月末

小狸

短編

 月末というものは、おしなべて憂鬱ゆううつである。


 その月の集積が、一気に押し寄せてくるのである。


 そういう職業に就いているせいだ――という反論も聞こえてくるけれど、こちとら好きで仕事をしている訳ではない。ただ生活のために仕事をしている。生きるため、税金を払うためだ。世界がそういう仕組みになっているからだ。もしそういう仕組みがなければ、私は仕事などせずに全てを投げ出して洞窟で一人読書をしているだろう。


 まあ何を言おうと、やるべきことというものはある。


 それをやらずにおいたツケは、後々に来るものであり――そしてそれが月末に襲ってくることは、ある。


 詳しい職業名については、個人情報保護の観点から伏せさせていただく。


 この時世、どこから身元が特定されるか分かったものではない。


 そんな中で、当たり前のように実名でアカウントを作成している中高生などを見ると、自分が考え過ぎなのではないかという錯覚に陥ることがある。


 いや。


 ともすると、こういう感情こそが、「最近の若者は」という例の文言に繋がるのだろうか。彼らは当然のように公開非公開を切り替えたり、複数アカウントを所有していたりと、私たち大人の予測を上回って来る。まあだからこそ、犯罪の温床にもなってしまうのだろう。


 犯罪――少年犯罪。


 最近少年犯罪が増えただの何だのと偉い人々は言っているけれど、何不思議なことはない――それは元々報道されなかった少年の犯罪が、この監視社会によって顕在化したというだけの話なのではないか、と思っている。


 まあ、だからと言って犯罪を許容しようとは、私は微塵も思っていないのだが。


 赤信号は止まる。


 それは、皆がやっているからとか、集団心理的な理由ではなく、私個人の主義である。


 ちゃんとしたい、という主義。


 私は完璧主義者に近しい部類なのだろうと思う。


 だったら仕事を残さずにやれよという話なのだが――まあ、その辺りはご愛敬である。私は偏りのある完璧主義者なのだ。


 面倒臭い生き物だなあと、自分で書いていて思う。


 本来はこんな駄文を書いている場合ではないのだ。


 もっとやるべきことがある、するべきことがある。


 その「べき」の重圧に耐えかねて、こうして思考の残滓ざんしを残しているというのもある。


 きっとこれは、よどみなのだろう。


 完璧主義という濾過ろか装置の横で渦を巻く、淀みだ。


 ならば私は汚物を世に公表していることになるが、果たしてどうなのだろう。これを読む人は、文字列に対して汚いなどと思うものなのだろうか。退屈だ、とか、無意味だ、とかは思うけれど――汚いと思うことも珍しいのではないか。


 などと、そんなことを思ってみる。


 気付けば時刻は四時半を過ぎている。


 今日もまた、外出しそこねてしまった。


 不健康極まりない生活である――鬱々としているのなら散歩すれば良いのに、と過去の自分に指摘してみる。


 最近は何かと世は物騒である。


 少しずつ日の傾きも早まって来たし、図書館の貸出期限もまだ先である――うん、今日は外出は諦めよう。


 諦めは早いつもりである。


 その分引きずるるから、余計始末が悪いのだが。


 さて。


 夜が深くなる前に、積まれた仕事をやろう――と思い。


 私は机に向かった。


 令和五年の、九月三十日のことである。




(了)

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月末 小狸 @segen_gen

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