第13話 第三部
三十七
空は
祷の口をついた言葉は
「人の悪意が原因の、嵐の予感かしら?」であった。
『それは、祷さんにとっての悪意であって、誰もがそうと想ってはダメですよ。
どういう経緯で届いたのか解らないままに、うさぎの思念が、祷の脳に響いていた。
「うさぎさんは、虫さん(身体に宿りし神々様)と、共鳴(赤い糸)で繋がっている? のかしら」
祷は、自分だけ
其を感じ取ったうさぎは
『静かなる心は、雫の落下音ですら響くのです』
「簡単に云ってくれるけど、雑踏に慣れた人間の耳は、簡単に
『
「それはそうなのかも知れないけれど、理屈通りにいかないのが現実でしょう。想い通りに動かせるならば、間違いや失敗はなくなる? もの」
『そういうことを、言い訳と云うのです。何故? という疑問を持たないと、なにも変わりませんからね』
「一般人の
『正解だけが
「なんで、そう次から次へと言い返すのよ?」
『当たり前、と想って終ったら、成長に繋がりません。失敗を噛み砕けないと糧となりませんし、成長に繋がりません。動物が咀嚼をする理由は、本能に刻まれて要ますから』
「?、それは太古の昔の話しでしょっ。進化した現代人とは違う時代背景なんて理解できないわ」
『そうやって絶滅危惧種を生み出した事実は、人の良心を蹂躙していたことにも気付いていませんでした』
「だとしても、
『その責任転嫁が、地獄と現世の往復しか生まないのです』
「どういうことよ」
『神様が心に宿る理由は、純真を護りたいからです。浄化でやり直す機会を与えられるのは、両極を飼い慣らして欲しいからなんですよ』
「だから両親を映し出して教えたっていうの?」
『血に残された記憶は、どんなに優れた科学者でも解明できませんが、視れるとすれば、それが神ノ眼なんです。祷さんは前に、
「そんなこともあったわね」
『今では欲しくはないのですか?』
「貰えるなら欲しいけれど、無理みたいだから諦めたわ」
『何故? 無理と想ったのです』
「選ばれるひと握りにはなれそうもないみたいだからよ」
『? 挫折した、ってことですね』
「
うさぎはそれで、言葉を失くして終った。
三十八
無防備な心を
うさぎはそんな危惧から、祷の心の崩壊を気にしていた。順風満帆は、膨らませた希望を風に託すからである。風は気儘に観えるが、運ぶべき
うさぎのそんな感情は、
「珍しいわね、寝返りをうつなんて?」
祷は云って、賜に手を伸ばした。
『赤瞳の話しは聴きづらい? ですか』
「?」
その声は、うさぎの
「聴き覚えがあるのは、気のせいかしら?」
無意識に発した言葉はとぐろを巻き、黄色の思念を具現化してゆく。顕れたのは、卑弥呼であった。一度だけあったことがあるのは、逃亡劇の最中に現れた、仙人を連れなっていたからである。
『
「間違いないとは想いますが、卑弥呼さんですよね?」
『赤瞳の言葉はくどいですから、想い込みが強すぎて支離滅裂に感じますよね。でもそれは、
「道筋じゃないんですか?」
『造られた道と、彷徨い徘徊する途は違います。地球上には道が存在しますが、
「人が基準でないことは教わりました。それでも、物事には基準になるものが必要なんですよ」
『赤瞳は其を、「言い訳」と云っていませんでしたか?』
「云ってましたが、・・・」
『歯切れが悪いですね』
「
『誰もが其を持っています。
「はい。ですが、飼い慣らし方なんて、人に必要なんですかね」
『どちらかに転ぶつもりなら、飼い慣らす必要はありません。赤瞳はどちらにも転ばない信念を持っているから、そう云うのですよ』
「そうなると、三極になります」
『新約聖書では、アダムとイヴから始まります。そこに愛が
「そうやって今は、七十億を越える人が誕生しています」
『地球の公転が三六五、二五だから、勘違いしてしまいますが、円は三百六十度よ』
「?、人の数ですよね」
『立体に繋げれば、十九、四周しかないわよ』
「バネじゃないんですよ」
『人が跳ねて、宇宙の中心に届く? とでも想っているのですか?』
「えっ?」
『人は願い事を、宇宙の中心に向けるのですからね』
「? だとしても、雲もあれば、
『其を教えるために、
「重力が働いていますからね」
『当たり前にしてはダメなことには、気付けませんか? 宇宙は、人が考えているよりも
「行ったことを忘れていました」
『赤瞳の想い入れは、恩師を
「祷にも掬えなかったことに気付けと?」
『
「
『
「
『刻まれる時間に制限があるわ。手遅れになれば、始祖の
卑弥呼は云うと消えようとしていた。
「待って!?
「堕天使の疾風が人に残したものは、信じる心。それは
暇をもて余したのか、賜が大きくあくびを噛ましていた。
三十九
『どうしたんです? 元気がないようですが』
うさぎはしらばっくれて、訪ねていた。
「次から次へと・・・試練? って誰が
『
「
『祷さんが出す電気信号波が呼び寄せますからね』
「そうなのか? って云うか、そんなのも視えるの」
「視えるから、選択肢を間違わないように導こうと頑張っています」
「?、卑弥呼さんと話していたことも、訊いていたわよね」
『
「両親を掬えることを知っていたんだね」
『記憶が完全に浄化されるまでの期限は、前の経緯で解りますよね』
「だから捕捉したの?」
『三途の川は公表されているので、誰もが知っていることです。其処にある選択肢は、黄泉の國と地獄を選択させます』
「死んでも選択肢があるの?」
『内なる意思は幾らでも繕えますからね』
「両親が間違った選択をしちゃったのね」
『
「天国って、
『神々の間では、あみだ籤と云われていますよ』
「それじゃあ、あの世もこの世も籤引き? ってことじゃない」
『選択の自由は個人の責任ですから、誰も悪くなくなりますからね』
「それを先に教えといてよ!」
『教えても、記憶が取り上げられますから、本人の感性が選択します。感性に残すのならば、心の純真を保全するしかありません』
「それが、悪意を飼い慣らす理由なんだね」
『繕えるものは、裏切りが生じますからね』
「そういうことだったのか」
『輪廻とは、希望を持たせるためだけの代物です。ひと握りの賢人たちにも、悪意があります。宇宙の中心は、たったひとつしかないですから』
「簡単には行けない場所ってことなんだね」
『中心のなかでスモールバンやビッグバンが起こってしまえば、創世主が滅びて終いますからね。本人はそれでも良いって云ってますけれども』
「なんで廻りが危惧してるの?」
『違う次元とごちゃ混ぜになっちゃうからではないですかね』
「簡単に云うのは、くせじゃなかったんだね」
『妄想の原点は、隔たりを失くすことですからね』
「むぅ?、大分慣れたつもりでも、癪にさわる言い方よね」
『我慢が生み出すご褒美は、格別ですからね』
「もしかして、わざと? やってない」
うさぎの満笑は、祷を呆れさせていた。笑みに隠したものは、言葉に悪意があろうがなかろうが、いちいち苛立っているから
進化と退化を繰り返しても、人に大きな違いが生まれていない。その根本こそが、人の特質だ。うさぎが云う、人が人の事を知るという意味は、根本を知ることだと教えたかったのだった。
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