第6話
十六
子供心を思いだそうとしても、擦れてしまったことで、曖昧な記憶になっていた。大人たちは知らず知らずのうちに、
『
降り注ぐ日差しに乗り、思念が注がれてきた。
『卑弥呼さんの優しさが、ヤヌスの鏡であり。己れを知りなさい、と教えたものです。
それが、類は友を呼ぶの謂れですから、身に積まされているはず。心という
誕生日は、産まれたことを祝うだけではなく、
総体的にみれば、矯正力が存外な被害をもたらす理由に繋がっています。それさえも、感性が電磁波に乗せて教えてくれていることに気付いていません。気付くだけで、被害が少なくなるのですから、誰もが理解するべきなのです。
今一度見直して下さい。人が人であり続けるためには、どんな形であれど、生き永らえなくてはなりませんから』
「ありがとう、うさぎさん」
夢が想いを通わせて、うさぎの名を口にしていた。
そんな夢を横目に、
「それでも可能性を見出だした理由は、
『神々の降臨が、
「ある時?」
『地獄で浄化された悪意が、地上に循環され始めた頃からです』
「だからミレニアムを境に、ブラックホールで還元するように
『その意図は、感性だけのものです。結果を知るのは、まだ
「その先読みを、教えてよ、うさぎさん」
夢の無茶振りに、親たちが眼を剥いていた。
『その一説が、人類の滅亡です。理想と現実の境界線が曖昧になったのは、地球の滅亡に繋げようとする企みなんでしょうね』
「
『戦争なんて、している場合ではないのですよ』
「そのうち、台風やハリケーン・竜巻などで、戦争ごと飲み込むんじゃないかな? その前に、命の
『
「また、図書館で調べて措くね」
『ならば、人を
「生贄?って、命を奉納した、ことだよね」
『神と悪魔が一緒件にされた理由ですからね』
「そこに、二極性の謎が、隠されているんだね」
『想いを履き違えたから、迷信が生まれています。堕天使となった神は多くいますが、傲慢が蔓延した理由に、繋がるはずです』
「解った。心掛けてみるけど、古い書物はないかも知れない。その時はどうすれば良いのかなぁ」
『感性が、導いてくれます。信じる心は、魂と
「と、なると、
『肝に銘じることはひとつだけ、です。「最後の最期は、自分で決断して、命を
「解った。今日は、ありがとう。三対二の矯正力に打ち負かされるのを、掬ってくれて」
「救うじゃないの? 夢」
黙って聴いていた、栞が思わず口を挟んだ。
「
唖然に捕らわれる親たちも、現実の風に晒されていた。此処に居ない、うさぎと掬われたふたりが心を通わせて、天真爛漫な笑顔を覗かせている。昼間に観ることのできない光景は、レンズ星が一役かって、空気が結晶のようにキラキラ輝いていた。
十七
新年を迎えた、ある日のことである。祷は、不穏な空気を感じ取っていた。前に図書館で立ち眩みを起こした時に、心に、女神が降臨していたが、それに気付いていない、ということであった。不穏な空気感は、疎通を交わすことのできる、夢にも伝わっていた。
離れた場所に居るふたりへ
『期は熟しています。後悔に打ち菱がれたくなければ、疎通の完了を目指して下さい。ご加護を受けるだけの善行は認められています』
痺れを切らしたのは、余りの歯痒さに業を煮やした女神のほうだった。うさぎを利用する経緯は、ふたりに伝えてないが、幽体離脱した時に、同胞になった謂れを残していた。
人が因業を背負うのは、優先順位を見間違うからで、未来を容易く確認できないからである。経験の少ない子供たちは、それを糧にできないからだ。人それぞれに違う経験をするのは、好機という巡り合わせに左右される。人生の醍醐味は、ひとりの不安時に、試されることが多い。
不穏が不安に変わったのは、中学校の制服を
その確認を怠ったために、卒業式に慌ただしくなる。紬と、博海が、式典に遅れて出席することになったのは、矯正力にほかならない。矯正力の発生は、強盗に扮した
そんなことも知らずに式典を終えた栞が、姉夫婦の姿がないことに気付き、夢に寄り添って、祷の同伴で学校を後にし、雲海家にやってきた。
火事場は収まりを見せていたが、
祷は、
「予想だにしなかった。今想えば、不可解な影を捉えていたのに」と、後悔を口にしていた。
博正が帰らぬ人となってから、当たり前の日常に馴れてしまい、日に日に油断が蓄積されていった。
焼け落ちた宮舎の柱に、黒焦げになり括り附けられた、紬の亡骸を眼に焼き付けても、
集まった野次馬たちが、「ご亭主の浮気で、大喧嘩になり、火をつけるに至ったらしい」という陰口にも聴こえる中傷が、喧騒のなかに飛び交っていたが、それすらも戯言として、右から左へ聴き流していた。
小学生の祷は、想いに分別がつけられなくて、当たり前であった。心が聴き流したことを、脳が無意識に留め、反射神経で逃げるようにして、その場をあとにしていた。
夢がそれを追い、先に追い着いた、栞に抱き支えられて、天命家に連れて帰らされていた。
身近に温もりを感じたことで、
「今想えば、狙われていることを認識していたのに、なんの手立ても講じなかった。油断を招いたのは、流れた時間に
「
「これが結果だから、受け止めることにする」
「罰を受けてもらうために、真相を明らかにする? んだよね」
「今は無理。
「なら、泣き寝入りするの?」
「運良く、乙女は
「あの状況で、確認していたの? 祷は」
「敵の次の一手を予想しなければ、
栞は、祷の気丈な一面を見た。夢は、『産みの親よりも育ての親、だもんね』と、想いを重ねていた。この件に関しての、期は熟していない。今するべきことは、白日の下に
十八
祷と、夢が同じ中学に通うようになり、生活苦を理由に、星産業(株)の弁護士と名乗る、
急成長を遂げた、リサイクル企業の星産業は、十二神将に入門を望んでいたが、古参の名家からの反対で、
根っからの強突張りゆえに、目の前にぶら下がる、名門・名家という
栞は、祷と、夢に相談して、星産業の役員になることを決めた。十二神将の
桔梗家は元来、守護の血筋で、明智光秀を排出している。その傘下に鎹家がある。家紋の桔梗は、橘田家の橘の家紋と並び、守護職を担っていた。非公認の神宮は焼かれてしまったが、家宝である古文書(巻もの)は橘田家が隠し持ち、由緒を司るものは鎹家が隠し持っていたので、何一つ失っていなかった。
天命家の倣わしが、必要なものほど、埋葬してしまえ、であったからだ。それを遠回しに教えるために、『土に帰る』が、暗黙の了解となっていた。人は懲りない生物と教えたのは他ならぬ、卑弥呼であった。ただ、何がどこに埋まっているのかは、誰にも継承されていない。博海が、うさぎに拘ったのは、それを手解きしてもらうためでしかない。口癖と云える、命で相殺できないか? は、
紬は紬で、内心を計り知れなかった若気の至りを悔やみ、一粒種を抹殺している。『どうせ女子しか埋まれないなら、栞の子供を実子と想い定め、一族の戒律を根絶やしにしよう』とさえ考えたのである。その因果は、甘んじて受け入れるつもりでいたから、博海の口癖を咎められないでいた。
栞は、幾筋もの
子供の成長を目の当たりにするに連れて、
人の世に終わりがあるとて
ときに終わりはなかりけり
と記載された冊子に、想いを重ねる始末になっていた。
第一部 完 第二部につづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます