第10話
二十八
大塚が、松本を連れて、
大塚が、「警察は、
急遽、用意された部屋は武道場で、取り調べ室ではなかったが、
松本は、昨夜帰宅の際に、自宅室内まで家宅捜索されていて、雨宮米との因縁を疑われ、取調べ室に連れて行かれた。殺されたのが米なので、殺害方法が解らないまでも、容疑が掛けられて要るようだ。そのための逮捕状は用意されていて、この後は留置場に移ることを説明して、刑事が婦警と代わっていた。
「大塚
昨夜、うさぎの説明で、警察関係の総てが、敵という印象が拭えない今、信用できる身内を用意したのだろう。大塚明美は、神奈川県警所属の婦警だと、大塚が耳打ちしていたからだった。
「須藤長官は、神奈川県警出身ですから、
祷は、タマエをみせるために、明美に手招きをした。自然に近付いた、明美の耳に、
「別件の容疑者が、須藤長官の学閥らしいからです。筒抜けに注意して下さい」と、耳打ちした。覗き込む仕草の夢が、利き手の人差し指を口に当て、盗聴器が仕込まれていることを教えていた。
それを理解させるために、
「事件に遭遇した、
「その為に、管轄外の
「警視の身分を持つ婦人警察官は、そう居ないですからね」
「明美さんは、キャリアだったんですね。無礼はお詫びして措きます。ご免なさい」
「星産業の養女になった、夢さん、ですよね」
「高慢ちきな女性と、明美さんは想っていたようですね」
「そう云われる、
「
「解りました。不正が働かないように、
明美は云って、闘志を燃やすことを、瞳で語っていた。
これといって、目ぼしい成果を残さずに初日を終えた。女子会にも似た女の園に
配電盤のブレーカーが落ちていたのを、三名を別荘に連れて行った警官の一人が上げた、という事実が判明したことと、米が絶命したのは、出血性ショック死で、死亡時刻が、午後一時頃と推定されたことだった。松本は、黙秘権を貫いているらしい。
ホテルの部屋までついてきた時に、
「足場がないくらい散らかっていた納屋を、潔さんが一人で片付けた理由は、几帳面な性格だったからなんだろうね」と、夢が思い出したように口にした。
「確かに仕事は几帳面でしたが、借金で首がまわらなくなり、日払いだったのですよ。完成した時には、整理されていませんでした」
「網に鉄板、フライパンまであったわよ」
「それは、
「
「ちょっと待って、納屋に立て掛けてあったものはどれも、新品だったわ」
「そんなはずはないよ。使わなかった道具はなかったよね? 大塚さん」
「洗って片付ける、といったのは、米さんでした」
「まさか? 米さんが洗わずに捨てて、新品を買って措いた、なんてことはないはずだもんね」
「もしも、もしもだけど、誰かが新品を用意していたならば、米さんは納屋に入った瞬間に、違和感を覚えて立ち止まったはず? よね」
「立ち止まったら、どうにかなるの? 確かに殺害しやすくなるけど、吹き矢を放つには、正面から放つ方が射ぬく確率は高いよね」
「
「狙えるよね?」
「ちょっと待って下さい。上から斜め下に、
「殺人に、建築家は関係なく、なるよね? 大塚さん」
「松本さんが、米さんを殺害する理由があるとすれば、溜め込んだへそくりに目が眩んだ? とかですからね」
「松本さんが命令下で殺害したならば、借金は帳消しになっていても可笑しくないわよ。桔梗家という銘菓があるわよね? 山梨県には」
「松本さんが、命令下で殺害するなら、建築家の道具を使った方が実行しやすいよね。そういえばレーザー光線を張って仕事をしていたような気がする。縦と横を交差することが出きるから、って光線を発する機械を自慢してたわ」
「建築道具なら、人体に被害がないことが、基準になっています」
「電気って、帯電させることで、熱として貯められるわよ。IHなんて宣伝しているからね。レーザー光線を反射させる際に、貯めた熱を乗せたなら、人工稲妻にならないかな?」
「明日、
「盗聴されているかも知れないから、ここに呼んで連絡してもらった方が良いんじゃない」
「そんな遠回しをしなくても、今ここに、なんちゃって科学者が居るんだけど?」
祷の意見で、タマエが注目の的になった。素知らぬ姿を晒す、タマエはベッドの上で毛繕いに励んでいた。
二十九
「ねぇ、タマエ。科学の知識を借りたいんだけど?」夢は、
タマエは居住いを正す? かのように座姿勢になり
