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「ねぇ、ソウ…あの時、あなたが入って来て、私が

 どう思ったと思う?

 あぁ、私は…この人を待っていたんだって思ったのよ」

 彼女はさらに声を詰まらせて、ヒラヒラと白い腕を振る。

「あなたも、そうでしょ?

 私に会いたかったんでしょ?

 だから…あなたはここに来たのよね?

 私を探しに…」

彼女が、爽に向かって手を差し伸べる。

ドンドンドン!

扉を激しくたたく音が聞こえた。


「誰だ?」

 すぐに動こうとする。

「ダメよ!」

鋭い声が響き…いきなり凄まじい力で、爽の腕を引っ張る。

「えっ?」

何があったのか、わからない。

尋常ではない力だ。

まるで人間離れしている。

凍り付いたように、思わず彼女を振り返る。

 そこには…キツネのお面をかぶった女が立っていた。

「えっ?」

 キツネのお面?

その時、爽の頭の中で、何かが稲妻のように走り抜けた。


「あの時の女の子って…やっぱり…キミだったの?」

勝手に、言葉がこぼれ出てきた。

「そうよ!やっと…思い出してくれたのね?」

その女は、長い髪を逆立てて、爽の腕をグイグイと引っ張ってくる。

「私…あなたと約束したよね?

 10年後…また、ここで会おうって…」

それは、思いがけない言葉だった。

「あれは、夢じゃあなかったんだ…」

繰り返し、繰り返し、何度も何度も、爽の頭の中で再生されていた

あの言葉…

「そうよ」

ピシッ…

何かがはじける音がする。

目の前のキツネのお面に、亀裂が走る。

ピキピキと音をたてて、そのお面がひび割れて、真っ赤な唇が大きく

横に、にぃっと開く。

「さぁ、ソウ…こっちへいらっしゃい。

 そんなに、怖がらないで」


 その時、ドンドンドン…と、激しく扉が揺れる。

 バン!

大きく音を立てて、その扉が開かれた。

パッと明るい光が射しこむ。

そこから、キツネのお面をかぶった男の子が、勢いよく飛び込んで来る。

(えっ?あれは…だれ?)

その時、女の手の力が、一瞬抜ける。

(今だ!)

爽は震える足を、遮二無二動かして、扉の外へと躍り出る。

「ソウ、待って!

 だまされては、ダメよ! 

 あなた…鬼に捕まるわ」

女の叫び声が、爽の背後で響いた。


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