杓子も大学にいく近代は、誰かの意図に関係なく、答えにたどり着くことしか目指さないもんね」
「人生に答えを必要とするなら、生き抜かないとたどり着けないんです。今必要な答えならば、その先がなくなりますからね」
「終る恐怖で支配しようとする学問があるならば、それが悪魔の支配であることを隠しているの? だから、軍国主義社会の犠牲者が、弱いだけの民ってことになるんだね」
「その呪縛から逃れるための結界が、気休めの地であって、世界一安全な場所になるのよ。その場所を管理する神々は非実体だから、誰もが簡単に出入りできないのよ」
「たどり着いた証の勾玉を配布されないと、出入りできなくしました。卑弥呼さんは謎多き邪馬台国を取り仕切る存在でありながら、神様の頭領でもあり、天真爛漫を規範にしているもんね」
「よこしまな想いを邪念というのは、邪悪という悪意をすべての人間が持っているからよ。もっと云えば、単細胞生命体の宿命は、善悪の意識を管理することが必要なのよ」
祷は大きく頷いて、満面の笑みを携えた。消滅したはずの、神武天皇も復活を遂げて、怨念の浄化に取り組むことになる。妬みから進化した恨みを根絶して、この世の妙に靡かせるつもりであった。
人間が終るのが先か? 修復して団欒を迎えるのかは、日の本の國の未来を決めるはずだ。
果報は寝て待てと云った時代背景が、どう転ぶかを見届けることを、
完結
祷 うさぎ赤瞳 @akameusagh
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