『推理を話して下さい』と、思念を拡散した。
夢は自信なさそうにして、眼を逸らしていた。
祷も自信は無かったが、レーザー光線で殺人できるのか? という曖昧な部分を聴き出すために腹を括って、仮説の推理を語り始めた。
「松本さんが犯人とするならば、今のところ動機が曖昧です。それでも、右上腕から左脇腹へ貫通させたものがレーザー光線なら、凶器が重なります。それで考えた動機は、米さんが敵の手の内の者という可能性です。松本さんが借金で首が廻らなかった、というデマを拡散した張本人なら、動機には充分なはずですから」
『それで、
「光で、眼が
『人が死んだ時の火葬は1600℃ですが、火事で死ぬ方は、1600℃以下です。それは、死という条件が火であって、熱ではないからです。もちろん、高温の熱も人を殺すことはできます。しかし今回は、直径一ミリ程度の線上のものですから、光線というのが正解です。
ガスコンロの火が、色で温度を証明していますが、殺人光線にするための温度は推定、五百℃以上というところでしょう。貫通時の温度は、
「可能、ということなんですね。ありがとうございました」
祷は勝手に終わらせたが、夢と、大塚は口を挟む余地もなかった。
「大塚さん」
「了解です」
「簡単に了解して、大丈夫なの? 大塚さん」
「前に話しましたが、K大学教授の顧問弁護士ですから、敵に悟られずに連絡できます」
「宜しくお願いいたします」Ⅹ2
「後は、米さんの遺体が、荼毘に伏さないうちに、ことを進めなくては、意味がなくなります」
大塚は云って、部屋を出て行った。帳が放つ睡魔に抗えなくなった、
「お帰り」
「ただいま。って、起こさないように出て行ったつもりなのに、起こしちゃったかな?」
「タマエに起こされたの。
「良かった。腹ごしらえして、今後の想定だけはして
「そっちの袋は?」
「脳を酷使するからね!」
夢は意味深に云い、ベッドの頭方向に腰かける。タマエはそれで、一目散に
三十
切り出したのは、夢であった。
「米さんは、佐々木が、
「そうなるわね。
「それは、大塚さんに確認する案件だね」
「そうだとすると、松本さんは留置場で、殺害されるかも知れないね」
「自殺? の名目しか考えられないよね。でも赤瞳さんは、別荘に戻った時に殺害されるって云ってたよね」
「矯正力には、イレギュラーもあるはずよ」
「桔梗家は味方なんだから、松本さんが殺されない方法を考えてないのかな」
「亡き
「犠牲者を出さないためなら、それもありだよね」
「ねぇ、タマエ。人が死なない世の中にするための手段は、必ずあるはずだよね」
祷は不意に、タマエに言葉を投げ掛けた。
タマエはそれで、スフィンクスのようにうつ伏せになった。体内での葛藤は眼に見えないが、
束の間の
『役者が揃わないと、幕は開きません』
「足りないのは、
「他に居ないもんね」
『明日。揃えるために、別荘に戻ると告げてはどうでしょうか?』
「ただ告げるだけじゃ、揃わないんじゃないかなぁ」
「第二の殺害の予告状を作っちゃおうか?」
『それもありですね。予告状に従い、防犯カメラを設置させれば、動き次第で、主犯格を晒せますからね』
「晒さなくても、解っているよ。その本意はなに?」
『佐々木と、星一徳の仲間割れを起こさせます』
「仲間割れ?」
「それで、桔梗家の存在が消えるの?」
『刑事もしくは、警察官が殺されれば、国家権力の「力づく」が生まれます。そこに正義が存在しない以上、須藤さんが
「内閣府が動くだけで、警察組織を潰せるの?」
『潰すのは、佐々木一派だけです』
「須藤さんの学閥が、生き残れなかった場合は?」
『その為の、内閣府なんです。内閣調査庁や公安調査庁も手を出せませんからね』
「省庁の垣根ごと、黙らせるつもりなんですね」
「そんなことできるの?」
「冊子では、総理大臣や、官房長官ごと、仲間に引き込んでいましたよね」
『権力者と謂うものは、騙し合いが常套手段なんです。理想を語る上では、手を染めないと、ダメなものも、あるようですからね』
「だから派閥を組むらしい、ですものね」
「でた出た、雲海家の
『培った絆は、容易く切れませんからね』
その言葉に、祷が照れくさそうに、笑って誤魔化していた。
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